安定した動作と美音を聴かせるイタリアのハイエンド・ブランド

オーディアのプリメインアンプ「FLS9」導入記。「ハイファイ性能と趣味性を両立する大いなる可能性」

2025/05/01 園田洋世

イタリアが誇るハイエンドブランド・オーディア

 
 
 
 
 

2025年1月下旬、大きな木の箱が我が家に届いた。中身は昨年11月に注文していたイタリアAUDIA(オーディア)のプリメインアンプ、「FLS9」である。開梱すると、CNC加工で仕上げられた美しいアルミの筐体が現れた。重量25.5kg。天板には放熱孔がないが、クラスDアンプではない。ゲインステージが純A級、出力ステージがAB級の大出力(150W+150W/8Ω)アンプである。

AUDIA プリメインアンプ「FLS9」(1,606,000円/税込)。取り扱い:アイレックス(株)

AUDIAは1996年に設立されたイタリアのハイエンドオーディオブランドだ。フラグシップの“Strumentoシリーズ”が特に有名だが、私にはプリメインアンプ「FL THREE S」とCDプレーヤー「FLCD THREE S」の印象が強い。前職オーディオユニオンお茶の水アクセサリー館に何年も常設されていた関係で、日常的に聴いていたからだ。

AUDIAのエントリーラインとなる「FL THREEシリーズ」。左がCDプレーヤー「FLCD THREE S」(847,000円/税込)とプリメインアンプ「FL THREE S」(968,000円/税込)

いずれもその高いハイファイ性能でアクセサリーの効果と性質をヴィヴィッドに伝えるだけでなく、「なるほどこれがイタリアの音か!」と唸らせる美しい音色・質感をも聴かせてくれた。しかもイタリア製らしからぬ(失礼!)非常に安定した動作と故障知らずの高い信頼性が、試聴には大変重宝したものである。

このたび私が購入した「FLS9」は同ブランドの中堅グレードであるFLSシリーズ中、最もコンパクトなプリメインアンプとして位置づけられる。

園田洋世氏のリスニングルーム。日々各種アクセサリーの実験を行なっている

純A級動作のゲインステージはフルバランス・デュアルモノラル構成。そして強力な電源部と超低ノイズのボリューム機構を搭載しているFLS9の特徴は他にも挙げればキリがないのだが、例えば電源部の出力段には、音質劣化に繋がるためヒューズを一切使用せず(!)、マイクロプロセッサで電流測定を行い電磁スイッチで制御していることからも、その徹底したこだわりが窺えよう。

 

なぜ「FLS9」を自宅に導入したのか?

1人のオーディオファイルとして私はこの10年、ウィーン・アコースティクスの小型ブックシェルフ「Haydn Grand Symphony Edition」(=以下ハイドン)をメインのスピーカーとして愛用している。新しい録音でも古い録音でも、ハイファイ性能と音楽的愉悦とをきわめて高い次元で両立させて聴かせてくれる稀有なスピーカーである。特にえも言われぬその美音に強烈に酔わされて私は衝動買いしたのだった。

ウィーン・アコースティクスのブックシェルフスピーカー「Haydn Grand Symphony Edition」を愛用

このハイドン、決してドライブに極端なハイパワーを要求するスピーカーではない。しかし惚れ込んだ小型スピーカーにアンバランスと言えるほど強力なアンプを組み合わせて、その潜在能力をフルに発揮させたときの喜びを知っているオーディオファイルは少なくなかろう。ハイドン導入当初は大きなセパレートアンプを組み合わせていた私もその1人であった。

だがこのハイドンに、それぞれに個性的な音色と質感を奏でる各種アンプを色々と組み合わせてみると、相乗効果が生じて、予想もしなかった美音が聴こえるではないか。そこで私は我ながら極端なことに、選択肢をできるだけ増やすために出力とダンピングファクターの不足にはあえて目を瞑り、一時は真空管シングルアンプとも組み合わせたりなどして、究極の美音を追求し始めた。

そして試行錯誤を経たのち、つい最近までハイドンにメインで組み合わせていたのが、イギリスの往年の名機「QUAD22+ II」である。当時の真空管を搭載させたQUAD22+ IIで鳴らしたハイドンの美音たるや、実に凄まじいものがあった。

現代録音には強力な出力やダンピングファクターも必要

しばらくの間、古い録音のクラシックを中心にこの異色の組み合わせで楽しんできたのだが、最近の録音をこのスピーカーとアンプの組み合わせで再生してもまったく不満を覚えなかったと言ったら、それはやはり嘘になると正直に告白しよう。最近のハイファイな録音を十全に再生するには、やはり絶対的な出力とダンピングファクターが必要だ。ハイドン導入当初のようにハイパワーなアンプと組み合わせることには明らかな合理性があった。

