短冊膜が揺れる万博「ハンガリー館」、農村のような木質パビリオンの施工で建設DX
川又 英紀
日経クロステック/日経アーキテクチュア
2025年4月13日の大阪・関西万博開幕まで、残り40日を切った。同年1月からパビリオンやイベントの観覧予約抽選申し込み受け付けが始まっている。海外パビリオンはまだ対象が限られるが、いち早く予約を始めた海外パビリオンの1つが「ハンガリー館」である。緑豊かなハンガリーの農村や草原をイメージしたという外観は、他のパビリオンには見られない独特な雰囲気を漂わせている。
建設中の「ハンガリー館」。場所は大屋根リングの中央部付近で、日本のシグネチャーパビリオンである「河瀬直美館」や「小山薫堂館」のそばだ(写真:橋本組)
[画像のクリックで拡大表示]
ハンガリーは25年2月24日(現地時間)、首都ブダペストで記者会見を開き、パビリオンの建築デザインや展示コンセプトなどを発表した。ハンガリー館は同年3月中旬の竣工に向け、パビリオンの最終仕上げに入った。
ハンガリーは2025年2月24日にブダペストで記者会見を開き、パビリオンの建築デザインなどを発表(写真:EXPO 2025 ハンガリー)
[画像のクリックで拡大表示]
ハンガリー館の完成イメージ(出所:EXPO 2025 ハンガリー)
[画像のクリックで拡大表示]
パビリオンのスタッフが着るユニホームも発表した(写真:EXPO 2025 ハンガリー)
[画像のクリックで拡大表示]
建物の構造は鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造。階数は地下1階・地上3階建て。最も高い所は約16.9mである。敷地面積は約1750m2、延べ面積は約2500m2。
ハンガリー館の立体イメージ。南側(図の右側)のパビリオン正面から見て左方向に土を盛り、上り坂のような植栽スペースを設ける(出所:EXPO 2025 ハンガリー)
[画像のクリックで拡大表示]
地上1階の平面イメージ(出所:EXPO 2025 ハンガリー)
[画像のクリックで拡大表示]
中でも特徴的なのは、パビリオンの正面に立つ建物のファサードと、敷地奥にある「イマーシブドーム」の上部を覆う木組みの外装だ。レストランやバー、商談室などができる建物は、森の木立をイメージした縦長のファサードで囲っている。ファサードは建物がすっぽり隠れる高さまでそそり立つ。独立した長い鉄骨柱をあえて斜めに立て、表面は木材で仕上げて樹木を表現している。
南側から見たパビリオンの正面。建物が隠れる高さまで木立のようなファサードで覆う(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
建物の正面を覆うファサードの柱はあえて斜めに立て、木のように見せている(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
ファサードには葉に見立てた短冊状の装飾が無数に付いており、風でなびく。ファサードが動くさまは、葉がひらひらと揺らめくようだ。ハンガリーと日本のパビリオン建設関係者は、この細長い膜材を「ひらひら」と日本語で呼び合っている。
森に見立てた短冊状の膜材が風でなびく。葉がひらひらと揺らめくようで、建設現場では日本語で「ひらひら」と呼ばれている(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
レストランやバーではハンガリー料理やワインなどを楽しめる(出所:EXPO 2025 ハンガリー)
[画像のクリックで拡大表示]
柱と柱の間にスチールワイヤを何本も取り付け、そこにひらひらの膜材をつるした。膜材の数は約3万5500枚ある。短冊に見える茶色系の膜材は長さと色合いが異なるものを交ぜて取り付けている。長さは7種類、色は4種類ある。素材は遮光ラミネートのテント生地で、雨風や日差しに耐えられる丈夫なものだ。
膜材を等間隔につるすため、ワイヤの決められた位置に墨出しで印を付けた。そして全て職人が手作業で取り付けた。
ひらひらと動く膜材は、離れて見ると人工物だと気付きにくい。森の鬱蒼(うっそう)とした雰囲気がよく出ている。ファサードの隙間から見える建物の外壁はカラマツ板のサイディング仕上げにして、木質感を高めている。
一方、敷地奥にあるイマーシブドームは、上部の半球体部分をらせん状に積層した木の角材で覆った。福島県産のスギ材を組み上げた外装で、ハンガリーの農村でよく見かける干し草の山に着想を得ている。イマーシブドームではハンガリー民謡の世界に入り込んだような体験ができる。
イマーシブドームの上部を覆う干し草の山をイメージした木組みの外装(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]
イマーシブドームではハンガリー民謡の世界に入り込んだような体験が待っている(出所:EXPO 2025 ハンガリー)
[画像のクリックで拡大表示]
森や干し草の山を模した装飾だけでなく、本物の草木もパビリオンに持ち込む。正面から見て左手には土を盛って起伏をつくり、そこにハンガリーの草花に似た品種を植える。建物の中層部にも草花を植える屋外スペースを設け、既に植え込みを始めている。ハンガリーは万博の会期中、常に花が咲いている状態にしようとしている。そのため、花が咲く時期が異なる植物を交ぜて植えている。
敷地に土を盛って上り坂のようにして、そこにハンガリーの植物に似た草花を植える(出所:EXPO 2025 ハンガリー)
[画像のクリックで拡大表示]
こだわりが多いパビリオンを設計したのは、ハンガリーの建築設計会社Zoboki Design&Architecture(以下、ZDA)である。基本設計ではZDAが描いた図面に対し、綜企画設計(東京・中央)が技術コンサルティングを行った。日本で施工できる技術や国内で調達できる素材の選択を含めて、実施設計は綜企画設計が手掛けている。
今回のプロジェクトは、ハンガリーの建設会社バイエル(Bayer Construct Zrt)が全体を統括している。バイエルがZDAや綜企画設計、施工者の橋本組(静岡県焼津市)を取りまとめ、パビリオンの発注者にもなっている。
綜企画設計の今川与志雄執行役員支店長は、「時間が少なく、設計と建築の申請手続きなどを幾つも同時に進めなければ間に合わない状態だった。それでもハンガリー側は妥協せず、毎週のように設計を修正してくる。ハンガリー側の設計スキルは高く、翌週には新しいプランを出してきた」と明かす。
ハンガリー生まれの製品で、建設業界ではなじみ深いものがある。CADツールの「Archicad(アーキCAD)」だ。Archicadはハンガリーに本社があるグラフィソフトが開発しており、世界中で使われている。「ハンガリー側にはArchicadの扱いにたけた人が多いせいか、図面の修正が非常に速い」と綜企画設計の今川執行役員は話す。
イマーシブドームの内部を確認する綜企画設計の今川与志雄執行役員支店長(左)と、橋本組の浅村忠文作業所長(写真:日経クロステック
短冊膜が揺れる万博「ハンガリー館」、農村のような木質パビリオンの施工で建設DX | 日経クロステック(xTECH)