英紙記者が体験レポート
超富裕層向け、最先端「性欲開花トリートメント」でおこなわれていること
デイリー・テレグラフ(英国)
Text by Helen Kirwan-Taylor
富裕層向けのセクシャル・ウェルネス産業が活況を呈している。62歳の英紙記者が、自らを実験台に「性欲開花」治療に乗り込んだ。
セレブたちはよく、更年期について語る。ホットフラッシュからホルモンパッチまで、プライベートな詳細をふんだんに共有してくれる。ところが、ことセックスにおいてはそうはいかない。いや、少なくともグウィネス・パルトロウがそんな流れを見事に変えるまでは、そうだった。
パルトロウが創業したライフスタイルブランド「goop(グープ)」は、Netflixの6エピソードからなるシリーズ『セックスと愛とグープ』などを通して、セックスについて語ることへの抵抗感を和らげ、「ヴァギナ用タマゴ」やバイブレーターといった言葉を日常会話に持ち込んだ。
「バイオハッカー」たちの存在も忘れてはならない。かつて、「生卵を飲むカリフォルニアの過激なボディビルダー集団」として知られていたアスリートと科学者たちは、いまや成長著しい不老長寿産業のキープレーヤーとなり、「人は65歳や85歳になっても、35歳のときと同じことができる」と主張している。
その「できること」には、セックスも含まれる。たとえそのために陰部に幹細胞を注入したり、ホルモンジェルを塗り込んだり、タントラヨガを6時間やったり、それに加えてバイアグラとエクスタシーを一緒に摂取したりする必要があったとしても、それはそれでいいのだ。
しかし普通の人間、とりわけ私のような62歳の年配の人間は、当然のことながらセックスに関して自由で率直な議論を交わすことに慎重にならざるをえない。おそらくは相手を赤面させないため、もしくは、60歳以上の人間のセックスは、それが誰であろうとちょっと変だということを認めるのが恥ずかしいのかもしれない。
素晴らしいセックスは富裕層だけのものに?
それでもなお、世界のセクシャル・ウェルネス産業は490億ドル(約7兆2000億円)規模へと成長しており、一流ホテルの経営者もこの分野に注目している。
これまでも米ニューメキシコ州などに、性的に奔放な人々向けの「インティマシー・リトリート」は存在していたが、刺激的なセックスライフを満たすためのサービスは、高所得層に狙いを定めつつある。
いまやそれは、ビルケンシュトックを履いたヒッピーの代わりに、白衣を身につけたドクターの指導のもと、大理石張りの五つ星ホテルを舞台におこなわれるようになったのだ
そういうわけで、私はスペインにあるSHA ウェルネス クリニックを訪ねることになった。2023年、ヨーロッパ初のセクシャル・ウェルビーイング部門を立ち上げたクリニックだ。
現在、世界中のホテルが続々とセクシャル・ウェルビーイングやインティマシーに関連するプログラムを導入しているが、現時点ではSHAが最も総合的なプログラムを提供している。
目下のところ、50歳以上で素晴らしいセックスを享受できる可能性が高いのは、富裕層のようだ。2006年、総資産8900万ドル(約130億円)以上、年齢の中央値57歳の600人の男女を対象に性に関する調査がおこなわれた。この調査では男性の約3分の1と女性の72%が、「マイル・ハイ・クラブ」のメンバーだと回答。マイル・ハイ・クラブとは、飛行機内で性行為に及んだことがあると自己申告している人たちのグループで、当然ながら、プライベートジェット内の方がしやすいはずだ。
そしてその大半が、裕福であることが寝室で高い満足感を得られる要因だと認めている。つまり、わずらわしい家事や雑用を外注する財力がある彼らには、より良いセックスに必要な時間的余裕がある。
今日、良いセックスの敵となっているのが、現代の職業生活の副産物である疲労とストレスホルモン、コルチゾールだ。ストレスによって血流が悪くなると、勃起不全や性欲減退、膣のゆるみの原因にもなる。
結局、何もしなくてもお金がある人以外は、仕事で成功すればするほど、ベッドでは振るわないということにもなりかねない。かくして、人々はSHA ウェルネス クリニックを目指す。
すべては性欲を目覚めさせるため
私は、SHAのセクシャル・ヘルス部門責任者である臨床心理学者、シンシア・モリーナ博士のオフィスにいた。すでに身体組成のチェックと採血は済んでいて、これからいくつものコンサルテーションが待っている。
