【太陽と泡とオッサン】
土曜日の昼下がり。布団を洗いにコインランドリーに来た。乾燥まで約60分間。暇なので、缶ビールを飲みながら置いてある雑誌を読む。昼間のビールは2倍酔う。心地よい。コインランドリー特有の石鹸の匂いもたまらなく心地よい。店内は昼間だというのに、多くの人が洗濯に来ている。コインランドリーという空間も時代とともに客層が変わるのかもしれない。また人が来た。小柄で少々小汚いオッサンが手ぶらで入ってきた。 出来上がりの洗濯物をとりに来た?違う。。オッサンは小銭を機械に入れ機械の中に入っていこうとする。小柄だから?オッサンはすっぽり機械に入った。その様子を僕はじっとみていると視線に気がついたのか、機械の小窓に顔をつけ何か助けを呼んでいたので、僕は近づきどうしました?と聞くと、扉は外からしか閉めれないので閉めて欲しいと言ってきた。僕が危ないですよ。と言うと、お願いだから閉めてくれと言う。この場合、閉めてしまうとドラムは回転しだしてやがてオッサンは力尽きる。そうなれば、世間や法律が僕を叩くだろう。だからというわけではないが僕はドアを閉める事を断らなければいけないのだ。オッサンに何がしたいんですかと聞くと30年前の今日に戻りたいと言う。タイムマシン?これは、タイムマシンではないですよ。。と言うと、自分にとってはタイムマシンなんだと言う。だからドアを早く閉めて欲しいという。意味がわからなかったが。おっさんの目がマジだったんだ。いっちゃってるマジではなく前向きな決意というか覚悟というか。ともかく強い意志を感じたのでドアを閉めて30年前にこのオッサンを戻そうと僕は考えた。いやいやいや。これタイムマシンじゃないし。どうします? この人。。何が正解?それをこのコインランドリーに来ている5人の男女に聞いてみた。どうしましょうか?すると5人は下を向き自分には関係ないです的な感じを見せてきた。はいはいはい。その戦法で来るのね。まあそうだよね。そうなるよね。僕はこの様子をスマホでビデオに撮る事にした。 機械の中のオッサン。ドアを閉める自分。周りの観衆。動画が撮れてる事を確認して僕はドアを閉めた。機械はゆっくり動きだし回転を始めた。5秒もすると回転はスピードを上げ中のオッサンの表情も見えなくなった。大丈夫かな?1分が経つ。1分間オッサンは中で回転している。危険?これ以上は危険だと思った。だから停止ボタンを押した。ドラムの回転が少しずつ遅くなっていく。うん?オッサンが中に居ない。。居ない。消えた!!!なにこれ?なにこれ?どういう事?まったく現状が理解できない。だけど直感的な気配も感じた。このコインランドリーには僕以外誰も居ないのでは?そう感じたんだ。事実そうだった。周りを見渡しても誰も居なかった。。消えた5人の男女。消えたオッサン。オッサンはどこへ行ったのか。30年前?何を目的に?想像してみた。何かをやり直したかったのか。誰かに何かを伝えたかったのか。あの日。あの時。こうしておけば。。誰にでも、後悔はある。でも過去には戻れない世界の中で僕らは生きている。生きていくしかない。30年前に戻れるなら僕は何を選択するのだろう。オッサンは無事だろうか?その時だった。ピー。ピー。ピー。機械の音。僕の布団が洗濯され乾燥まで終えた音。僕は布団をバックにしまいコインランドリーを出た。かなり歩いた時、テーブルの上の缶ビールをゴミ箱に捨ててない事に気づく。まあいいか。。太陽の気持ちいい土曜日の昼下がり。少し過去を振り返る。過去は戻らなくとも明日を生きるヒントは常に過去に隠されている。今日のどこかに隠れている。石鹸の臭い。オッサンの想い。魔法。初恋。無知。ガガレゴン