街路樹の枝を揺らせて、雪おこしの風が吹く。
(うう・・・冷たい風・・・。今日に限ってこんなに寒いなんて・・・)
コートの襟元を寄せながら、空を見上げると灰色の雲。
やっぱり今夜には、きっと雪になる。そう思った。
急がなきゃ。
待ち合わせまではまだ15分あるけど、きっと彼は先に来て待っている。
私が、彼を見つけた瞬間、嬉しそうな顔をして駆け寄ってくる。
その顔を見るのが好きだから、と、彼は必ず早めに来て、
私が来る方をじっと眺めて待っているのだ。
(私からすると、待ってる彼の顔も、十分可愛いんだけど。)
ふふ、と一人口元を緩めながら、待ち合わせ場所のお店にやっと到着する。
(どこかな・・・・。あ、いたいた、発見・・・。)
コーヒーショップの窓際の席に、姿勢よく座っている彼の後ろ姿。
きっとあれは、いつものブラック。
豆の香りを味わわなくて、珈琲を飲んだとは言えない、といつも言う彼。
カップを持ったまま、斜めに座って長い足を組み換え、まだ外にじっと視線を向けている。
私が走って来るのに気づかなかったのだろう、店の扉の方を振り向くことなく、
そのままカップを口に運ぶ彼に思わず見惚れていると、店員さんに声をかけられてしまった。
『おひとりですか?』
『あ・・いえ、待ち合わせで・・・大丈夫です。』
そういって、案内しようとする店員さんをやり過ごし、彼の座る席へ向かう。
さて、何て声をかけようかな。
『・・・おひとりですか?』
さっきの店員さんのように、彼の後ろから静かに言ってみた。
『いや、連れがもうすぐ・・・』
ゆっくり、カップをソーサーに置き、振り向く彼。
『・・・○○・・・お前、いつの間に・・・・。』
『ふふっ、今日は私の勝ちですね!』
『・・・・ふん・・・・俺がお前に気付かなかったとはな・・・。』
不本意そうな顔をして、残った珈琲を飲み干す。
満足げに笑っている私を、カップに口をつけたまま上目遣いで見つめ、
『そこに座れよ。』とでも言うように、自分の隣の椅子を、座ったまま引いてくれる。
切れ上がった鋭い双眸。黙っていると誰も寄せ付けない雰囲気を醸し出してしまう彼だけど、
ちょっと素直じゃないだけで、本当は誰よりも優しい、甘い人だと私は知っている。
『だって今日は女の子にとって特別な日だもん。
今日くらいは、私が高杉さんをドキドキさせたっていいでしょ?』
ちょっと余裕を見せて、椅子に腰を下ろしながらそう言った途端、力強く引き寄せられて、
彼の胸に飛び込むような形になってしまう。
動揺する私のこめかみに、彼の薄い唇が近づいてくる。
『・・・言ったな?それじゃあ、今日はどんな風に楽しませてくれるのか、期待してるぞ。
・・・もちろん、そのお返しもたっぷりしてやるからな。』
くくっと喉を鳴らしながら、そこへキスを落として離れていく彼。
Wishing you a Happy Valentine's Day because you are very special to me.
―――― あなたに幸せなバレンタインデーを。
だってあなたは私にとって、とても特別な人だから。