Toyota Technical Center Shimoyama 車両開発棟・来客棟(愛知県豊田市)

トヨタ・レクサス開発拠点の「顔」はスピンドルを想起させるルーバー

有岡 三恵

 

ライタ

 

 

トヨタ自動車の研究開発拠点「Toyota Technical Center Shimoyama」に立つ車両開発棟・来客棟は、トヨタの起源と環境課題の解決をデザインで具現化したような施設だ。建物の「顔」ともいえる外装には、熱負荷を低減する環境ファサードを採用。間伐材の積極的な利用で里山保全にも貢献している。

Toyota Technical Center Shimoyamaの西エリアに立つ車両開発棟(左)と来客棟(右)。2棟合わせて長さ約300mの建物が東西に延びる。約4mの庇とクロスルーバーで日射を遮蔽する(写真:車田 保)

Toyota Technical Center Shimoyamaの西エリアに立つ車両開発棟(左)と来客棟(右)。2棟合わせて長さ約300mの建物が東西に延びる。約4mの庇とクロスルーバーで日射を遮蔽する(写真:車田 保)

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 愛知県豊田市の中心部から南東に約25kmの山間地にトヨタ自動車の研究開発拠点「Toyota Technical Center Shimoyama」は立つ。650ヘクタールと広大な敷地内に地形を生かした車のテストコースを備える。

 2018年から3つのエリアに分けて施設の建設が始まった。24年3月に車両開発棟と来客棟が完成。来客棟には車両展示空間や新作発表などにも利用できるホールを備え、社外の人々との共創の場としている。

 施設全体の基本設計を担当した久米設計中部支社設計本部の鈴木雄一郎部長は「自然の中で主張しすぎないよう、建物のデザインは黒を基調とした。下山地域の木材活用も重要なテーマだった」と語る。

日射負荷を抑えるファサード

 カーボンニュートラルを掲げるトヨタ自動車は、環境性能の高い建築物を求めた。そこで設計者は、日射による熱負荷を徹底的に抑制する「環境ファサード」を考案した。東西に約300mと長い構成を生かし、3つの方策を盛り込んだ。

2棟の間に設けた下山テラスより車両開発棟を見る。約300mm幅のアルミルーバーを2重にすることで日射遮蔽の性能とデザイン性を高めた。原寸大のモックアップを木で作成し影の動きを検証した(写真:車田 保)

2棟の間に設けた下山テラスより車両開発棟を見る。約300mm幅のアルミルーバーを2重にすることで日射遮蔽の性能とデザイン性を高めた。原寸大のモックアップを木で作成し影の動きを検証した(写真:車田 保)

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車両開発棟はレクサスカンパニーやGRカンパニーの事業・開発拠点。企画・デザインから開発・設計、試作・評価などを行う。来客棟は車両展示空間やホールを備え、外部の人と交流する場となる(写真:車田 保)

車両開発棟はレクサスカンパニーやGRカンパニーの事業・開発拠点。企画・デザインから開発・設計、試作・評価などを行う。来客棟は車両展示空間やホールを備え、外部の人と交流する場となる(写真:車田 保)

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配置図

配置図

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南面には幅約3mのバルコニーと約4mの庇を設け日射を遮蔽している。庇には、L形プレキャストコンクリート(PCa)を用いた(写真:車田 保)

南面には幅約3mのバルコニーと約4mの庇を設け日射を遮蔽している。庇には、L形プレキャストコンクリート(PCa)を用いた(写真:車田 保)

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バルコニー断面詳細図

バルコニー断面詳細図

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 第1は南側に幅約3mの水平バルコニーを設けて深い庇とし、夏季の日射を遮蔽することだ。

 第2はアウタースキンと呼ぶアルミルーバーだ。設計当初は全面にルーバーを設置する案もあったが、コストを抑えつつ効果を上げるために東西面に集中させ、2重のクロスルーバーを設けることにした。外装の実施設計を担当した竹中工務店名古屋支店設計部の中屋隆史シニアチーフアーキテクトは、「アルミの押し出し成形材は幅300mm程度が限度だが、2重にすれば600mmの奥行きとなり、より日射を制限できる」と説明する。さらにコーナー部は紡鐘(ぼうすい)形の役物とした。縦横に重なる線形はトヨタのルーツである自動織機のスピンドルを想起させる、ブランドイメージを体現したデザインだ。

 第3は「インナースキン」と呼ぶ下山産の間伐材を積層させた室内のルーバーだ。アウタースキンでは日射を遮れない場所に設置した。エントランスでは来客用のベンチ、売店では棚の役目を果たす。

来客棟のエントランス。庇やアウタールーバーで日射を遮れない箇所には内部に木製のインナールーバーを設置。下山産のヒノキの間伐材を積層し、来客用のベンチの機能も持たせた(写真:車田 保)

来客棟のエントランス。庇やアウタールーバーで日射を遮れない箇所には内部に木製のインナールーバーを設置。下山産のヒノキの間伐材を積層し、来客用のベンチの機能も持たせた(写真:車田 保)

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来客棟のエントランス。庇やアウタールーバーで日射を遮れない箇所には内部に木製のインナールーバーを設置。下山産のヒノキの間伐材を積層し、来客用のベンチの機能も持たせた(写真:車田 保)

来客棟のエントランス。庇やアウタールーバーで日射を遮れない箇所には内部に木製のインナールーバーを設置。下山産のヒノキの間伐材を積層し、来客用のベンチの機能も持たせた(写真:車田 保

 

 

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