blue-moon7thさんのブログ
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禁恋小説~恋と欲望の硲.最終話











…………………………………………………………
……… … ………
………………
… …


教師の顔を崩さず俺を咎める声


弾け飛んだ釦の頬を掠めた感触


オレンジのマグから立ち上る湯気


叩き付ける雷音


微かに揺れたグリーン


胸に深く吸い込んだ百合の香り




アナタガ スキ ツカマエテ



唇が動く




あの夏俺はアンタを見続けていた








いや違う








本当はもっとずっと前から















*
目を開けて一番に飛び込んで来たのは母親の泣き顔だった。

心配そうに俺の顔を覗きこむ父親と、こんな状況にも関わらず俺の額にデコピンして「アホが!」と罵る兄貴…黄ばんだカーテンから射し込む光に消毒薬の匂い。

久し振りに俺は心からの安心感に包まれていた。




あの時留美は俺が死んだと思ったらしい。
パニクって深國に電話して、驚いた深國が警察と救急車を呼ぶよう留美に指示したんだと。

深國が飛んで来た時には安斎は血塗れの俺の隣で、石のように固まって身動き一つ出来ない状態だったようだ。


深國がクラスの奴等が皆見舞いに来たがってるって言ってたけど
(クソ眼鏡まで!)
断わって貰った。

照れくさいし…
第一奴等の顔見たら泣いてしまいそうな自分が居る。

一度深國に連れ立って留美も見舞いに来た。



『ごめん…ごめんなさい。私のせいで…こんな…』


「留美のせいってゆーか…まあ今回は自業自得ってヤツだ。」


「そうだね~。二人とも此に懲りてオイタは控えるんだね?」


泣きじゃくる留美の頭をあやすように深國が撫でた。



『姫川さん具合どうですか?
点滴替えますね!』


看護士さんがワゴンに乗せた点滴を運んできた。慣れた手付きで次々と新しいものに交換していく。



「留美ちん送りながら俺も帰るわ。大人しく寝てなよ~。そしたらきっと良い事もあるからさ!フフ…」


腕から伸びる何本もの管を見ながら深國が呟く。


「色々悪かったな。サンキュ!
クラスのみんなに宜しく伝えてくれ。」



「クラスのみんな…ね♪了解~」





二人の背中を見送ると俺は目蓋を閉じた。







小夜子のヤツ来ないな。

考える時間が有りすぎて、ついアイツの事を考えちまう。

あの夜聞き取れ無かった声…


‘アナタガ スキ ツカマエテ’


こんなの傷に魘されて(うなされ)見た、都合の良い夢でしかないのに。


『未だ熱が下がらないかな?後でもう一度熱計りましょう。』


少し荒れた指先が額に触れた。


「…………」

『姫川さん寝ちゃったんですか?何か合ったら呼んで下さいね。』



ガラガラガラ…

ワゴンの音が遠ざかる。
本格的に眠くなって目を開けるのが億劫だ。






……百合の香り?

消毒薬の匂いに混じって百合の花が匂った気がした。
へへっ…又アイツの夢でも見るのかな?



忘れようと足掻いてさ
柄にも無い事して
…それでも結局思い浮かべるのはアンタの事で

俺ガキだから割り切るなんて無理なんだよ


せめて

せめて夢で見るくらいなら
良いよな?










誰かが俺の顔に陰を落とす。
華奢な手で頬に触れる。


看護士の手じゃない…
この指の温もりは…



ポトッっと幾つも水滴が俺の目蓋を濡らして。



その時あやふやだった記憶が確信へと変わった。


近付いた百合が徐々に離れ行く。



早く目を開けなきゃ


眠気の誘惑と必死に戦いながら、俺は針の刺さって鉛のように重い腕を動かした。



捕まえた華奢な手首



もう離したくない






「…遊び相手に涙流してんじゃねぇよ。」



『!!』

「小夜子」



名前を呼ぶと小夜子は溢れる涙を拭おうともせず、俺の傍らに膝を着いた。


「俺、もう迷わねぇ。オマエが何処に逃げたって捕まえる。嫌だって言っても追い掛けるから…」



だから




遊びだなんて言わないでくれ







俺と恋をしよう?








