区分所有法改正に弁護士らが異議、「マンション共用部の欠陥」に関する損害賠償巡り
荒川 尚美
日経クロステック/日経アーキテクチュア
区分所有者に中古購入者が含まれる分譲マンションでは、管理組合の理事長などが共用部分の欠陥に関する損害賠償を求めて裁判を起こしても、訴えを却下される恐れがある――。
こうした問題を是正するため、国土交通省が2025年の通常国会に提出を予定している「(仮称)老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」に、区分所有法26条の改正を盛り込む予定だ。早ければ25年3月に閣議決定する。
2024年12月に衆議院第2議員会館で欠陥住宅被害全国連絡協議会が開催した「マンション共用部分の100%補修の実現を求める院内集会」のメンバーと登壇者。与野党の国会議員5人が、この問題への関心を表明した。前列右端が神崎哲弁護士(写真:欠陥住宅被害全国連絡協議会)
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改正案の基になるのが、法務省の法制審議会が答申した「区分所有法制の見直しに関する要綱」。記事冒頭に示したような課題の解決を狙ったはずだが、欠陥住宅被害全国連絡協議会(以下、欠陥住宅全国ネット)とNPO法人全国マンション管理組合連合会(以下、全管連)がこの要綱の内容に異議を表明し、国会での見直しを訴えている。
欠陥住宅全国ネットで幹事長を務める神崎哲弁護士は「区分所有法の改正自体には賛成だが、現在の改正内容ではさらなる混乱を招く恐れがある。改正しないほうがましだ」と話す。どういうことか、順を追って解説しよう。
分譲マンションでは、区分所有者が共用部分の損害賠償請求権を別々に行使しても、賠償金は住戸の持ち分割合になるため少額にとどまることが多い。また、受領した損害賠償金は一般に共用部分の損害回復に振り向けられる。そのため02年の区分所有法改正では、区分所有者を代表する管理組合の理事長などが「管理者」となって、損害賠償請求権を円滑に行使できるようにする規定が26条2項と4項に加わった。
区分所有法26条2項と4項。波線は欠陥住宅全国ネットの資料に基づく(出所:欠陥住宅被害全国連絡協議会)
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ところが、分譲マンションの外壁タイル剥落を巡って管理組合の理事長が事業者を訴えた裁判で、東京地方裁判所が16年7月29日に下した判決が、波紋を呼ぶこととなった。判決では管理者による損害賠償請求権の行使を認めず、訴えを却下したのだ。
このマンションでは住戸が転売された際に、売り主(旧区分所有者)から損害賠償請求権を譲り受けていない購入者(現区分所有者)が存在した。東京地裁はこの点を踏まえ、原告である管理者が区分所有者全員を代理できないとし、原告適格を認めなかった。
この判決は、共用部分の欠陥を巡るその後の裁判に大きな影響を与えた。管理組合が瑕疵(かし)を修補するための費用を得られず、十分な対策を講じるのが難しくなりかねない状況が生まれたのだ。今国会への提出が予定されている区分所有法26条の改正案は、そうした状況を改善するのが目的だ。
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管理組合理事長には「原告適格なし」
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2019/04/11