クーリエ・ジャポン

 

Text by COURRiER Japon

 

2024年に世界が注目した日本人 「作家」部門


1 九段理江
「全体の5%くらいは生成AIの文章をそのまま使っている」──記者会見でのこの発言によって、「英語圏ではほとんど知られていなかった日本の文学賞が、世界中のニュースの見出しを一気に奪った」と英メディア、アンハードへの寄稿で、文芸編集者のサム・リースは書く。

第170回芥川賞を受賞した九段理江による小説東京都同情塔は、人工知能(生成AI)が普及した社会を描いた未来小説だ。選考委員の一人は、「完成度が高く欠点を探すのが難しい」と評した。

注目を集めたのは、受賞会見での九段の冒頭の発言だ。「ChatGPTのような文章生成AIを駆使して書いた小説」だと明かし、「これからもうまく(AIを)利用しながら、自分の創造性を発揮できるようつきあっていきたい」と述べた。
 

実際には、仏紙リベラシオンが報じるように、物語中のAIが登場人物のように語っているシーンだけが、実際にAIによって生成された文章だったわけだが、部分的にであれ「AIによって書かれた小説が、日本の権威ある文学賞を受賞した」というニュースは世界中にあっという間に広がり、議論を巻き起こした。

リベラシオンは、こうしたAIの使用に懐疑的だ。同紙はこんな疑問を投げかけた。

「AIに動かされるロボットが語り手か主人公の物語の場合、すべての言葉がAIによって生成されたとしても、同じように正当化される可能性があるだろう。その場合、テキストの何%までなら受け入れられるのだろうか?」

一方、仏誌ル・ポワンは、「彼女の発言は、文壇に混乱をもたらした」としたうえで、「彼女にとってAIは、執筆の道具であるだけでなく、同時にある種の、心を許せる相談相手でもあったのだ」と伝え、こうまとめた。

「ChatGPTは数秒で質の高い文章を書き上げる。だが、一冊の本を書き上げるには、それ以上の技術が必要なことは間違いない。多くのAIによる本がAmazonで売られている。だが、実際にはお粗末なものだろう」
 

作家もAIにとって代わられてしまうのか?──世界が戦々恐々と見守る、AIと創造性との共存。2024年、九段理江はそのテーマに大きな一石を投じた