ブランド品が売れない時代に、エルメスをも凌駕する理由

高級車フェラーリCEOが教える「唯一無二のブランドを作る5つの秘訣

 

 

 

ブルームバーグ(米国)ほか

 

Text by COURRiER Japon

 

世界中で高級ブランドが売れなくなり各社の業績が悪化するなか、「ブランド価値」という点で競合と一線を画す会社がある。イタリア高級車のフェラーリだ。半導体業界出身のCEOに、唯一無二のブランドを作るための5つの秘訣を米メディアが聞いた。


世界中で高級ブランドが売れなくなっている時代に、エルメスは二桁成長を続けている。ルイ・ヴィトンを擁するLVMHの時価総額を抜き、エルメスが世界最大の高級ブランド企業となる日も近いと予測する専門家も多い。

しかし、このエルメスをブランド価値で凌駕する企業がある。イタリア高級車のフェラーリだ。2024年にフェラーリは株価収益率(PER)で一時初めてエルメスを上回った。PERは株価が1株利益の何倍の価値になっているかを表す指標で、ブランド価値を表すとも言える。

米メディア「ブルームバーグ」によると、直近のフェラーリの時価総額は850億ドル(約12兆7500億円)以上。これは、年間数百万台を生産するフォードやゼネラルモーターズの時価総額の約2倍に相当する。一方、フェラーリの2024年の生産台数は1万3663台だった。このことからも、

 

フェラーリは自動車メーカーというより、

高級ブランド企業であることが理解できるだろう。

 

 


 

フェラーリがなぜ高級ブランドのトップに君臨するのかを探るため、

 

米メディア「CNBC」はイタリア・マラネロの本社を訪れ、

 

CEOのベネデット・ヴィニーニャに

 

インタビューをおこなった。

 

ヴィニーニャは高級ブランド業界としては異色の存在で、

半導体メーカー出身。彼が語った、

「唯一無二のブランドを作る5つの秘訣」とは、どんなものだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1、希少性を武器にする


フェラーリの生産台数は増加しているが、富裕層の増加に比べると遅れている。平均価格38万ドル(約5700万円)のフェラーリを購入できる財力があっても、車種によっては納車待ちの期間が3年に達することもある。

この希少性こそ、フェラーリのブランド価値だと言うヴィニーニャは、「市場の需要より常に1台少なく売る」という創業者の戦略を守る。納車待ち期間もブランドを体験することの一部とされ、顧客にとって特別な時間となっている。
 

2、感情を揺さぶる


「フェラーリが高級ブランド企業である所以は、唯一無二の製品を提供しているからだ。フェラーリは、人間のもっとも深い部分、感情に訴えかける。テクノロジー、イノベーション、物語性、伝統のすべてを駆使して、人々の感情を揺さぶる存在であるべきだ」とし、人の心を揺さぶるかどうかがすべてだとヴィニーニャは語る。

だからこそ、フェラーリは決して「移動手段」をつくることはない。「カンファレンスに招待されても、“ユーティリティ”や”モビリティ”という言葉が出た瞬間に断る。私たちは便利な製品をつくっているのではない。感情を動かす製品をつくっている」と断言する。

3、価格設定はアート


フェラーリの価格が年々高騰していることから、多くの人は「利益やウォール街の要求に基づいて価格が決まる」と考えるかもしれない。しかし、ヴィニーニャによると、フェラーリの価格設定プロセスは意外な方法で行われている。
 

新モデルのベース価格が決まるのは、発表の約1ヵ月前。しかも、実際に車を走らせてから決定するというのだ。

「価格の決め方はシンプルだ。新車発表の1ヵ月前、私と数名のチームでサーキットに行き、1日から1日半、じっくり走らせる。そして、その体験で得た『新鮮な感情』のまま価格を決める。決定するのは、CEO、CMO(最高マーケティング責任者)、CFO(最高財務責任者)の3人。感情を共有し、その感情で価格を決める」という

 

 

 

 

その感情は、年々高まっているようだ。一部の車種は10年前から40%値上がりしている。
 

4、VIPへの道


フェラーリは決して公には認めないが、ディーラーに聞けばわかる。新車や限定モデルを手に入れるには、顧客も「レベルをあげる」必要がある。

まずはベーシックなモデルを購入することから顧客としてスタートし、その後、より魅力的なモデルを1台、2台、3台と増やす。フェラーリのイベントに参加し、ブランドへの忠誠心を示していけば、最終的に高額モデルや限定モデルの購入資格を得られる。
 

