すべてが拷問でした」

旅行中に結婚、即離婚─インドネシアのある地域を支える「快楽婚」とは何か

 

 

 

 

 

ロサンゼルス・タイムズ(米国)

Text by Stephanie Yang and Dera Menra Sijabat

インドネシアの山間部では近年、「快楽婚」と呼ばれる一時的な結婚が盛んにおこなわれている。結婚するのは、主にサウジアラビアから来た富裕な男性と、現地の若い女性や少女だ。イスラム教徒たちの間でも議論の的になっているこの慣行を、米紙「ロサンゼルス・タイムズ」が取材した

 

 

 

旅行中に結婚、即離婚─インドネシアのある地域を支える「快楽婚」とは何か | クーリエ・ジャポン

 

 

 

5日間の結婚生活


彼女の最初の契約結婚の相手は、サウジアラビアから来た観光客だった。男性は50代で、彼女は17歳。二人はジャカルタのある三つ星ホテルの客室で、イスラム法の物議を醸す条項に基づき、ささやかな式を挙げた。

彼女の姉が後見人として付き添い、結婚を仲介した業者が立会人を務めた。

男性は約850ドルの結納金を支払ったが、仲介業者と司式者が報酬を差し引くと、彼女の手元にはその半分程度しか残らなかった。
 

新婚カップルは南へ2時間ほど車を走らせた山岳リゾート地、コタ・ブンガにある男性の別荘へ向かった。彼女は性的関係の合間に、床掃除や料理をしたり、テレビを見たり、インドネシア人メイドと話したりして過ごした。だがほとんどの時間は、ただこの日々が終わるのを待つだけだった。

その生活は5日間続いた。男性は飛行機でサウジアラビアに帰国し、アラビア語で離婚を意味する「タラーク」という一言を発することで、一方的に婚姻を解消した。
 

15回以上の結婚


彼女は本名すら男性に明かさず、「チャハヤ」という偽名を名乗っていた。以来10年間、彼女は契約結婚のたびに同じ偽名を使用してきた。正確な回数はわからないが、少なくとも15回にのぼるという。相手はすべて中東からの観光客だ。

「すべてが拷問でした」と彼女は語る。「いつも頭にあったのは、家に帰りたいという思いだけでした」

ムトア婚(「快楽婚」と呼ばれる一時的な婚姻関係)は、インドネシアの山岳地域プンチャックにおける重要な収入源となっている。この慣行は広く一般化しており、地域一帯はインドネシア人の間でしばしば「離婚者の村」と呼ばれるほどだ。
 

チャハヤは人口1000人の村内で、同じように生計を立てている女性を他に7人知っていると話す。売春と同様、契約結婚はインドネシアでは違法とされている。だが、取り締まりはほとんどされていない。

むしろムトア婚は、宗教と国家の狭間にあるグレーゾーンで、仲介業者、司式者、勧誘員から成る広範なネットワークを持つ産業へと成長している。

長年、タイは中東からの観光客にとって、東南アジアで最も人気のある観光地だった。そこには売春目的の観光客も含まれる。それが1989年、タイ人の使用人がサウジアラビア王室から宝飾品を盗み出したブルーダイヤモンド事件と、これに端を発する連続殺人事件により、両国の外交関係に亀裂が生じ、状況は一変した。

その代替地として浮上したのがインドネシアだった。人口の87%がイスラム教徒であり、メイドや運転手として多くの出稼ぎ労働者を受け入れていた関係で、サウジアラビアにとってすでに馴染み深い国だったからだ。

そのため、緑豊かなプンチャックの山岳地帯に、サウジアラビアをはじめとする中東からの観光客が殺到するようになった。「アラブ村」の通称で知られる町では、レストランのメニューや店舗の看板にアラビア語表記が目立つ。一時的な結婚目当ての観光客にとって、コタ・ブンガは最も人気の高い訪問地だと専門家は指摘する