決して声を立てずに、小夜子は静かに静かに泣き続けた。
俺の手を握りしめたまま…
そして俺から目を逸らさずに一度だけ大きく頷いた。




『私はね…教師なの。大人なの…だから教え子を好きになるなんて絶対!有り得ないと思ってた。
でも…深國君から、貴方が刺されたって連絡貰った時、貴方を失うんじゃ無いかと思った時…自分の立場なんてどーでもよくなっちゃった。
自分が必死になって守ろうとして来たものよりも、もっと大切な事があるって…我慢出来なくなっちゃった。
ふふふ…馬鹿だよね。』



泣き笑いで俺の頬に触れた指先を、俺は握りしめた。



「結構痛い思いさせられたんだからな!
この借りは退院したらキッチリ返して貰うから覚悟しとけよ?」


『借り?』

「ああ…/////
ちょっと耳貸して…」


『何?』





首を傾げた小夜子を引き寄せ小声で囁く。








「愛のあるエッチたくさんして貰うから覚悟しとけっつーの!」


『////馬鹿…』


「へへ…」『ふふふ…』


小夜子が笑う。
俺も笑う。



『愛なら最初から一杯あったよ』







二人で




もう一度






あの夏から始めよう












2009.10.18.16:52



☆あとがき

7月から描き始め、最初1話完結の筈が3話…3話の筈が5話でも終わらないと云う、長編になってしまった。オマケに8月頭アップ予定が大幅にズレて、ラスト投下には10半ば(*_*)

姫川君は本当に手の懸かる男の子だ。
姫川君は苦手意識が強く、アプリをやっても今一ムカッ!として(笑)キュンにならない。
そんなこんなで旧アプリは恋愛グッドで放置(^^;)
だもんで姫ちゃんの魅力は、旧Q友様達や恋凸禁恋作家さん達から教えて貰ったようなものだ。


こんな魅力的な姫ちんが沢山書かれてるんだも~ん。
今更、苦手な私が手を出さなくてもいーさ!
…だから私の禁恋小説に姫川君の出番は殆んど無い。
主役を張ったのはバースデーシリーズと(でもヒロイン目線)誕プレ小説(響先生がメイン)の中でチョコッと出てくるだけ。あとは初期の読み切り。一応主役だけど、姫ちゃんが子供の時に飼ってたヒヨコの思い出をヒロインに語る…と云う、色恋沙汰からは遠く離れた小説だった。

最後に姫ちゃんを小説に登場させてから1年。
私の挑戦意欲がムクムクと沸き上がる。


姫ちゃんを料理したい

ルビィの味付けで、ピュアでも無くガキ大将でもない泥々した世界に彼を放り投げてみたい


夏・クラブ・一夜の遊び・衝動・弾丸・アンダーグラウンド・誘惑・ムラムラ…

これらの暗号と共に途切れ途切れのシーンが浮かんだ。

冒頭からヒロイン・小夜子登場まではスムーズに描き進む。
しかしヒロインが…私が思っていた以上に頑固で、姫川君に靡(なび)かない。
執筆が行き詰まり、気分転換に姫ちゃんのアプリを開始する。

取り敢えず旧友さんの攻略日記を元に恋愛ハピエンを迎えた。

続き続編へ!

続編に姫ちゃんのアルバイトシーンが出てきてドッキリ!花屋で週3のバイトしてる設定で、恋欲は1話目をアップしちゃったし…もし違ってたらヤバイ(・・;)

だからアプリの姫ちゃんもキッチリ花屋でバイトしてくれてて助かった。(ペットSHOPと悩んだけど正解だったね)

そして続編アプリは自力でハピエンへ♪
姫川君の愛を充電して、せっせと描き続けた。

あとはヒロインがどう動くか?

この守りの固い現実的なヒロインはどうしたら(何を切っ掛けにすれば)腹をくくって姫川君と恋愛をするんだろ?

ヒロインをつつくのに最適なのはやっぱり深國君だった。

「大人ぶってると本当に大切なもん失うよ」

これを後半に繋げるキーワードとした。
…途中ウジウジしてる姫川君を動かしたのは芹沢君。
最初あそこは素直に小早川君が登場する筈だった。
でも!何だか姫川君と対峙させてみたくて急遽変更した。
新人の碧くんも正直書いてみないと、どんな言葉を姫川君に投げるか解らない。あのシーンは書いてて楽しかったな。


最後に
この連載を楽しみに読んでくれた読者の方々・コメくれた方・アンケにご協力頂いた方・イチゲンさんも含め、ルビィのホームにご来訪頂いたユーザーの皆様に感謝いたします。


有り難う御座いました。


ルビィ

禁恋小説~恋と欲望の硲.⑥

欲しいものを素直に欲しいと言えなくなったのは何時から?