婦人科医との面談に、女性専門理学療法士とのアポイントメントも入っているし、各種マッサージ、ボディラップ、ヨガ、はり治療、専属グルによるチベット太鼓と呼吸のセッションなど、私のためにさまざまなメニューが組まれている。それもすべて、私のコルチゾールレベルを下げ、性欲を目覚めさせるためのものだ。
若くエネルギッシュなスペイン人のモリーナ博士は、金色のクリトリス形のエンブレムを首から下げていたが、女性顧客の多くはそれに気づかないようだ。
話を始めてから数分後、彼女は私に「英国の方でしたね?」と訊ねた。おそらく、性生活について語る私の抑圧された様子にそう思ったのだろう(私は米国人だが、非社交的な英国人男性と結婚して長い)。
62歳の女性である私が訴えたすべての症状(陰部の乾燥、長い闘病生活を送った後、エネルギーや性欲がなくなったこと)に対して、モリーナ博士は即座に安心させる言葉をかけてくれた。「それが普通ですよ」と。
多くの人にとって、これこそ長年の恥ずかしさに終止符を打てる瞬間に違いない。モリーナ博士は、セクシャル・ウェルビーイングへの第一歩はオープンなコミュニケーションなのだと言った。
彼女によれば、エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン(閉経後の性欲に重要な3種のホルモン)と女性用潤滑剤があれば、私くらいの年齢の女性でも充分、1日24時間、いつでもセックスができるはずだという。ただし、他の健康状態に問題がなければという条件がつくため、ここのプログラムには総合的な健康診断が含まれているわけだ。
SHAでは、男性と女性の顧客両方に積極的にテストステロンを与えている。一方、英国では通常、テストステロンの女性への処方は認可されていない。いくつかの研究では、テストステロンが男性の前立腺ガンのリスクを高める可能性が示唆されているが、SHAはそれを最新の研究を考慮に入れていない「旧態依然の考え方」とみなしている。
モリーナ博士は、特に私のようにエネルギーの問題を抱えている人間は、活力を与えてくれるテストステロンを摂るべきだという。SHAでは、一部の女性客はゆっくりとホルモンが滲出するテストステロン・ペッサリーを使用しており、それには、腹部の脂肪を減らす効果もあるという。
私たちは、基本的な生理機能に関する会話を交わし(私はオーガズムが起きる場所について知っているが、知らない女性も多い)、ついに私の個人的な状況について話をすることになった。
「オーガズムはマストハブ」
私には、自分と同年代の女性が実際にどの程度「行為」をしているのか、どの程度するべきなのか、さっぱり見当がつかなかった。すると、モリーナ博士は言った。「驚くかもしれませんが、寝室を別にしているカップルでも、時に週2〜3回はしていらっしゃいます」(私にはこれは、誰もが50%は嘘をつく「お酒をどのぐらい飲むか?」と同じカテゴリーのデータのようにも思えるが)
そして、私がバイブレーターのブランドについて一切知らないことに驚いた博士は、すぐさま彼女のお気に入りのブランドである「ウーマナイザー」を購入するよう勧めてきた。それをもたらすのが自分であろうと他人であろうと、「オーガズムはマストハブ(必需品)」なのだと博士は言う。
「オーガズムはとても重要です。オーガズムがなければ、生殖器は衰えます」(ちなみにSHAから戻った私は、イギリスの女友達たちにアンケートを取ってみたが、半数しかバイブレーターを使ったことがなかった)
モリーナ博士はまた、更年期後のセックスは、「物理的に、若かりし頃のようには自分の体が欲さない」のだから、抗いがたい衝動よりも「選択の問題」なのだと話す。つまり、デートナイトを計画するとか、スエットパンツ姿でごろごろしないといったことが重要になるのだという(SHAのスタッフや顧客のエレガントな様子を見る限り、スペインの女性たちはそんなことはしないのだろう)。
高額な“治療”の数々
続いておこなわれたのが、このプログラムの人気に一役買っていると思われる、クリニック専属のホルモンの専門家、ラファエル・ナバス博士とのコンサルテーションだ。
博士いわく、性的パフォーマンスの向上はいまや非常に需要が高まっており、たとえば33歳のアスリートといった若い男性さえも、毎日服用するタイプの低容量経口バイアグラスプレーを処方してくれと訪ねてくるそうだ。「彼らには必要ないですけどね」と博士は言う。
