富岡市庁舎の不具合は表出した不燃薬剤が原因、隈研吾事務所は修繕費負担の意向
小山 航
日経クロステック/日経アーキテクチュア
市庁舎の軒裏に生じた雨染みは、軒裏の野地板先端に取り付けた金物がさびて膨張し、軒先の水切りが十分に機能しなくなったために発生した――。群馬県富岡市は2025年2月19日、18年3月完成の市庁舎に生じた不具合の原因について、設計者や施工者と実施した調査の結果を明らかにした。富岡市庁舎の不具合は、SNSで話題となっていた。
富岡市庁舎議会棟1階の軒裏で発生した雨染み。2025年3月5日撮影(写真:日経クロステック)
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市庁舎の不具合を巡っては24年11月ごろ、「外装の木ルーバーや軒裏が雨染みで腐食している」などといった投稿がSNSで相次ぎ、注目を集めていた。誤った情報の拡散を懸念した市が、設計を担当した隈研吾建築都市設計事務所(以下、隈事務所)や施工者であるタルヤ建設(群馬県富岡市)と調査を進めた経緯がある。
木ルーバーを並べた外装が特徴的な富岡市庁舎は地上3階建てで、鉄筋コンクリート造の柱と鉄骨造の梁(はり)による混構造の建物だ。敷地内には行政棟と議会棟がL字形に並ぶ。
富岡市庁舎の行政棟と議会棟(写真:日経クロステック)
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市の財産活用推進課が散水試験を実施するなどして詳細に調査したところ、雨染みと鉄部のさびを、行政棟の正面玄関、議会棟の北側出入り口と屋外階段の軒裏で確認した。発生箇所は合計で長さ100mほどに上った。
さびが生じていたのはいずれも建物の避難経路に当たる。避難経路の仕上げには不燃性能が求められるため、軒裏には不燃薬剤を注入した野地板合板を用いている。そのことから、隈事務所は原因を次のように推定した。
まず、何らかの原因で表出した薬剤が、厚みのある合板の暴れを抑えるために先端に取り付けていた金物(L字形のアングル)の塗料を溶かし、発錆(はっせい)につながった。次に、生じたさびがアングルと屋根の水切り金物の間に設けてあった隙間を塞いだことで水が軒裏に周り込み、雨染みの原因となった。
さびや雨染みが発生した議会棟の軒裏(写真:日経クロステック)
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合板先端のL字形アングルには、さび止めのためSOP(合成樹脂調合ペイント)塗装が施してあった。隈事務所の横尾実社長は、「大手塗料メーカーへのヒアリングではSOPの具体的な物性データは得られなかったが、建設会社の技術部などに聞いたところ、酸性が強い薬剤はSOPを溶かす例があるようだ」と話す。
隈事務所が合板メーカーにヒアリングしたところ、注入した不燃薬剤は酸性が強く、金物を取り付ける場合はステンレス製の製品を用いるなどと注意書きを添えて出荷するとの説明を受けたという。横尾社長は、設計当時の詳しい経緯は調査中としつつ、「薬剤の物性については我々も把握しておくべきだったと思う」と振り返る。通常は、設計図書に不燃薬剤の仕様を明記することはないという
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