GH二次小説「椿姫の棺・一章」(7)
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麻衣達が飛び石を渡り、庭に続く道を歩いて行くと、目の前に大きな蔵が現れた。
「なんか雰囲気ある……」
蔵を見上げた麻衣のつぶやきに、奈緒が土(ど)蔵(ぞう)の壁をなでながら答えた。奈緒の表情はどことなく暗い。
「この蔵は、監修をした鬼藤氏の家から移築したものだそうです。鬼藤氏の強い希望だったそうです」
「へえ。そうなんですか」
そのとき、蔵の屋根の下にあいた窓から、人影がのぞいたように見えた。驚いて、目をそらす。
……何、今の。
もう一度見る。今度は人影は見えなかった。生ぬるい風が腕をなでたような気がした。
麻衣はかすかに身を震わせた。
3人は蔵の中に足を進めた。
中は湿気がまとわりつくようにむっとしていて、微かにカビのようなにおいがする。天井に渡された梁には蜘蛛の巣がかかっていて不気味だった。
蔵の中を見回すと、物が雑然と並べられた中に人形と動く絵が設置されており、おどろおどろしい音声が流れていた。
奥の壁に、正面に横長の台が設置された、ひときわ大きな椿の絵があった。絵の前まで来た麻衣は、温度計を見て不安げにつぶやいた。
「なんか、ちょっと温度が低いかもしれない」
麻衣に奈緒が不思議そうな視線を投げかける。視線に気付いた麻衣は説明を始めた。
「霊が出現すると、その場所の温度が下がるんです。だから、定期的にこうやって温度計で測るんですよ」
麻衣がにこっと笑いかけた、その時だった。パン、と何かが弾けるような乾いた音が何回か聞こえた。
「今、何か音が……」
麻衣は辺りを見回した。
「家鳴りじゃ無いですか? この蔵は古いですし」
そうですね、と奈緒に言いつつ、麻衣はナルの顔を見た。ナルも堅い表情で周りを見ている。
……ひょっとして、ポルターガイスト?
「あの……」
奈緒は何かを言いにくそうにしていた。
「あまり気を悪くしないでほしいんですが……」
「え?」
麻衣の顔に困惑の色が浮かぶ。
「実は、遊園地側が呼んだ霊能者の方が、もう一人いらっしゃるらしいんです」
「あ、かまいませんよ。そういうことってよくあるんです。依頼者さんも必死だから」
言いながら麻衣は微笑んだ。麻衣の何でも無い様子に、奈緒は安心した様子だった。
――ちょうだい。
――あなたの。
「え?」
声が背後から聞こえたような気がして、麻衣は蔵の奥を見た。しかし、誰の姿もない。
「麻衣。遅い」
蔵の入り口から響くナルの冷たい声に返事をし、彼の後を追いかけようとする。
その時だった。パン、と何かがはじける音が立て続けに聞こえた。そして、ぐいっと後方に腕が引きつるような感覚。続いて激しい痛みを腰に感じる。
一筋の光も差さない暗闇の中、一歩遅れて自分が蔵の中で尻もちをついたのだと分かる。
入り口は閉まっていた。おかしい。閉めた覚えなどないのに。外から誰かが閉めたのだろうか?
中から、何者かに引きずりこまれた? 頭が状況を理解すると、背筋にぞわっと嫌な感覚が走った。
早鐘のように動く心臓を何とか押さえようとしながら立ち上がり、手探りで扉を探し、取っ手に手をかける。引き戸はびくともしなかった。
「麻衣!! どうした?」
外からナルの声と、扉を叩く音が響いた。麻衣はこらえて扉をたたいた。びくともしない。
「何で!?」
そう叫んだ瞬間、背後からソワリと冷気を感じた。おそるおそる背後の気配を伺う。
……何かいる?
にゃーお。
それが猫の鳴き声だとわかるまで、少しの間があった。部屋の奥から冷気が流れてくる。霊が現れると、室温が下がる。さっき奈緒に説明したばかりだ。
蔵の奥。最初は白い点が見えた。それが二つ、三つと増え、増殖していく。白い無数の粒子が集まり、それが段々人の顔を形作っていく。
やがて闇の中に浮かび上がったのは、人形のような美しい少女の顔だった。生気を感じない、美貌。白い顔に、雪の上の紅い椿のような唇の紅(くれない)色だけが鮮やかに浮かび上がっている。
それがスウッと音もなく、床を滑るように近づいてくる。
逃げろ。体中が振るえ警告を発しているが、体が動かない。叫び声を上げたいのに、喉から漏れるのは震える息だけだった。
――ちょうだい。
鈴のころがるような声が聞こえた。
――あなたの、からだ。
麻衣のすぐ近くで、少女の白い顔が微笑む。
少女の差し出した白い手が顔に触れ、自分の体にズブズブと沈み込んでゆく。
ぞわり、と指先から麻衣の皮膚に寒さが伝染し、それが全身に広がっていく。がたがたと震えだして止まらない自分の体をぎゅっと抱いたが、その震えが止まることはない。体が言うことをきかない。体が人形のように硬くなっていくのがわかった。
目の前が真っ暗になると同時に、頭の中にいくつものイメージが浮かぶ。
――雪化粧をした椿の咲く庭。
――雪の降る空。
――泣き叫ぶ、男の顔。
……これは、一体?
闇の奥で少女が微笑むのが見えた気がした。
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つづき→【GH二次小説「椿姫の棺・一章」(8)】
※この小説は、8月18日コミックシティ大阪で委託販売予定の、GH二次創作小説「椿姫の棺」の一章です。 試し読み用に、一部公開しています。
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