国内外の需要が後押し
英誌が報じる「日韓の兵器メーカーの台頭」─売上高で欧州を上回る
エコノミスト(英国)
世界の機運に乗って
3月、韓国の防衛産業業界幹部と政府関係者の一団が、カナダの首都オタワを訪れた。カナダ軍向けに、榴弾砲やロケットランチャー、潜水艦を売り込むためだ。
世界的な再軍備ラッシュに乗じている東アジアの国は、韓国だけではない。日本の軍需企業にも熱心な買い手が集まっている。
日本と韓国は現在、防衛産業が最も急速に成長している国だ。両国の防衛関連企業の売上高は合計で630億ドルにのぼり、2022年から25%増加しているほか、欧州のそれを上回ってもいる。米国の大手兵器メーカーの売上高は合わせて2000億ドルを超えており、依然として他国を大きく上回ってはいるが、2022年以降の成長率は15%にとどまる。
日本と韓国の防衛産業が好調な理由のひとつは、長らく兵器の純輸入国であった両国の政府が、自国の領土を守るために米軍に頼るのではなく、国産の兵器を増やしたいと考えるようになったことだ。日本3大重工メーカーのひとつ、川崎重工業の金花芳則会長も、これが「転換点」だったと語る
2022年、東アジアの緊張が高まるなか、日本は防衛予算を拡大し、第二次世界大戦以来、最大の軍備増強を開始した。スウェーデンのシンクタンク「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」によると、2023年、日本の大手兵器メーカーの国内受注は前年の2~4倍になったという。
日本の業界最大手である三菱重工業は、2024年第4四半期の売上高が前年比で20%増加した。また、川崎重工業の金花によると、同社はこれまで年間最大2機の軍用ヘリコプターを受注していたが、2025年は「6~7機」だという。さらに3月には、同社は海上自衛隊に建造費約702億円の最新型潜水艦を引き渡してもいる。
同じく安全保障上の懸念を抱える韓国では、防衛産業の成長に伴い、兵器輸入依存度が急激に低下した。SIPRIによると、2020~24年の韓国の兵器輸入額は、2015~19年と比べて24%減少した。
日韓の防衛産業の特徴
自衛隊の権限、物資、人員、経験すべてが大幅に不足
英紙が指摘「防衛予算を倍増させても、日本が“防衛力”を高められない理由
フィナンシャル・タイムズ(英国)
Text by Kana Inagaki and Leo Lewis
日本の岸田首相は防衛費を約50%増加させたことで、米誌「タイム」の「世界の100人」に選出されるなど、日本の安全保障問題が世界から注目を浴びている。しかし、自衛隊は非常に多くの制約を受けており、予算を増やしてもその自衛力を本当に高められるのか、英紙「フィナンシャル・タイムズ」が疑問視している
女性自衛官が受けた性暴行
2023年5月10日、元陸上自衛隊員の五野井里奈による著書『声をあげて』が発売された。そこには2年間におよぶ彼女の苦難が綴られている
同著で描かれるのは、軍隊内での悲惨な体験だ。2022年、五野井は酒に酔った男性隊員から性的暴行を受けたと告発した。彼女の訴えによって、自衛隊は調査を実施し、数名の男性隊員が懲戒免職を受けるなど、数々の処分を行われた。日本の軍隊がこのように厳しく対応をした例は過去にない。
彼女の衝撃的な告発は、自衛隊が自信と前向きな姿勢を取り戻すべき重要な瞬間に起きた。日本の憲法は「戦力」の保持を禁じている。それでも、1954年に設置された自衛隊は、それ以来、微妙な妥協の上で存在してきた
戦後最大の防衛費拡大
2022年12月、岸田文雄首相は自衛隊予算の大幅な拡大を発表した。5年間で「総額約43兆円確保」という、戦後最大規模の防衛費増加となる。これは、軍事的に台頭する中国の脅威を強調し、自衛隊を目的にあったものにしなくてはいけないというメッセージでもある。
故安倍晋三元首相の総理大臣秘書官、防衛事務次官を務めた島田和久は次のように指摘する。「防衛省にとって43兆円は巨額だといわれます。でも、日本にとって43兆はそれほど高額と言えるのでしょうか。日本の国力を考えれば、国内総生産の1.7%に相当する防衛予算は驚くような額ではありません。問題は、人々がこの金額に驚いていることです」
しかし、ここで疑問となるのは、政府の持つ大きな野望は、予算増加だけでは対応できないのではないかということだ。心理的なハードルも高く、時期を逸している可能性がある
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防衛予算を増やして強化というのは「絵に描いた餅」なのか
英紙が指摘──「不足」と「制約」だらけの自衛隊は莫大な予算を得たところで有効に使えない
英紙が指摘──「不足」と「制約」だらけの自衛隊は莫大な予算を得たところで有効に使えない | クーリエ・ジャポン
軍事演習中の自衛隊員 Photo: David Mareuil / Anadolu Agency / Getty
フィナンシャル・タイムズ(英国)
Text by Kana Inagaki and Leo Lewis
防衛費を急増させた日本の安全保障問題が世界から注目を浴びている。しかし、自衛隊は物資、人材、経験面すべてにおいて不足しており、必要な情報共有も権限付与もない。予算を増やしたところで、自衛隊はその資金を有効に使えるのか、英紙「フィナンシャル・タイムズ」が疑問視している
圧倒的な「経験」不足
防衛費増額を発表した後も、東アジア地域の緊張は高まる一方だ。4月、中国軍は台湾周辺で軍事演習をした。そんななか、軍事専門家は、日本が台湾有事に巻き込まれるリスクをいまだに過小評価していると警鐘を鳴らす。
「自衛隊は日本を守るために今すぐ戦えるのでしょうか。もちろん、できません」と、フランスの戦略研究財団のアジアプログラム研究主任であるヴァレリー・ニケは述べる。日本は防衛にさらなる資源を投入しているというメッセージを出したがっているものの、実際にできることはまだ極めて限られる、と彼女は主張する。
「問題は訓練です。能力はゼロではありませんが、戦争が起こるとは考えられていないでしょう。実際の戦闘を想像する必要がありますが、1945年以来、その経験はないわけです。彼らが採用する若者の多くは、自分たちが戦わなければならないとは思っていません」
日本はこれまで戦力不足が明らかになるのを恐れ、実際の戦闘をシミュレーションした演習をすることにすら消極的だったという
慢性的な「人材」不足
自衛隊のもう一つの課題は、必要な数の人材を集められないことだ。人口が減少する日本では、約135人の求人に対して100人の求職者しかいない。自衛隊はそのなかで競争している