建物が脇役」 国立公園の自然と瀬戸内海の風景を損ねない設計

「時の納屋」のランドスケープ(香川県)

大井 智子

 

ライター

 

 

「建物が脇役」 国立公園の自然と瀬戸内海の風景を損ねない設計 | 日経クロステック(xTECH)

 

 

主役は自然と景観」。香川県さぬき市の大串半島の先端に、そんなコンセプトを掲げた拠点施設が完成した。敷地の形状や勾配にこだわり、新築した木造の「時の納屋」も風景の構成要素と位置付けて設計した。

 異なるサイズの地場産の庵治石が長さ90mほど敷き詰められている。「時の小径」と呼ばれるその石敷きを歩いていくと、休憩・飲食施設の「時の納屋」にたどり着く。そしてその先には壮大な瀬戸内海の景色が広がる。自然を存分に感じられる拠点施設が、2024年6月にオープンした。

石敷きのアプローチ「時の小径」から「時の納屋」を望む。2024年9月に撮影(写真:堀部 安嗣)

石敷きのアプローチ「時の小径」から「時の納屋」を望む。2024年9月に撮影(写真:堀部 安嗣)

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写真中央に見える建物が「時の納屋」。敷地は国立公園に指定される大串半島の先端部分に位置しており、瀬戸内海を一望できる(写真:生田 将人)

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 かつて敷地には市の温泉施設と宿泊施設が立ち、多くの団体旅行客でにぎわっていた。だがバブル崩壊とともに観光客が減少し、維持管理費が財政を圧迫した結果、市は施設を閉鎖。18年に跡地利用で拠点施設を建設する活性化事業を開始した。

整備前。芝生広場に隣接して市の宿泊施設(2012年閉鎖)と温泉施設(2007年閉鎖)が立っていた(写真:堀部安嗣建築設計事務所)

整備前。芝生広場に隣接して市の宿泊施設(2012年閉鎖)と温泉施設(2007年閉鎖)が立っていた(写真:堀部安嗣建築設計事務所)

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 「新たな施設は、来場者が多くなければ持続できない大規模なものではなく、市が主体に維持管理できる小規模なものを望んだ」。市建設経済部商工観光課の池田佳泰副主幹はこう説明する。「国立公園に位置する大串半島の自然と、瀬戸内海の風景は市の財産。『主役は大串半島の自然と景観』とのコンセプトの下、計画を進めた」(池田副主幹)

延べ床面積は以前の10分の1以下

 市は建築設計と土木設計を一括して、堀部安嗣建築設計事務所(東京・新宿)に委託。構想段階から活性化事業に参画していた堀部安嗣氏は、「事業の目的は建物を造ることではなく、敷地を魅力的な空間にすること。そのためにランドスケープデザインが重要だと考えた」と振り返る。

 時の納屋の延べ床面積は、以前の温泉・宿泊施設の10分の1以下。「建物を小さくすることで、新たに生まれた地面に本来の大串半島の自然の姿を戻したいと思った。限られた予算内でランドスケープのコストを確保したいとも考えた」(堀部氏)

「時の納屋」は地下1階、地上1階建ての木造建築(写真:生田 将人)

「時の納屋」は地下1階、地上1階建ての木造建築(写真:生田 将人)

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時の小径から時の納屋へ向かう。時の納屋に近づくと瀬戸内海が視界に入る(動画:生田 将人