実現不可能ではないかも? アイスランドで「週休3日制」が大成功した理由

 

 

べルギーでは失敗したけど

実現不可能ではないかも? アイスランドで「週休3日制」が大成功した理由

 
 
 
 
 
 

 

ガーディアン(英国)

 

Text by María Hjálmtýsdóttir

 

アイスランドでは、労働者の90%が週36時間労働を取り入れているという。驚くことに、多くの人は仕事をため込んでストレスを抱えることもなく、この取り組みはうまくいっているようだ。同国で教師をする筆者が、その成功の背景と労働時間短縮のメリットを解説する。


私は古い共同墓地を散歩しながら、墓石の碑文を読むのが好きだ。アイスランドでは通例、生前の職業の肩書きが故人の名前の下に刻まれる。年をとってきて思うのは、自分の墓にはどんな肩書きが刻まれるのだろうか、ということ──それは「教師」だろうか? 自分の仕事は大好きだが、できればほかの肩書きのほうがいい。

女性の墓の場合は過去数百年、「主婦」や「……(夫の職業名)の妻」以外の肩書きが墓石に刻まれることはほとんどなかった。今日(こんにち)アイスランドの女性はさまざまな職に就いているが、完全な男女間の平等を手に入れるには至っていない。それでも、機会の平等を求めて歩んできた道のりのなかで重要な一歩といえるのが、週40時間労働を週36時間労働へと短縮させたことだ。

これは、いくつかあるアイスランド最大の労働組合によるキャンペーンに、同国の労働人口1%以上が参加した社会実験が成功したのを受けて、2019年に導入された。その結果、アイスランドでは労働人口のほぼ9割が以前より短時間で働いているか、週の労働時間の短縮を要求する権利を持っている。
 

他国もアイスランドの先例に続くことを検討している。ドイツ、ポルトガル、スペイン、英国は試行プロジェクトを実施済み、もしくは実施中だ。

ベルギーは1年前、希望者全員に週4日労働を認めることを法制化した最初のEU加盟国となった。もっともそれはアイスランド型モデルと異なり、週4日労働に同意した者は、従来と同じ時間分の仕事を少なくなった日数内でこなさなければならない。週4日労働を選んだ者が全体の1%にも届かなかったのは、おそらくそこに原因があるのだろう

 

 

 

 

 

何が週4日勤務を可能にしたのか


では、アイスランドで週4日労働がうまくいったのはどうしてだろうか? アイスランドでもかつて女性は、家事と仕事を両立するためにパートタイマーとして働くのが一般的だった。しかし2019年の制度改正は、男女の雇用機会の平等を大幅に向上させることとなった。

週当たりの労働時間が短縮されたことで、パートタイムで36時間働いていた人々(おもに女性)も、同じ労働時間数で「フルタイム」として働くことが可能になったからだ。そしてフルタイムなので、以前と同一の労働時間でありながら賃金や待遇、労働条件面は改善される。

こうした変化の恩恵は、多くの男性も受けている。以前よりも時間の自由度が高まり、結果的に子供の生活にもっと関わることができるようになったのだ。

私の夫のトゥミは、官庁に勤めている。初めのうちは毎週金曜日を午前勤務のみにしていたが、すぐに月 2 回の金曜日は完全に休むことに決めた。休みの金曜日は遅くまで寝て、キッチンを掃除しながらハトの愛好家仲間と長電話をし、それから書店に出向いて面白そうな本を探しに行く、という生活を楽しんでいる。
 

息子を学校に迎えに行く時間に夫が家にいてくれるのもありがたい。それ以外の日は私が息子を迎えに行くから、隔週金曜日の午後は友人と落ち合っておしゃべりしたり、ボランティア活動をしたり、一人でプールに行ったりする自由を持つことができる。燃え尽き症候群にならないことを願う疲れた教師にとって、これはまさしく画期的だった。

