無料のビザにルーブル高、そして桜…

すべてが訪日の後押しに─日本を訪れるロシア人観光客、倍増の見込み

 
 
 
Photo: sunrising4725 / Getty Images
 
 

 

ロイター(英国)ほか

 

Text by COURRiER Japon

「暖かいコートに身を包み、毛糸の帽子をかぶった数百人が寒さにも負けず行列を作っている。彼らは有名人を見に来たわけでも、展覧会に来たわけでもない。彼らが求めているもの、それは日本のビザなのだ」

2025年3月20日、「ロイター通信」はビザを求めて在ロシア日本大使館の前に並ぶ人々の様子をそう伝えながら、日本を旅先として選ぶロシア人の大幅な増加を報じた。ヨーロッパ諸国とロシアとの緊張が高まるなか、ロシア人たちは新たな旅先を開拓している

 

 

 

ロシア観光産業連合のドミトリー・ゴリン副会長は、「日本で休暇を過ごすロシア人の数は、2024年の10万人から今年は倍増するだろう」とロイターの取材に語る。その最大の理由として、「複雑なビザ手続きがなく、手頃な価格のフライトがあることだ」と説明する。
 

日本は現在、ロシア人観光客に対して無料のビザを発行しているほか、日本滞在中のホテル代の支払いを証明する書類の事前提出義務を解いた。「日本へのビザの取得は4〜5日でできる」とビザ発行の列に並ぶ女性はロイターに話す。さらに、ゴリンによるとロシアから日本への往復チケットは多くが中国経由で約4万ルーブル(約7万円)だという。

 

 

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ウクライナの頭越しでうごめく米露の思惑とは

「プーチンはいまのトランプとは停戦に応じない」 小泉悠が読む交渉の行方

 
 
 
 
小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授、民間インテリジェンス組織DEEP DIVE理事。専門はロシアの軍事・安全保障政策。著書に『「帝国」ロシアの地政学』『ウクライナ戦争』『情報分析力』など Photo by Atsuko Tanaka
 
 
 
 

 

クーリエ・ジャポン

 

Text by Misuzu Nakamura

 

ロシアとウクライナの戦争が4年目に突入し、トランプ米大統領が停戦交渉に乗り出したが、ロシア寄りの言動が目立つ。はたして停戦は実現するのか、トランプはなぜプーチン露大統領を慕うのか、そして同盟国を見捨てる米国のやり方が日本の安保政策に与える影響とは──。ロシアの軍事戦略に詳しい東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠准教授に聞いた。


──まず3月18日の米露首脳の電話会談で合意したこと、合意できなかったことをどう評価していますか。

基本的には何も決まらなかったと理解しています。というのも、プーチンは先月まではトランプをうまく取り込んでロシア有利の停戦にもっていけると踏んでいましたが、その後にトランプ政権が方針を変えた結果、ロシアはいま停戦に応じる気はないと私は見ています。

2月12日の米露首脳の電話会談では、プーチンがトランプにかなりロシア寄りの立場を取らせることができました。あの時点でトランプは「ウクライナが占領された土地を取り返すのも、NATOに加盟するのも現実的ではない」と、ロシアの主張にぴったり重なる発言をしていました。
 

そして2月28日のホワイトハウスでの米ウ首脳会談の決裂です。このままだと米露だけで手打ちにしてしまい、ウクライナは選挙で政権交代を強いられるのではないかという兆候がありありと漂っていました。

ところが、3月11日にサウジアラビアでおこなわれた米ウ高官協議では、さすがにロシアにそこまでお得な停戦はないことが明らかになってきた。米国はウクライナの安全保障に明確にコミットするとまでは言いませんでしたが、30日間の停戦案そのものに関してはウクライナの意見も聞いて真っ当なものになりました。

つまり、ロシアが目指していたウクライナの事実上の降伏が遠のいていたというのが、今回の2回目の米露電話会談の文脈です。数日前からプーチンは「30日間の停戦では意味がない。紛争の根本的な原因を除去しなければ」と言っていましたが、実際に電話会談をしてみると、やはり実質的な停戦の話は何ひとつ出ませんでしたね。

お互いのエネルギーインフラに対する攻撃停止というのは象徴的には意味があるかもしれません。ですが、その他に関しては、プーチンはこれまでの主張を一方的に繰り返しており、結局ウクライナをロシアの属国にするまで満足できないのだろうということが改めて確認されたと思っています。

──プーチンのいう「根本的原因」とは?
 

この5年ぐらいプーチンが言ってきたことを素直に聞いたならば、「ウクライナがロシアでなくなってしまったこと」が、そもそもの問題だと捉えています。しかも、そのウクライナがロシアの言うことを全然聞かず、米国の手先になっている、と。

もうひとつの根本的な問題は、ウクライナも含めて欧州の安全保障秩序が米国中心にできていて、NATOの東方拡大により、旧ソ連圏で3番目に大きな国ウクライナも取られてしまう恐怖があるという。地政学的な発想とナショナリスティック(民族主義的)な感情が結びついています。

となると、プーチンとしてはウクライナを属国化し、なおかつ東欧に関しては緩衝地帯にするところまでいかないと、紛争の根本的原因の除去にはならない。でもそれはウクライナにとっては降伏になるので妥協できるわけがない。

その互いに折り合いをつけられないところが、この3年間で政治的解決に至らなかった理由だと思っていますし、今後も難しいだろうと見ています。

私はこの戦争について、戦場の形勢が最終的な終わり方に影響するのではないかという見方をずっとしてきました。政治のテーブルの上で決まったことが戦場に反映されるのではなく、戦況がテーブルの上に反映される、と。
 

そこでトランプが出てきて、乱暴な力技ではあるけれど、政治のシーズンが訪れたのかもしれないと、この1ヵ月半ぐらい見ていました。トランプが戦場からテーブルの上に主導権を取り戻そうとしていることはわかりますが、やはり完全に政治が主導権を握っているようには見えないですね。

この戦争はまだしばらく軍事フェーズが続きそうです。
 

現実的な「終戦シナリオ」


──いまの戦況を踏まえ、その終わり方、出口みたいなものは見えますか