全国初、駅ビル2階に進入する路面電車 広島電鉄「駅前大橋ルート」が開業へ

大井 智子

 

ライター

 

 

2025年8月3日に、JR広島駅の新駅ビル2階に路面電車が乗り入れるルートが開業する。駅前大橋ルートだ。路面電車が駅ビル2階に進入するのは、全国初となる。広島市がJR西日本や広島電鉄と連携して取り組む「広島駅南口広場の再整備等」事業の一環として、実現した。

 

 

 

 

 

 

新駅ビル2階に進入する路面電車。2025年7月16日の試運転時に撮影した(写真:大井 智子

 

 

 

 

 

東西の都心の核の移動時間を短縮

 今回、新設した路面電車「駅前大橋ルート」は、広島市が1999年に作成した「新たな公共交通体系づくりの基本計画」の中で位置付け、広島電鉄など関係機関と検討を重ねてきた路線だ。市はひろしま都心活性化プランとして、「広島駅周辺地区」と「紙屋町・八丁堀地区」を都心の東西の核とする、楕円形の都心づくりを進めている。広島駅から駅前大橋を直進する「駅前大橋ルート」の開業で、両区間の移動時間は以前の迂回ルートに比べて約4分短縮した。

 路面電車のインフラ部(駅前大橋線橋りょう、軌道など)は市が(工事は広島電鉄に委託)、インフラ外部(レール、架線、電気・通信施設など)は広島電鉄が、国の補助制度などを活用してそれぞれ整備した。

 駅南口広場を再整備する目的は、交通結節点としての機能強化と、陸の玄関としての魅力創出だが、路面電車の新ルートを整備してまちの回遊性を高め、都市の活気と賑わいを創出する狙いがある。

 

 

 

 

 

 

路面電車のルート図。駅前大橋ルートは2025年8月3日開業。循環ルートは26年春に完成見込み(出所:広島駅南口広場の再整備等事業概要から抜粋)

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写真下の地上部に見えるのは再整備前の路面電車の広島駅停留場。上の路面電車は試運転中の「駅前大橋ルート」。同ルートの開業後、旧停留場は廃止される。2025年7月17日撮影(写真:大井 智子)

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新駅ビル屋上からの見下ろし。試運転の路面電車が駅ビル2階に高架で進入していく。2025年7月17日に撮影(写真:大井 智子)

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デザインコードで官民越えた連続的な空間をつくる

 全体事業の主軸は「南口駅前の交通広場の再整備」だが、そこに「駅ビル建て替え」「路面電車の高架乗り入れ」「ペデストリアンデッキの新設」など様々な整備が複雑にからむ。

 

 

 そこで市、JR西日本、広島電鉄の3者は「広島駅南口広場の再整備等推進協議会」を組織。さらに3者と関係企業などで構成する、デザイン、施工、管理、PR・発信、記録、運営の各部会や委員会を設けて、それぞれの課題や解決策を共有してきた。

 

 

 例えば、新駅ビル2階にある中央アトリウム空間。2階から5階までの吹き抜けで、路面電車が進入してくるダイナミックな景観を周囲の広場やテラスから楽しめる。

市やJR西日本、広島電鉄の所有エリアが混在するその空間は、3者で定めたデザインコードに沿って床面を連続的に仕上げるなど、境界を感じさせない一体的なつくりとした。

 

 

市の広場、JR西日本の新駅ビル、広島電鉄の停留場など、3者の所有エリアを越えて床面タイルが連続する。2025年7月16日撮影(写真:大井 智子)

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 これまでの駅南口広場は憩いの場が少ないことが課題だったが、JR西日本が整備した新駅ビルを中心に、随所に休憩スペースがつくられている。3階テラスのほか、7階と9階にはまちを一望できる屋上広場を整備した。

 

 

 

7階屋上広場に駅前通りを進む路面電車を一望できる大階段を設置。階段を客席とするイベントスペースとしても利用できる(写真:大井 智子)

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9階屋上広場。多目的コートのほか、テラスや屋根付き休憩所などがあり、多様な人が集う人気のスポットとなっている。新駅ビルの広場デザイン監修はSUPPOSE DESIGN OFFICE(広島市)が担当した(写真:大井 智子)

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駅南口広場と路面電車の抱える課題を解決する

 1989年に整備された以前の駅南口広場は、「バス停が駅周辺に分散している」「休憩スペースが少ない」「広島の玄関口としての魅力に乏しい」などの課題を抱えていた。

 一方、路面電車にも市民からの不満があった。朝晩のラッシュ時に広場入口で路面電車が渋滞したり、広島駅と、都市機能が集積する紙屋町・八丁堀地区が最短距離で結ばれておらず移動に時間がかかったりするという声が上がっていた。

 

 

 

 

 

再整備前の広島駅南口広場。写真右下のカーブした屋根の下が路面電車の広島駅停留場(写真:広島市)

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 これら課題の解決に向け、市は2010年、学識経験者や市民などで構成する「広島駅南口広場再整備に係る基本方針検討委員会」を設立し、広場再整備の方向性について議論を重ねた。さらに、新路線として整備する路面電車「駅前大橋ルート」と、駅南口広場との接続の仕方として、「平面案」「地下案」「高架案」の3案を比較検討。その中から選ばれたのが、現在の高架案だ。

 

 

 

 市はJR西日本との協議を経て、駅南口広場の再整備に立体都市計画制度を活用。新駅ビルの1、2階に交通施設や広場などの都市施設を立体的に整備する計画とした。新駅ビル2階に路面電車を進入させるほか、これまで駅周辺に点在していたバス乗降場を集約することで、JR、路面電車、バスなど公共交通機関の乗り換え利便性を高める。

 

 

 

 このほか事業では、既存路線を活用して市内中心部を環状で結ぶ路面電車「循環ルート」を計画(26年春完成予定)。さらに、広場や新駅ビルを中心に周辺ビルとの間に接続デッキを整備し、将来的に2階レベルの歩行者ネットワークを構築する。これら接続デッキや2階「賑わい広場」、1階の南口交通広場などの整備を経て、すべての施設が完成するのは28年度末を予定している。

 

完成予想パース図。駅正面の大屋根や、路面電車の両側に並行して続く歩行者デッキは今後、整備する予定(出所:JR西日本

 

 

 

 

 

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