実際、フェラーリの販売台数の約75%は既存顧客によるもの。「フェラーリとエルメスは、もっとも魅力的な商品を、もっとも忠誠心の高い顧客にのみ提供する。この仕組みが、ブランドの価値をさらに高め、欲望を最大限に引き上げるのだ」という。
 

5、幸せな従業員が幸せな顧客を生む


ヴィニーニャはフェラーリのCEOに就任したとき、フェラーリの多くの従業員がフェラーリに乗ったことがないことを知った。そこで会社は従業員を試乗会に招待し、自分たちの仕事の重要性を実感してもらう機会を提供した。

また、欧州の企業では珍しいストックオプションを導入。従業員に最大約2000ユーロ(約32万円)相当の株式を無料で付与した。

「人が会社の中心です。株を与えることで、全員が会社の一部、会社のオーナーであると感じるのです。どの会社にも人はいますが、会社は人材で成り立っています

 

 

 

 

 

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技術が進歩しても汗水流して働くべきだ

フェラーリCEO「絶好調の高級車ビジネス」と「苦しい中国市場」を語る

 
 

 

 

ル・ポワン(フランス)

 

Text by Beatrice Parinno

 

 

テクノロジーに強いラグジュアリー企業


──フェラーリにとって、時間やスピードは貴重なものですか?

サーキットではスピードが肝心です。それも量的な意味でのスピードがね。しかしサーキットを出たら、質のほうが大事だと思います。

どんな場面でも、「まずはやってみてそこから学び、すばやく適応する」ことが順当だと思います。
 

レースでは一度スタートしたら、全力で1位を目指しますが、サーキットの外では時間をとって考えをめぐらし、スピードをコントロールするオートマティズムを体得しながら、次のレースに備えます。

これは、企業経営の世界でも通用する原則です。経営においても、世界の変化に合わせて戦略をつねに調整しなければなりません。私は「敏捷な思考は海も陸も飛び越えるゆえに」というシェイクスピアの詩句を、つねに自分に言い聞かせています。

──過去を振り返ることは有意義ですか。

ラグジュアリー企業は、一方の目で過去を、もう一方の目で未来を見るところがありますが、ハイテク企業は、両目とも未来に向けなければなりません。後ろを振り返っている暇はないのです。

フェラーリの場合、これまでの伝統も大切ですが、テクノロジーもかなり重要です。過去に敬意を示しつつも、未来にこだわっています。
 

──いま、ラグジュアリーやハイテクといった言葉を口にされました。フェラーリは、単なる自動車メーカーではないのでしょうか。

フェラーリは、テクノロジーの要素を強く持つラグジュアリー企業です。私たちが売っているのは、「感動」なのです。

フェラーリから降りた人は、愉快になっているか、汗だくになっているかのどちらかです。フェラーリの操縦には、ある種の緊張やストレスが伴いますからね。落ち着いて運転すれば、快楽がそれに優るので、運転し終わったときには笑顔になれるでしょう

 

 

 

フェラーリがもっと軽量だったら、人類の進歩を体現するものとして宇宙に送り出したいとさえ思います。それによって、人類の多面性を伝えられますからね。

 

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EVのために新工場建設という「賭け」

高級車「フェラーリ」は“静かな”EVに移行しても、その魅力を保てるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨーク・タイムズ(米国)

 

Text by Bernhard Warner

 

欧米でEV市場が停滞している。そんななか、高級スポーツカーメーカーのフェラーリは、2025年に初めてのEVを売り出す予定だ。しかし、熱狂的なファンが多い同社は、EVという全く異なるシステムに移行しても、その魅力を保てるのか。EVに大規模投資をするフェラーリのいまについて、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が考察した。

減速するEV市場


北イタリアの新工場では、フェラーリ車のフレームがロボット搬送装置によってなめらかに運ばれていく。ステーションごとに、チェリーレッドのユニフォームに身を包んだエンジニアたちがフレームにエンジンブロック、ダッシュボード、ステアリングホイールといった部品を付け加えていった。そうしてハイブリッド車が組み立てられた。

そして、同社が次に作ろうとしているのは、電気自動車(EV)だ

 

 

 

フェラーリの新工場「eビルディング」で作られるハイブリッド車 Photo : Maurizio Fiorino / The New York Times


フェラーリは2億ユーロ(約340億円)をかけ、ローマのコロッセオの約2倍の広さを持つ新工場「eビルディング」を完成させた。EVを製造する同工場は、2024年6月、ついに稼働を開始した。77年の歴史を持つ同社のスポーツカーは、甲高く澄んだエンジン音で知られる

 

 

 

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