防災人材と仮設住宅、坂茂氏に聞く地震国・日本が抱える2つの課題
菅原 由依子
日経クロステック/AI・データラボ
防災人材と仮設住宅、坂茂氏に聞く地震国・日本が抱える2つの課題 | 日経クロステック(xTECH)
2024年12月、東京都世田谷区にある事務所で坂茂氏にインタビューした(写真:日経クロステック)
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2026年度の防災庁創設に向けて準備が本格化している。防災庁設置準備アドバイザー会議が25年1月にも開始される予定だ。防災庁設置準備室によると、アドバイザーには防災や災害医療、デジタル防災といった分野の専門家20人ほどの名が挙がっている。その中で唯一、「建築家」の肩書で参加が見込まれているのが坂茂氏だ。
災害支援や復興に携わる著名建築家はこれまでにも安藤忠雄氏や内藤廣氏、伊東豊雄氏、隈研吾氏らと数々いる。1990年代から長きにわたって被災地域、紛争地域などへの支援活動を続けてきた坂氏が異質なのは、現地に入るまでのスピード感と、国内外を問わず支援に向かう行動範囲の広さではないか。「求められてからではなく、自分が必要と感じたら現地へ即提案する」という一貫したスタンスが背景にある。
その坂氏に24年12月、現在、国内の被災支援にはどのような課題を感じるのかインタビューした。坂氏が指摘したポイントは主に2つあった。防災人材の必要性、そして仮設住宅の再考だ。
防災人材に関しては、イタリア南部で1980年に起こったイルピニア地震を引き合いに、日本の対応の遅れを語った。イルピニア地震での犠牲者は2700人以上といわれる。
イタリアではその被災後に
自治体や
ボランティア団体の
統率がとれず、
救援が遅れてしまった。
その反省から、
イタリア市民保護局と呼ぶ
非常事態の予測、防止、管理などを担当する国家機関を設立したのだ。
「日本では
阪神大震災で6000人以上、
東日本大震災で約1万6000人を失った
にもかかわらず、
防災庁設立準備まで政府の対応は遅かった」と
坂氏は怒りをにじませる。
これまでの災害支援などが高く評価され、24年に坂氏は第35回高松宮殿下記念世界文化賞を受賞した(写真:日経クロステック)
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あるとき、坂氏が被災後のイタリアへ行くと、
避難所の設立運営を担うスタッフが印象深かったと話す。
イタリアでは災害が起こると一般市民がそれぞれ勤め先などに許可を取ったうえで、社会的に認められた形で現地支援に向かう。
日頃から防災に関する訓練をしている人々が派遣され、
日給をもらえる仕組みが整っているのだ。
「日本でも防災士などノウハウのある人材をちゃんと確保すべきだ」と坂氏は言う。
さらに日本の場合、
避難所のプランや
規格がバラバラなのも
混乱につながると指摘する
。昨今ではNPOなどによる支援も増えつつあるが、
トイレや
シャワーといった
設備が
避難所ごとに異なるケースも多い。
ある程度、
共通資材、
共通設備を使うようにするだけでも
設営・運営の労力が効率化できるというのが坂氏の考えだ。
「日本の被災支援は無償ボランティアに頼っていることが多い。
また、経験したことのない
避難所設営や
運営を、
自身も被災者である地元職員たちがやらされているのだから疲弊してしまう。
自助の考え方だけではダメ。
ちゃんと公助のシステムを構築しなければと
石破さんには首相就任前から提言してきた」と、坂氏は語る