ナバス博士による治療のほとんどがテストステロンジェルを使ったもので、これですべてが改善されるという。気分や活力、性欲を高め、場合によっては特定の心血管疾患や認知疾患の予防にも役立つらしい。女性の性欲に関しては、ホルモン補充療法とテストステロン、そしてテストステロンの自然産生を促すホルモン、DHEAやロディオラ、マグネシウムなどのサプリを勧めている。だが、これはまだまだ初心者レベルだ。
SHAスペインの再生医療部門に属するアルバロ・デュラン博士は、勃起不全などの問題で幹細胞治療(患者本人の血液を遠心分離して得た血漿を陰茎に注射する治療)を求めてくる人も多いと明かす。
血管新生により血流が改善されるため、「もう、バイアグラは不要になります」と博士は言う。現在、この治療には6000ユーロ(約96万円)の費用がかかり、通常は何度か繰り返す必要がある。博士によれば、同じ治療が米国では2万5000ドル(約370万円)かかるらしい。
女性用には「Emfemme 360」という治療があるが、1セッションで900ユーロ(約15万円)で、最低7回以上のセッションが必要だ。この治療では、温めたペニス状のプラスチック製アタッチメントを膣に8分間出し入れしながら高周波を流し、膣の乾燥やゆるみを改善する血管新生を促す。さらに、別のアタッチメントを陰唇に当て、コラーゲンの生成を促進させる。この記事のことがなければ、部屋から飛び出していただろう。
SHAでは他にも、モリーナ博士が「性生活に革命をもたらす」と言う、膣の引き締めに役立つCO2レーザー治療や、鞍に似た椅子のような機器「エムセラ」を使った、骨盤底筋を強化し、膣のゆるみを改善する治療もある。椅子に座っている間、ピリピリする電磁波を陰部に流すのだが、決して快適とは言えない。そしてこれも1回ではなく複数のセッションが推奨されており、男性のED治療にも、1回250ユーロ(約4万円)で試すことができるという
服がゆるくなり、肌もつやつやしてきたような…
数々のコンサルテーションの後、手袋をはめた理学療法士が私の中に2本の指を入れ、締めて緩める動作を6回繰り返すよう指示した。恥ずかしさに赤面したが、私の骨盤底筋の状態は10点中7点で、当面大人用おむつは必要ないと知らされ、安堵した。同年代の女性の多くが尿漏れに悩んでいるが、なかなか口にできないらしい。
血液検査の結果からは、テストステロンとエストロゲンのレベルが低いことが判明した。SHAのあらゆる部門を長く統括している専属医師のビセンテ・メラ博士によると、私の疲労やイライラはそのせいなのだという。つまり、何だか落ち着かない感じとか疲労感とか、こわばりとか、私のいまの多くの不調の原因は単にホルモンバランスの乱れということなのかと問うと、「そうです、そうです!」とメラ博士は興奮気味に答えた。
処方箋を書いてくれたメラ博士は私に「2週間後にどんな様子かメールで教えてください。ずっと、調子が良くなっているはずですよ」と告げ、こう付け加えた。
「あと、あなたの読者に、バイアグラはテストステロンと一緒に摂らないと意味がないと教えてあげてください。この2つはジン&トニックのように相性が良い。ただし、中年以上に限られます。なぜなら、テストステロンは(精子の生成を阻害する)避妊薬にもなり、男性不妊の原因になりますから」。カリフォルニアのボディビルダーたちが心配だ。
滞在が進むにつれ、私はセックスについて真剣に考えるようになっていった。というのも、服がゆるくなり、肌もつやつやしてきたように感じるし、それに何人かの男性客が私のことを見てくるようになった。新たに活性化された私のフェロモンに気づいたのだろうか?
最後のコンサルテーションを、モリーナ博士はまるで救世主のような言葉で締めくくった。「誰もがセックスについて、自分が何を望んでいるかについて、パートナーとオープンに話すべきです。それが何より重要なことです」(かわいそうな私の夫……)。
目標とすべきは脱抑制なのだ。科学がベビーブーム世代の味方をしてくれるいま(この世代はお金も持っている)、バイアグラを超えるものも期待できる。そう、これは始まりにすぎない。お楽しみはこれからだ
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