定位脳手術後における感覚・運動ネットワークの再構築
―局所性ジストニア患者の神経可塑性に関する一考察―
本症例は、17歳で罹患した局所性ジストニア患者に対し、55歳時に定位脳手術(stereotactic lesioning)を行ったが、術後、手指の伸展機能が喪失し、演奏行為が著しく困難となったものである。従来、定位脳手術は異常運動を抑制する目的で行われるが、本例では機能局在の不可逆的損傷(irreversible focal lesion)により、術前に確立していた代表的運動パターンおよび感覚統御戦略がすべて失われた。
術後初期には、聴覚・運動連関の分離、および運動表象の脱同期(desynchronization of motor representation)が認められた。しかし、55歳から60歳にかけて、音楽的動作の再試行・触覚刺激・聴覚イメージ訓練などを通じて、新規神経接続(novel synaptic connectivity)の形成が漸次に進行した。この過程は、損傷領域そのものの可塑性ではなく、隣接領域および対側半球による代償的神経回路(compensatory network)の再編によって理解される。
神経機能的には、損傷部位を迂回する形で感覚入力から運動出力への経路が再構築され、完全な回復には至らないものの、部分的可塑性(partial plasticity)の萌芽が確認された。
この回復は、聴覚イメージと身体感覚の再結合(re-coupling of auditory imagery and kinesthetic feedback)に先立ち、運動練習単独によるリハビリテーションの過程を要したと考えられる。
本症例は、成人期以降でもシナプスの再編成が生じうること、および失われた運動技能に対し、音楽的文脈を媒介とした神経可塑性(music-induced neuroplasticity)が臨床的意義を持ち得ることを示唆する。
術前術後の比較動画
①手術前
②後遺症が解る動画(限定公開↓🎶)
③術後5年経過(①と同曲)
※術前のレパートリーが演奏可能になり次第、期が熟してから清書予定。