SANAA設計の万博「宮田裕章館」に雲のような網目の天蓋、屋根も壁もなく虹が出る
奥山 晃平
日経クロステック/日経アーキテクチュア
大阪・関西万博で目玉となる8つの「シグネチャーパビリオン」の中でも、
テーマ事業プロデューサーの1人である
慶応義塾大学教授の宮田裕章氏が手掛ける
テーマ館「Better Co-Being」は異質だ。
壁も屋根もない屋外のパビリオンは前代未聞である。
だが外から丸見えでありながら、
中身はよく分からないままだった。
そんなパビリオンが2025年3月27日、
ついに報道陣に初公開され、全貌が明らかになった。
同年4月3日には、シグネチャーパビリオン8館の合同内覧会が開かれた。
テーマ事業プロデューサーの1人である慶応義塾大学教授の宮田裕章氏が手掛けるパビリオン「Better Co-Being」のエントランス。公園のようなパビリオンのスタート地点になる(写真:日経クロステック)
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宮田氏のパビリオンに大きな建物は見当たらない。銀色の網状の不定形なキャノピー(天蓋)が公園のような緑地と遊歩道の上に架かっているだけ。キャノピーは細い柱で支えられており、ほとんど重さを感じない。まるで空に浮かぶ雲のようだ。
キャノピーを見上げると、隙間から空が見える。「キャノピーがあることで、空を見上げるという体験を引き立たせることができる。その日の天候によっても楽しみ方が変わる」。宮田氏はそう説明する。
もっとも、屋根も壁もないので、暑さや寒さを直接感じることになる。晴れれば日に焼け、雨の日はぬれる。パビリオンのオペレーションは難しくなりそうだ。
パビリオンは、万博会場の中央に設けた「静けさの森」と一体化するように整備されている。盛り土をした敷地は起伏があり、来場者は小高い丘を上ったり下りたりしながら点在するアートや緑の小道を巡る。建築としてのキャノピーに目が行きがちだが、むしろ高低差を生かしたランドスケープデザインが利いている。
Better Co-Beingについて説明する宮田氏(写真:日経クロステック)
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パビリオンの設計はSANAA(東京・江東)、
施工は大林組・総合設備コンサルタントグループ
がそれぞれ手掛けた。
建設工事などは大林組・総合設備コンサルタントグループが
14億5400万円で落札した。
敷地面積は1634.99m2だ。
静けさの森と同時に楽しめば、
かなり大きなパビリオンのように感じるだろう。
壁も屋根もないパビリオンには、数多くの草木が植えられている(写真:日経クロステック)
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来場者は15人ほどのグループになり、屋外に展示されたアートなどを巡っていく。宮田氏と金沢21世紀美術館の前館長である長谷川祐子氏が共同でキュレーターを務め、アーティストと作品を選定。これまで明らかになっていなかったアートもお披露目された。来場者が体験する順に紹介していく。
まず、小高い丘を上っていくと、現代美術家の塩田千春氏による「言葉の丘」が現れる。無数に張り巡らされた赤い糸の隙間から、多言語の文字が見える。「心の中の自分を含め、様々なつながりを体験できる場になっている」と宮田氏は語る。
小高い丘を上ったり下りたりして様々なアートを巡る(写真:日経クロステック)
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現代美術家の塩田千春氏のアート「言葉の丘」。塩田氏が手掛けるインスタレーションなどの象徴的なモチーフである無数の赤い糸が、キャノピーに張られている(写真:日経クロステック)
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その後は、なだらかな下り坂のスロープが続く。何もない小道のようだが、歩いているとどこからか声が聞こえてくる。同じく現代美術家の宮島達男氏による「Counter Voice Network - EXPO2025」だ。パビリオンの2つ目のアートである。
日本語や英語、フランス語など、45の言語で9から1までをカウントダウンする声が道沿いのスピーカーから響く。発光ダイオード(LED)のデジタルカウンターを使用したアートで知られる宮島氏だが、今回は声のみで表現しており、目に見えない。カウントに「0」がないのが宮島氏の作品の特徴である。
下り坂のスロープ。様々な言語でカウントダウンする声が響く(写真:日経クロステック)
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パビリオン内には30個のスピーカーを設置した(写真:日経クロステック)
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3つ目のアートは、宮田氏自身が「宮田裕章 with EiM」の名義で制作した「最大多様の最大幸福」である。高さ約7mのキャノピーから約400本のワイヤを垂らし、約2万5000個のクリスタルガラスをつり下げた。クリスタルガラスは光を反射して虹色に輝く。
キャノピーから垂らしたワイヤにつり下げた無数のクリスタルガラス。自然光を反射してきらめく(写真:日経クロステック)
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このパビリオンには大きな仕掛けがある。頭上のキャノピーに仕込んだノズルから散水し、人工の雨を降らせる。すると晴れた日には虹が見える。人工の雨を降らせるとクリスタルガラスが水滴を帯び、光り方が変わる。パビリオンには屋根がないので、その日の天気によっては本物の雨も降ってくる。
キャノピーから人工の雨が降る。地面からは霧が発生する(写真:日経クロステック)
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晴れた日に人工の雨を降らせると虹が発生することもある(写真:Better Co-Being)
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3つのアート作品を巡った先にあるのは、謎の黒い球体だ。球体型のLED装置である。宮田氏とライゾマティクスの真鍋大度氏らが開発した球体のLEDに、来場者の「体験」をデータに転換した映像が出力される。一緒にパビリオンを回る来場者の組み合わせや、その日の気象条件などにより、毎回異なる映像が生成される。周囲の温度や湿度、照度、風速、風向きなどの気象情報は、パビリオン内に設けたIoTセンサーで取得する。
宮田氏とライゾマティクスの真鍋大度氏らが開発した球体のLED装置(写真:日経クロステック
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