そのうえ、これは始めてみてわかったのだが、今年で3年目を迎えるオーディオ評論家業では、オーディオ製品を自宅で試聴することも多い。その点で、アンプに繋げるケーブルの種類に制約があるのには困っていた。QUAD22+ IIだと一般的な電源ケーブルやアナログXLRケーブルを繋いで試せない。

もちろん、自宅で試せないケーブルの試聴なら出版社等の試聴室に出向けばよい。しかし聴き馴染んだ自宅のシステムで聴いてこそわかるそのケーブルの性能と魅力というものがたしかにある。

RCA入力3系統、XLR入力2系統という豊富な入力に加え、プリアウトとしても使えるRCA、XLRなど多彩な入出力を搭載。電源ケーブルも標準的な3Pコネクタで、各種アクセサリーの試聴にも活用できる

そこで私は、QUAD22+ IIに加える形で、アナログXLRケーブルの正当な評価もできる「フルバランスのプリメインアンプ」を探し始めたのである。

フルバランスだけでなくここでなぜプリメインアンプを条件にしたかというと、私的にも職業的にも今後ネットワークオーディオ関連機器が増えていくのは確実な状況にあって、現在の6畳しかないただでさえ手狭な私のオーディオルームに以前のようにセパレートアンプを設置するのはかなりためらわれたからだ。

ネットワークオーディオのテストには、BLUESOUNDの「NODE 2i」(トランスポートとして)とマランツの「SA-10」を使用している

セパレートアンプを凌駕するクオリティに納得

しかし、いざ改めて探し始めてみると、市場に「フルバランスの」プリメインアンプというものは少ない。ご存知のとおりアナログXLR入力端子はあっても内部はアンバランス構成というプリメインアンプが多いのだ。

その点、FLS9は上記した通りフルバランスのプリメイン。これならスペースファクター上も問題なくアナログXLRケーブルの性能を正当に評価できるし、電源ケーブルが着脱式なので、自宅ではもっぱらSACDプレーヤーで試していた電源ケーブルを以前のようにアンプでも試せるようになる。

フロントにはヘッドホン端子も搭載しており、ヘッドホンも試聴できる

かくして導入したFLS9、購入する前に自宅で試聴したことはなかったが、この3ヶ月実際に繋いで鳴らしてみて、なまじっかなセパレートアンプを軽々と凌駕するクオリティで音楽を聴かせてくれるプリメインアンプであることがよくわかった。

「FLS9」の内部構造。大型トランス、手前側アンプ部の左右対称デザインなど、フルバランス構成にこだわるAUDIAの設計理念が見てとれる。右上は「オプションボード」の装着ドックとなっており、フォノボードやDACボードを挿入できる

前職で聴いていたFL THREE Sも価格とサイズを遥かに超えるパフォーマンスだったが、我がFLS9はさすが上級機。解像度やS/N、音場・音像の立体的表現力といったハイファイ性能だけでなく、美音再生という点でもグレードの違いをこれでもかと聴かせる。ほのかに甘い音色と、極上の羽毛のようなテクスチャーが実に素晴らしい。そしてこの音色と質感の個性がハイドンのそれらとまったく喧嘩することもなく、まさに相乗して高め合っている。

入力切り替えやボリューム調整ができるシンプルなリモコンも装備。アルミ削りだしで手触りも良好

さらに、ドライブ力と制動力の高まりが自然で無理ない形で得られたので、過制動気味に、すなわちスピーカーユニットの挙動を過度に(下手に)制御してしまったときにありがちな詰まった表現に陥らない。FLS9はユニットの手綱さばきが実に巧みで、音楽の抑揚をきわめてダイナミックに表現してくれるのである。

足元アクセサリーもさまざまに実験中!

FLS9の導入により、ケーブルだけでなく電源・足回り・空き端子アクセサリーもより広範に試すことができるようになった。

オーディアの開発チーム。左からオーディア創業者のマックスさん、(オーディアが展開するスピーカーブランド)ALAREのマッシモさん、オーディア創業者のアンドレアさん。ミュンヘン・ハイエンドにて

私は、「オーディオ」は音楽を聴くという趣味を実現する手段それ自体にも趣味性を見出し追求する営みなのであるから、「オーディオ評論」においても、手段としてのハイファイ性能だけでなく、趣味性の高低をも判断し論じるべきだと考える者の1人だ(オーディオアクセサリーの評論にもその考えは当てはまると私は考える)。

いちオーディオファイルとしてだけでなく、オーディオ評論家としても私は、FLS9が拓く新たな地平を前に、興奮を禁じえない。FLS9はハイファイ性能と趣味性の両面において、日増しにより大きな可能性を感じさせているのである