休日の旅行を前に感じるあのハッピーな高揚感は、ほぼ誰もが経験していることだろう。ウキウキして、なによりもすべてから解放された自由さがある。いま夫は月2回、その幸福感を味わっている

 

 

 

私は中学校の教員だから、週4日労働制には該当しない。学校教員の仕事は依然として週40時間のままなのだ。といっても、実際に教室で教える時間は週26時間のみ。残りの時間は会議や採点、授業の準備だ。授業以外の時間については自由裁量が認められているため、少し長めに働く日を入れることで、夫が休みの金曜日の午後は、こちらもそれに合わせて休みをとることはできる。

私の学校の管理職、用務員、清掃員、厨房職員はほかの組合に所属していて、彼らもいまは週当たりの労働時間が短縮されている。そして、金曜日の午後の授業が少なくなるよう時間割も変更した。教員は皆満足しているし、生徒からの苦情もない。

ただ、所属する企業や機関によって要求されることはそれぞれ違うし、当たり前だが、誰もが週に1回正午に店を閉められるわけではない。職場によっては、コーヒーブレイクやランチの時間を削って対応するケースもある。また、仕事の進め方や、どの会議を短くできてどの会議がオンライン開催可能か、メール通知のみにできる会議はどれかといったことも見直す必要がある。
 

もちろん、従来通りの労働時間に戻りたいと望む人はいるし、早く退社しても仕事が山積みという場合はかえってストレスになることもあり、問題がすべて解決したわけではない。

このあたりについては決して容易に解決できる問題ではないし、すべての業務に適用できるわけでもないが、質的および量的データを見る限り、勤務時間を減らした人のほとんどがそれを気に入っていることが示されている。仕事への満足度が向上し、ストレスは軽減され、仕事中の充足感も高まっているのだ。

生産性やサービスの提供が損なわれるという懸念はある。だが実際は、これほど真実とかけ離れた懸念もないのでは、というくらいに程遠かった。大規模調査の結果では、生産性やサービスの提供は以前と変わらないか、改善さえしていることが明らかになった。ときには長いコーヒーブレイクを削ったり、仕事の優先順位を変更したりしただけで解決したケースもあった。

大手自動車ディーラーで働く友人のバラは、顧客サービスは維持したまま労働時間を短縮する方法について従業員が知恵を出し合った経緯を話してくれた。

オフィスワーカーの場合、毎日早めに仕事を終えたり、毎週半日休みをとったり、2週間ごとに丸一日の休みをとったりできる。整備士の場合は、シフト形態を変更しても以前と同数の車両の修理を遅延なく完了している。バラによると、従業員は労働時間の短縮に満足しており、上司を含め、誰も以前のやり方に戻るつもりはないという。
 

余った時間の使い方


そうやって手に入れた自由時間を、病院に通ったり、子供の学校の集まりに参加したりする時間に充てることはない。アイスランドではこうした要件の場合、給料を減らされることなく優先する権利が以前からある。この既存の権利に関しては何も変わっていないのだ。

そういうわけで、私は大切な自由時間を運動や散髪、買い物、友人と会うという目的に使っている。家族との充実した時間を逃しているという気持ちを味わうこともない。

レイキャビクに住む私たちにとって、金曜日のラッシュアワーの交通渋滞が減ったことも嬉しいおまけだった。おかげで市内の移動がずっと楽で快適になった。

私たちのように働き方を変えるのは難しいと思われるかもしれないが、みんなで力を合わせて仕事のやり方を考え直せば、決してできないことではない。

私はフルタイムの教師ながら、母親で妻、そして娘であり姉妹で、友人でもある。夫が隔週で手に入れる自由時間を子供の世話に充てることで、私の人生におけるすべての役割も果たせるようになる。そしてもちろん、共同墓地を歩き回って人生の意味について考えるのが好きな女でもある。だから、もっとそれを追求することだってできるのだ

 

実現不可能ではないかも? アイスランドで「週休3日制」が大成功した理由 | クーリエ・ジャポン