耐震性不足や測量ミスが相次ぎ発覚、東急不動産のマンション買い取り提案に住人反発

木下 順平

 

日経クロステック/日経アーキテクチュア

 

 

 

 

 

「まるで施工ミスの見本市だ」。東京都世田谷区内の分譲マンション「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」の区分所有者は憤る。同マンションでは、耐震性の不足や真北測量の誤りによる斜線制限違反などが相次ぎ発覚した。販売した東急不動産は区分所有者に対し、2024年12月20日までに買い取りの上、解体することを提案したが、一部の所有者は提案を拒んでいる。

「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」を東側から見る。区分所有者は既に退去し、現在は仮囲いが設置してある(写真:日経クロステック)

「東急ドエル・アルス世田谷フロレスタ」を東側から見る。区分所有者は既に退去し、現在は仮囲いが設置してある(写真:日経クロステック)

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耐震性不足により、南面は鉄骨の外付けブレースで補強されている(写真:日経クロステック)

耐震性不足により、南面は鉄骨の外付けブレースで補強されている(写真:日経クロステック)

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 東急ドエル・アルス世田谷フロレスタは環状7号沿いに立つ。計49戸の鉄筋コンクリート(RC)造8階建てで、延べ面積は約4100m2。東急建設などの設計・施工で1998年に竣工した。

 管理組合によると、1階部分でカビが発生したため、2018年にマンション管理・調査を手掛けるコンサルタント会社に調査を依頼。地下ピットを調べたところ、躯体(くたい)のひび割れによる地下水の浸入や床の勾配不足による排水不良で、複数箇所に深さ2~3cmの水がたまっていた。

地下ピットでは、躯体のひび割れにより地下水が浸入し、深さ2cmの水たまりができていた(出所:東急ドエル・アルス世田谷フロレスタの区分所有者)

地下ピットでは、躯体のひび割れにより地下水が浸入し、深さ2cmの水たまりができていた(出所:東急ドエル・アルス世田谷フロレスタの区分所有者)

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 不具合の報告を受け、東急不動産も調査に参加。地下ピットでは、配管経路を確保するために床スラブや基礎梁(はり)をコア抜きし、腹筋や開口補強筋など129本の鉄筋を切断・損傷していたことも分かった。断熱材の欠損や床スラブの穴空きなどの欠陥も多数見つかった。

耐震性不足により建て替え方針

 このマンションは、東西方向の揺れに柱梁のフレームで、南北方向の揺れに耐力壁と柱梁のフレームで抵抗する構造形式だ。袖壁や腰壁に構造スリットを設けて構造材と切り離し、地震時に柱梁が変形しやすくなるように設計していたが、構造スリットにも不備が判明した。

 構造計算書では鉛直・水平の計110カ所とされていたが、構造図では計183カ所となっていた。しかし、現地調査により、実際に存在するのは計126カ所と分かった。現地調査の結果を基に構造計算を行うと、1次設計と2次設計のいずれにおいても必要な耐震性能を保有していないという結果となった。

 大梁のスリーブにも不適切な施工箇所が見つかった。少なくとも32カ所で、柱とスリーブやスリーブ同士の間に、本来必要な距離を設けていなかった。

 この他、7階の住戸では耐力壁にコールドジョイントが見つかった。壁の内部ではレイタンスが発生していた。1階の住戸では、壁や床の鉄筋のかぶり厚さ不足などが判明。構造への影響が懸念される不備が複数箇所で見つかった。

7階の住戸では耐力壁にコールドジョイントが発生(出所:東急ドエル・アルス世田谷フロレスタの区分所有者)

7階の住戸では耐力壁にコールドジョイントが発生(出所:東急ドエル・アルス世田谷フロレスタの区分所有者)

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 構造以外の不具合も数多く判明した。断熱材の厚さ不足や折り返し断熱の未施工により、設計で定めた断熱性能を確保できていない箇所や、構造スリットに耐火性能を満たした材料を用いていない箇所も複数あった。

 調査結果を受け、東急不動産は建物の安全性が保証できないとして、21年3月に建て替えを提案。同社が家賃を負担する形で区分所有者を仮住まいに転居させた。ところが同社は24年3月に建て替え提案を覆し、所有者に買い取りと解体に応じるよう求めた。新築時の計画段階で、真北の方角を誤って測量していたことが判明したからだ

 

 

 

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