これが多分大人になるという事


我慢した分だけ
諦めた分だけ


私は大人になる








違う


本当は怖いんだ

傷つけるよりも傷つく事が


これでいい



私は傷つかない








私は冷えた缶コーヒーをグビリと煽った。

今年は秋の訪れが早い。
夕暮れの風は冷たく、どうしてホットを選らばなかったんだろうと後悔した。



「珍しい~ねぇ?先客だ。」


屋上の鉄扉の前に深國明彦が立っている。

ちっとも気が付かなかった。
足音もなく現れてまるで猫みたい…それとも気付け無い程私は考え事に耽っていたのだろうか?


「どうしたの?黄昏ちゃって」


『ふふ…秋だから?乙女な気分に浸ってた。』


「ふ~ん?乙女ねぇ(笑)」



近寄って来た深國君は鉄柵に寄り掛かると、チロッと笑いを含んだ一瞥をくれる。


「…そう言えばさ、最近姫ちゃんうちのクラブによく顔出ししてるんだわ。」


『…へぇ…そうなの?』


「留美ちゃんと仲良いみたいよ」



留美ちゃん?

…多分あの娘だ。
野々原君にキスしてた従業員。



『プライベートに口出しする権利は流石に教師でも無いしなー。
いんじゃない?その…不純異性交遊とか、そう言うのは大っぴらには不味いけど。』


「ふふん。相変わらず物分かりが良いねぇ~。」



ちゃんちゃら可笑しい…
よりにもよって「この私」が不純異性交遊は駄目だなんて。



「まっ、俺としてはののに目ぇ付けられるよりはマシなんだわ。」


『どう言う事?』


「ん~?そのまんま!留美ちん可愛いけど遣り手だからね。
ののが傷付くのは見たく無いんだなぁ。」


『留美さんって人は知らないけど…それって酷くない?
姫川君なら傷付いても良いって聞こえるんだけど。』


「へえ~!小夜ちゃんがそれを言うの?」



ドキン

ニヤケてた目元がつり上がる。

どうしよう…
今深國君から視線を逸らしたら変に思われてしまう。
巧く誤魔化せるだろうか?



『どうしたの急に怖い顔して(笑)今のは教師としての1意見よ。
いい?私は貴方がクラブでバイトをしてるのは野々原君から聞いた事がある。それに対してとやかく言うつもりも無いわ。
それに姫川君や野々原君が恋愛する事も…』



なるべく

なるべく自然に見えるよう、教師ぶって穏やかに話した。



「…クスッ(笑)あんた意外にツマラナイ事言うねぇ。ま!い~や。これ以上乙女の物思い邪魔しちゃ悪いから、俺行くわ。」


『…気を付けて帰りなさい。』


くるりと背を向け扉へ向かう彼の黒髪を風がなぶる。


「…あの晩のグリーンのワンピ、似合ってたね。姫ちゃんが追い掛けなきゃ俺が追い掛けたかったくらい(笑)」


『!!!』


「アッキーから忠告~♪
そんなに大人ぶってると本当に大事なもん無くすよ。」



ガチャン



『…何…よ。子供のクセに分かったような口きいて…』


震える唇を噛み締め、閉まった重い扉に向かって呟いた。













*

多分留美は誰が見たって可愛いんだと思う。
向こうは最初っから俺を「遊び相手」としか見てねーし、俺は誰だってよかった。

<留美は彼氏居ないのか?>

俺の疑問に留美は笑ってた。

笑って

<恋とか愛とか面倒くさい。身動き取れなくなるから。>

そう答えた。



恋も愛も面倒なんだ

それは俺達をがんじ絡めにして窒息させる

考えるな

目の前の欲望に没頭すりゃあいい





二人、互いに互いの肉体に逃げ込んだ。




━━━━…

ピンポン♪




「…ん?今何時だ…?」


壁に掛かった鳥の形をした時計は10時を少しだけ過ぎてた。
隣を見ると留美が静かな寝息を立てている。


ピンポン♪


「おい、誰か来たみたいだぞ?」

『ん…ねむ…』


来客を告げるチャイムに留美を揺り起こし、俺は急いで脱ぎ散らかした服を身に付けた。


『…何よ…。めんどくさい… 』



ドンドン!


