その裏にある「政治理論」とは

テック億万長者ピーター・ティールの“陰謀論”めいた論説の真意

 

 

フィナンシャル・タイムズ(英国)ほか

 

Text by COURRiER Japon

「ペイパル」「オープンAI」「パランティア」などテック大手の共同創設者、起業家、投資家、億万長者であり、ドナルド・トランプ米大統領の一期目では政策顧問も務めたピーター・ティールが、英高級紙「フィナンシャル・タイムズ」に論説を寄稿し、物議を醸している。

「真実と和解のとき」と題されたその論説で、ティールは“予言者”めいた書き出し方をしている。

「トランプが米大統領に返り咲くことは、アンシャン・レジーム(旧体制)のさまざまな秘密のアポカリプシス(暴露)の前兆だ」
 

 

 

 

フランス革命前の政治・社会体制を指す言葉を使ったり、わざわざギリシャ語の「アポカリプシス」という単語を持ち出してみたりと仰々しいが、トランプ二期目では、米国の「旧体制」が国民に開示してこなかった、もろもろの「真実」が徐々に明らかにされていくだろうと言いたいようだ。

このアポカリプシスは報復を正当化するものではなく、「再建と和解」のためだが、和解が起こるためには、「真実」が最初にあるべきだとティールは説教臭い言い方をする。

「このアポカリプシスは、保守派のインターネット上での戦い、もしくはインターネットが勝利した戦争を解決する最も平和的な手段だ」

これまたよくわからない言い回しだ。この一文に続くティールの主張によれば、インターネット登場以前にそうした「真実」を管理していたのが、「分散型思想弾圧複合体(DISC)」だった。メディア組織、官僚、大学、政府に助成されたNGOの複合体が、公論を昔から制限してきたと──。

だが、振り返ってみれば、小児性犯罪の加害者として収監されていた実業家のジェフリー・エプスタインが2019年に獄死したことをめぐって、インターネットはすでに「DISC監獄」からわれわれを解放しはじめていたとティールは書く。

なぜなら、その年の世論調査で、米国人の半数近くがエプスタインの死因は自殺だとする当局の話を信用していないと答え、DISCが物語の完全な統制を失っていることが示されたからだと──。つまりティールは、インターネットがDISCの秘密管理能力を打ち破ったと言いたいらしい

 
 
 
その後、ジョン・F・ケネディ大統領を暗殺した真犯人の話になり、この真相が明らかになるまでに61年もかかっているとティールは書く。しかし、「COVID-19をめぐる自由な議論のロックダウンを終わらせる」ために、ケネディ暗殺の真相と同じように60年間も待つことはできないと論じる。

エプスタインの死因、ケネディ大統領の暗殺者、そしてCOVID-19パンデミックには「隠された真相」があるという前提で、秘密解除してこうした疑惑が明らかにされるべきだというわけだ。

南アフリカは公式の委員会(「真実と和解委員会」、ティールの論説のタイトルもこの委員会を念頭に置いている)を立ち上げてそのアパルトヘイト(人種隔離政策)の歴史と向き合った。だがこうしたさまざまな疑問に答えるには、段階的に秘密解除していくほうが、トランプのカオスな流儀とわれらのインターネット世界には相応しいだろうとティールは述べている
 
 
 

ティールの陰謀論めいた主張は安易に一蹴できない


ティールの論説を掲載したフィナンシャル・タイムズ紙のコラムニストであるエドワード・ルースは、ソーシャルメディア「ブルースカイ」でこの論説を痛烈に批判している。

「シリコンバレー狂信者の頭のなかたるや。ピーター・ティールは、ジョージ・オーウェル風に、現代の自由民主主義を南アフリカのアパルトヘイトになぞらえており、アメリカの『アンシャン・レジーム』の罪を、真実と和解委員会が暴露するよう呼びかけているのだ。正気の沙汰ではない」
 

だが、ティールのこうした主張を安易に一蹴するのは間違いだと論じる識者もいる。米コルビー大学の英語学准教授アロン・R・ハンロンは米誌「ニュー・リパブリック」でこう分析する。

「彼の陰謀論の裏には、ひとつの本質的な政治理論がある。完全に規制が撤廃されたインターネットを介した絶対的な情報の自由があってこそ、われわれは行き詰まった自由民主主義の袋小路を超えて動けるという誤った信念だ」

ティールの主張の背景にあるのは、政府への信頼を取り戻すためなら情報を完全公開すべきという「テクノリバタリアン」らしい発想なのだ

 

 

 

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