全長150mの万博「未来の都市」パビリオン、2重のモアレ膜に世界初の自己浄化機能
川又 英紀
日経クロステック/日経アーキテクチュア
全長150mの万博「未来の都市」パビリオン、2重のモアレ膜に世界初の自己浄化機能 | 日経クロステック(xTECH)
大阪・関西万博で最大規模のパビリオンが会場の西端、大阪湾に近接するウオーターフロントで間もなく完成する。未来社会ショーケース事業「フューチャーライフ万博・未来の都市」のパビリオンだ。
未来社会ショーケース事業「フューチャーライフ万博・未来の都市」のパビリオンの外観。すぐ裏手に大阪湾が広がる、最も海に近いパビリオン(写真:EXPO2025、2025年日本国際博覧会協会)
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未来の都市パビリオンのサイン(写真:EXPO2025、2025年日本国際博覧会協会)
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真っ白な外装膜で覆われた平屋で横長のパビリオンは長さ約150m、幅約33mと、圧倒的な大きさを誇る。敷地面積は約7100m2、延べ面積は約4800m2、内部の展示面積は約3300m2ある。構造は鉄骨造、一部骨組み膜構造、一部システムトラスである。膜構造とシステムトラスを採用することで地盤が弱い人工島の夢洲(ゆめしま)で建物をできるだけ軽くし、同時に工期を短縮した。
基本設計は電通、電通ライブ、太陽工業、SD ASSOCIATES(東京・渋谷)、実施設計はSD ASSOCIATES、施工は太陽工業がそれぞれ手掛けている。竣工は2025年2月の予定だ。
上空から見た未来の都市パビリオン(写真:EXPO2025、2025年日本国際博覧会協会)
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24年11月にパビリオンの外観はおおむね完成し、同年12月3日にはメディア向けの説明会でパビリオンの画像や映像が公開された。記者はその直前に現地で実物を見ていたが、高さは最大で約12mと決して高くはない。だが端から端まで見通せないほど長く続く150mの白い膜の連なりは、想像を超える大きさである。会場のシンボルである大屋根(リング)の内径が約615mなので、その4分の1ほどの規模に相当する。
建物の一番の特徴は、メッシュ材の外装膜を2層重ねた「ダブルスキン」のファサードを採用していることだ。日中は真っ白だが、夜間はライトアップで様々な色に変化する。しかも複雑なモアレ(しま模様)が表面に浮かび上がる。昼と夜で全く異なる表情を見せるパビリオンである。外装膜を2枚重ねにしたのは、実大モックアップでモアレの表れ方を検証した結果、ダブルスキンにしたほうがはっきりとしま模様が見えたからだ。外壁や下地の骨組みを隠す意味合いもある。
ダブルスキンの外装膜で覆われたパビリオンの夕景(写真:EXPO2025、2025年日本国際博覧会協会)
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ダブルスキンのメッシュ膜だけで、表面積は約3700m2ある。大屋根から最も離れた海沿いに立つパビリオンであるにもかかわらず、その巨大さ故に外装膜はリングの西側エリアにいれば、どこからでもよく見える。万博会場の交通ターミナルになる「西ゲート」に近く、未来の都市パビリオンに向かう人はバスを利用することを強くお勧めする。地下鉄の夢洲駅が開業する「東ゲート」側からは、歩くにはかなり遠いので注意が必要だ。
未来の都市パビリオンは万博会場の西端に位置する。西ゲートが近い(出所:EXPO2025、2025年日本国際博覧会協会)
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未来の都市パビリオンを設計したSD ASSOCIATESの岡崎恭子氏は、「誰が見ても美しくきれいだと感じられる外観を追求した。そうしたパビリオンほど人の記憶に残りやすい」と説明する。岡崎氏が所属するSD ASSOCIATESは、過去に数々の万博に関わってきた。万博に精通した人材がそろうデザイン集団だ。
未来の都市パビリオンの建築コンセプトや照明演出について説明する、SD ASSOCIATESの岡崎恭子氏(右)(写真:日経クロステック)
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外装膜は折り紙のように山と谷が連続する折り目(プリーツ)のような形状で、表面に陰影ができる。さらに外装膜にはミストの噴射口を組み込んであり、夜間は霧状の外気が外装膜の周りを漂う。するとライトアップされて膜のモアレが一層、幻想的に見える。
折り紙のように山と谷の折り目(プリーツ)を付けて外観の陰影を強調(写真:EXPO2025、2025年日本国際博覧会協会)
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外装膜の施工風景(写真:EXPO2025、2025年日本国際博覧会協会)
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今回採用した外装膜は機能性も高い。太陽工業が開発した「酸化チタン光触媒PVC(ポリ塩化ビニール)メッシュ膜」を使っている。白い色は世界初の採用例で、2枚重ねも初めてだという。このメッシュ膜は太陽光を吸収して表面の汚れを分解し、雨水で汚れを洗い流すセルフクリーニング機能を備えている。大気汚染の原因の1つである自動車の排ガスを分解して空気を浄化する効果もあるという。
未来の都市パビリオンにふさわしい画期的な新素材だ。そんなメッシュ膜を2重にすることで膜と膜の間に空気層を設け、断熱効果も高めている