ブルーノ・マサンエス

 

米ドルが基軸通貨でなくなる日

 

 

 

 

ニュー・ステイツマン(英国)

 

Text by Bruno Maçães

 

現代の基軸通貨である米ドルは、この先も王者としての地位を保ち続けられるのか。関税では解決されえない基軸通貨国の宿命について、ポルトガル出身の政治学者ブルーノ・マサンエスが説き明かす。


グローバルな貿易・金融システムが存続するかぎりは、ひとつの基軸通貨を中心に回っていく可能性が高い。その通貨を発行する国にとって、それはとてつもない権力と富の源泉だ。

米国はドルを印刷すれば、それを食料や石油、スマートフォンや自動車と交換できる。中央銀行の帳簿にワンクリックで新たにドルを増やせば、まるで魔法が働いたかのように、あらゆる製品が手に入るわけだ。

そんなことになるのも、世界中の人々がドルを欲し、必要としており、たとえ作るのに苦労した産品でもドルと交換できるなら喜んで手放すからだ。同じことを、アルゼンチンのペソで試してみるといい。間違いなく門前払いだ。次はドルを持ってきなと言われるのがオチである。
 

もちろん誰もがこの状況を喜んでいるわけではない。中国外交部は、2023年の白書で次のように指摘している。

「100ドル札1枚の製造コストは約17セントでしかないのに、米国以外の国がその100ドル札を得ようとしたら、100ドルに相当する製品を揃えなければならない。米国はドルのおかげで並外れた特権を得ているわけだ。

米国が貿易赤字を出し続けても経済が苦境に陥らないのはそれが理由だ。米国はただの紙切れにすぎない紙幣で、他国の資源や工場をかすめとっているのだ。このこと自体は半世紀以上前から指摘されている」

いまやほとんどのお金が電子の形で存在している事実を踏まえれば、中国外交部は、米国が100ドル相当の物品を手に入れるために支払っているコストを実際より高く見積もっているとも言える。米国はドルの発行をタダでできてしまうのだ。

ここ数百年の歴史を振り返り、覇権国家の変遷を見れば、それは基軸通貨の変遷とほぼ重なることがわかるだろう。多少の時差はあるが、それもせいぜい20~30年だ。
 

仮に米国が世界の覇権を失うことになれば、ドルも早晩、世界の基軸通貨でなくなるはずだ。そのような激変が訪れるのは、世界大戦や壊滅的な金融危機の後なのかもしれない

 

 

基軸通貨を持つことの呪い


覇権国家なら、そんな未来を事前に防げるはずだと考える人もいるだろう。なにしろ輪転機を回せば、まるで錬金術師が黄金を作り出すように、黄金よりもはるかに価値のあるものが手に入るのだ。だが、話はそんなに甘くない。そこが面白いところだ。

真実を言おう。基軸通貨を持つのは、特権ではあるが、同時に呪いでもあるのだ。

 

 

 

 

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