寝てたのを起こされた留美は不機嫌そうに、コットン・ワンピの上にパーカーを羽織ると玄関へ向かう。


ピンポン♪


「俺も、もう帰るよ。」


『泊まってけばいーのに。
はーい!今開けます。』



俺が寝室を出たのと同時にカチッと留美が鍵を開ける音がした。


バァン!!


「留美ちゃん!」

『…あ・安斉くん?』


「…どうして、どうして連絡くれないの?
彼の…せい?」


いきなり入って来たガタイの良い男と目が合っちまった。


なんだ、これ?
もしかして修羅場?


「いや…俺は」『そう!』


は?


『そうなの!私彼が好きなの!』


「おい!違っ…」


思いっきり否定しかけた俺に必死の形相で目配せして来たもんで、言い淀んだ。

安斉とか云う男は玄関先で真っ青だし、俺は唖然茫然…留美は必死に困り顔造ってる。

胸の中じゃ絶対「めんどくせぇ」って思ってるに違いないのに。


小夜子もこんなんだったのかな?


輪の外に居りゃ良く見える


こんな時だってのにアイツを思い出して胸が傷んだ。



「…俺は遊びだったの?くっ…
酷いよ…うっ…俺は、俺は本気で留美ちゃんの…事…」



ズキン


目前で声を詰まらせ泣く男


コイツは俺だ


悲しくて悲しくて悲しくて…

どんなに欲しくても手に入らない


行き場を無くしちまった俺と同じ





「…馬鹿らしっ!安斉さん?
俺留美とは付き合ってねーから」

『ちょ・ちょっと、ハルカ!』


「アンタも俺も遊びなんだよ」


「あ…遊…び?」





安斉はぶるぶる震え出すと、途端に悲壮な顔付きを鬼の形相に変えた。


「遊び…だったって云うのか!」


ジーンズのポケットをまさぐり、握りしめてるもの。


『や・やだ…』「…お・おい!」


ギリリっとダイヤルを親指で回すと長くなる銀の刃。


「うおー!!!!」



『いやあー!!」





安斉がカッターナイフを振り翳して土足で駆け上がって来る。


留美が俺に助けを求める手を掴む。



ザクッ!


「!!…っ」


シャツを切り裂いて侵入する異物



パキン


そいつは俺の脇腹に刺さると根元から折れた。


『きゃあー!!!』



恐怖に怯える留美


泣き顔で俺を見下ろす安斉




やべ…血が溢れて滴る



変なの

俺、妙に冷静だ


馬鹿だよ


どいつもこいつも



なあ…小夜子



遊ぶんなら相手選べよな?


じゃないと何時か痛い目見んぞ



つーか…らしく無い事した罰かな








そして俺の意識は途切れた










2009.10.13.22:47


次回ラストです。
もう暫くお着き合い下さいませ。

禁恋小説~恋と欲望の硲.⑤








言わなくちゃ


彼を拒絶する言葉を

彼を打ちのめす言葉を


それは咽に引っ掛かったドロップのように

吐き出されるのを待っている


私は彼を憎む

私を抗えない貴方を


私は私を憎む

貴方を拒めなかった自分自身を








夏が







終わる













*

俺とアイツを繋ぐものって何だ?


求めれば何時だって小夜子は俺に足を開いた。
俺の下で、上で、譫言(うわごと)みたいに俺の名前を呼んだ。
だけど抱き合った後は俺の事など眼中に無いみたいに振る舞う。

真夜中だろうが日中だろうが訪ねりゃアイツは俺を部屋に入れてくれたけど、その替わり終わったら其が何時だろうと追い返された。


‘なあオマエ俺の事好きか?’


