乗合の高速馬車は、魔法で馬車のスピードを格段に上げた便利な乗り物である。

そのうち、馬も必要なくなってくるのではないか、とまで言われているのだから驚きである。

 

少し馬車から顔を出すと、掛けているメガネが飛んでいきそうだったので

早々に顔を引っ込めることにした。

 

ユーリは魔法を専門に学んでいたとはいえ、その手の話は専門ではなかった。

ユーリの専門は、魔法論理学、魔法哲学というものであった。

馬のいらない馬車を作るということは、魔法物理学と呼ばれる

また別途、気合を入れて勉強をする必要がある分野であるし

そもそも一人では無理だ。

などと、妄想めいた思考をめぐらせていた。

 

王都から高速馬車は丸1日ほど走っている。もうそろそろ次の町で休憩だろうか。

次の村は、都ほどではないが、まだ規模のお大きい街である。

 

元々、フィヨナお婆ちゃんと亡くなったゴラムお爺ちゃん

リンデン夫妻が営んでいる宿屋は小羽荘と言う。

リトル・ウイング村と言う村にあるのでそのような名前だ。

 

地理の話をしたい。

まずこの世界全体を見渡し、大中洋を中心に、東側にある大きな大陸

この大陸のほとんどは、ブランデン王国、人間が統治する国である。

そこの中央西海岸沿いにはユーリが通っていた学校と、勤めている魔法店の存在する王国の都がある。

その大陸の反対側へ渡り、少しばかり北寄りに移動すると王家諸侯爵領になってくる。

リトル・ウイング村があるのはその中でもイーシュライン侯爵領。

東海岸沿いを細長く両地として収めており、規模は小さくとも

東側の重要な港が多い場所で

そこそこ力のある侯爵が収める領地であった。

 

そのイーシュライン侯爵領の中でも、大陸から少し飛び出した

上空から見ると鳥の羽のような見た目をしている半島がある。

その辺一体はリトル・ウイング半島と呼ばれている。

このリトル・ウイング半島内にある唯一の村が

このリトル・ウィング村である。

人口376人、この度ユーリが越してきて377人になる。

 

イーシュライン侯爵領の中心街、イーシュラインから

更に馬車で揺られるとアステア岳と呼ばれている峰が現れる。

そこの頂に立つと、向こう側には、ただっぴろい盆地が現れる。

その向こう側には、第一大陸の中でも屈指の最高峰

ルミナス山という大きな活火山が聳え立っている。

 

このルミナス山の影響で周辺は独特の地形を生み出しており

この盆地をルミナス盆地、存在する湿地帯の沼群をルミナス湿原と呼ぶ。

 

そして、リトル・ウィング村は、このルミナス地形を一望できる

アステア岳のルミナス山斜面の台地に存在した。

 

この一帯のルミナス地形はこの大陸の中でも珍しく

独特の地質、生態系、景色を生み出し

地質学、生物学者、一部の旅行愛好家の間では人気のスポットとなっていた。

 

リンデン夫妻も、そんなルミナス地形の絶景に魅了された一ファンであった。

リンデン夫妻とユーリにとっては、旅行者時代毎年通っていた定宿が小羽荘である。

特にこの小羽荘は場所的にこのルミナス地形を一望できるとして

マニアの間では人気の宿屋であった。

全10室ある宿屋で、元々は、地元のアンナという女主人が経営していた。

 

約5,6年前、アンナが高齢になり

イーシュトラインの息子夫婦と一緒に暮らしたいとかで

破格で土地建物を譲ってもらったのである。

 

リンデン夫妻はリタイアと共に、念願であったリトル・ウイング村に移住

老舗の小羽荘を買取り、ほのぼのと民宿のようなホテルのような

宿屋を始めることにしたのである。

 

小羽荘自体は、村で唯一の10室ある宿屋であったことからも

それなりに需要はあった。

 

しかしそれは、老夫婦2人で切り盛りできるレベルであった。

お客様も、素朴な学者や、旅好きの人だけであった・・・

急にゴルムお爺さんが急逝し

フィヨナお婆さん1人でも、なんとかやっていけていた。

 

それが、一変したのが

例の手紙を受け取る、更に半年前のことであった。

今考えると、この出来事はもう1年も前になる。

 

闇の帝王軍勢の将軍の"雷のゴンゴルド"と言うオーガ(人喰い鬼)が

更に北に拠点を置いていたところを、冒険者に追われることになった。

敗走の将となったゴンゴルド一派は

海を経由し、このリトル・ウイング半島の先端を陣取ったのだという。

 

当然に、リトル・ウイング半島の先端など、断崖絶壁と

野性の台地が広がっているのみで、何もない。

 

ゴンゴルド一派は静かに魚釣りと農耕を開始してくれるような手合いでもない。

略奪するならリトル・ウイング村しかないのだ。

 

初めはこそこそと小鬼ゴブリンが鶏などの家畜を奪っていくだけであったものが

だんだんと、強盗で金品を奪う、牛や馬を殺す

ついには悲しいことに、村人が一人亡くなってしまったのだ。

それがあってからは、一気に軍隊が砦を築き

数ヶ月間、王国軍よって監視が開始された。

 

しかし、待てども暮らせどゴンゴルドの動きは無く

王国軍は監視隊の規模を縮小させる事を決定

関心はまた闇の帝王との最前線、ヴァルハレルへ移り

 

現在はゴンゴルド討伐を冒険者の手に委ねているとのことである。

 

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