たった一言の簡単な筈の言葉が聞けない。
こんなに近くに居て小夜子を抱いてるっつーのによ。









ベッドのスプリングが軋み

小夜子がいつもの様に俺の名を絞り出す

背中に爪を立て弓なりになって絶頂を知らせる


欲望を全てぶちまけた俺は力尽きて小夜子の胸に倒れこむ


この瞬間俺は世界中で一番幸せでそして淋しい




「…はあ…はあ…」


荒い息を小夜子の胸で調える俺の髪を撫で、額の汗を人差し指で拭うと其を唇に含んだ。


「…………」 『…………』


小夜子の目から情熱が消えていく
小夜子の目から欲望が影を潜める

瞳には脱け殻の俺が揺らめき、そして其れまでも顔を背けて消そうとする。



『シャワー使うから…その間に帰って。』


「なあ…泊まってっちゃダメか?」


『だめ。何度も言わせないで』



床に落ちた部屋着を素早く身に付けベッドを降りると、たった今思い出した事みたいにアイツは口を開いた。


『あ、それから。明後日から学校始まるでしょ?家に来るのは今日が最後にしてね。』








「なっ…!?どーゆー事だよ!」




『どうって…(笑)遊びは終わり。そーゆー意味?
それじゃ又学校でね姫川くん』




パタン



ドアが閉まる
視界から完全に小夜子が消える


小夜子だけじゃない



あれ?

俺…目、開けてるよな

瞬き

何も見えない

真っ暗


真っ暗


真っ暗



まっくら


遊び・遊び・遊び・遊び・遊び










遊び?























━━━━…


『はい、じゃあ次の例文。
カッコの中に入る前置詞は何になる?…姫川君!』


「……」

「ハルカ!センセ呼んでるよ?」


嵐士がシャーペンの先で俺の背中を突く。


『姫川君、私の時計では未だ御昼休みじゃないんだけど、その広げたお弁当片付けてくれないかな?』


「…前に言わなかったっけ?
朝飯は基本だろ。食わないと身体に悪いんだよ。
腹が減ってちゃ頭も働かねーっつの!」


「貴様は腹が満たされてても頭が働かないだろう」


「何だとクソ眼鏡!!」


『止めなさい二人とも!』



眼鏡の胸ぐらを掴んだ俺の手を小夜子が慌てて制した。


「俺に気安く触んな!」


ドン!

『きゃっ!』


小夜子の手を引き離して突飛ばすと、ヒールを履いたアイツは呆気ない程簡単によろめき倒れこんだ。

すかさず嵐士と眼鏡が助け起こす。


「センセ!ちょっとハルカ乱暴だよ!?」



ザワザワ…

皆の視線が俺に集中する。


「っく…」


『有難う。彩木君、緒方君』


「見てんじゃねーよ!!
あ~あ飯が不味くなった。フケるわ!」


「おい!謝らないのかチビ」


『大丈夫だから緒方君…』


「謝らない。理由はソイツが一番解ってる筈だ。」



強張る小夜子と不信げな緒方と嵐士の間をすり抜けて教室を飛び出た。


「おっと!危な~い。
あれ?姫ちゃん、おさぼり?」

「うるさい、どけ!」


入れ違いに教室に入ろうとして来た深國の壁を突き破る。


「ふ~ん?御機嫌ナナメ。
どうしたの皆、辛気臭い顔して?俺タイミング良かった~?(笑)」









クソ!
クソ!!
クソ!!!
クソ!!!!



餓鬼みてぇなのは解ってる

でも抑えられない


行く宛てなんかないが、校門を抜けて闇雲に歩き続けた。



『あっれ…姫川くん…だっけ?』


ショッピングアーケードを潜って尚も猛進する俺を誰かが呼び止める。


『やっぱりそーだ。アハ♪どうしたの?ウォーキングの練習?』


確か…コイツ…


「留美……ちゃん?」


『留美でいーよ。ふふ…』


あの晩、クラブで会った時と同じようにテラテラした唇が媚びを造った。


『ねぇ、折角会ったんだもん。
どっか二人で行かない?』


「でもアンタ出掛ける所だったんじゃねーの?」


『いーの、いーの!あんまり出たくない講義だったしサボッちゃう♪』


‘ね?’と腕を絡ませ俺を誘う。



何だっていーんだ。
このクサクサした気持ちがスカッとすりゃ。



何だっていい…
誰だっていい…


誰だって…



「おう。行こーぜ!」


『やったあ!そう来なくちゃ。
ふふ♪…ねえ何して遊ぼーか?』


「…遊ぶ?」


『そう私と遊ぼ?』




意味ありげな瞳で見上げると、留美は耳許に生暖かな吐息で囁いた。












2009.10.8.13:39
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