ウクライナ防衛線
〝崩壊危機〟
に英メディア
「戦略的な大惨事」
バイデン政権の兵器供与、
トランプ氏大統領就任までの
時間稼ぎか

【ニュースの核心】
ロシア軍は28日、
ウクライナ全土を
ミサイルや
無人機で攻撃した。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、
ウクライナ軍が
米国製の長射程兵器などでロシア領を攻撃したことへの報復だと表明した。
米国や英国は今月半ば、
供与したミサイルなどによる
ロシア領奥深くへの攻撃を容認した。
背景には、
ウクライナ軍の防衛線が「崩壊の危機」に瀕(ひん)していることがある。
ドナルド・トランプ次期米大統領が就任する来年1月20日前に
戦線が崩壊すれば、
ジョー・バイデン政権などの支援失敗が問われる。
ウクライナ戦の早期終結を掲げるトランプ氏は、
覇権を狙う中国への強硬路線を強化する構えだ。
トランプ氏との会談を一蹴された石破茂首相は、
世界情勢の変化を把握しているのか。
ジャーナリストの長谷川幸洋氏が最新情勢に迫る。
【画像】ウクライナ空軍が8月に公開したロシア部隊の指揮所を米国製兵器で攻撃したとする画像
英国のメディアが相次いで
「ウクライナの防衛線は崩壊の危機にある」と報じた。
トランプ次期米大統領が来年就任する前に、
ロシアのプーチン大統領が
大攻勢をかけているのだ。
ウクライナはどうなるのか?!
英BBCは20日、
米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」の分析をもとに、
「ロシアは今年、
昨年比で約6倍の支配地域を獲得した」と報じた。
ウクライナは8月、
ロシアのクルスク州に電撃的な越境攻撃を仕掛けた。
東部戦線で
ロシアの圧力を緩和するのが狙いだった。
当初は成功を収めたが、
ロシアはその後、徐々に押し返し、
逆に東部の支配地域を拡大している。
記事は
「ウクライナの兵力不足を考えると、戦略的な大惨事だ」という専門家の見方を紹介した。
次いで、ロイター通信は24日、
軍事関係者の話をもとに
「ウクライナはクルスク州で奪った地域の40%以上を失った」
「東部では、
ロシア軍が1日200~300メートル前進している」などと報じた。
英スカイニュースも
「ウクライナの戦線は侵攻されて以来、もっとも安定していない」という
英国防相の発言を報じた。
ロイター通信によれば
「ロシアの進軍は侵攻以来、最速」という。
バイデン米政権は最近、
ロシア領まで届く長距離射程の地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」や、
対人地雷を初めて供与するなど、
ウクライナへのテコ入れを図っている。
これも戦況悪化を受けた動きとみられている
バイデン大統領とすれば、
来年1月のトランプ大統領就任式までに、
ウクライナの戦線が崩壊したり、
敗北が決定的になる事態は絶対に避けたい。
そうなったら、
「これまでの支援は十分だったのか」
という声が噴出するのは避けられず、
バイデン政権の失敗になるからだ。
逆に、
就任式を過ぎてしまえば、
その後、ウクライナがどうなろうと、
責任はトランプ政権に転嫁できる。
渋っていた長距離ミサイルなどの供与に踏み切ったのも、
「自分自身の政治的思惑からだ」とみられている。
■石破政権これでは米新政権に「はしご外される」
ウクライナがロシアに奪われた東部4州や
クリミア半島を奪回するのは、もはや幻になりつつある。
トランプ氏は停戦を模索している。
報道によれば、
現在の最前線周辺に非武装地帯(DMZ)を設け、
ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟は当分、
棚上げする案が軸になりそうだ。
プーチン氏は経済制裁の解除も求めている。
日本をはじめG7(先進7カ国)は26日、
イタリアで外相会議を開いて、
ウクライナ情勢を討議した。
日本の岩屋毅外相は
ウクライナ支援の強化と厳しい対ロ制裁に取り組む姿勢を表明した。
相変わらず
「バイデン路線べったり」で、
トランプ次期政権の方向とは異なる。
これでは来年1月以降、新政権に「はしごを外される」のは確実だろう。
そもそも、
トランプ氏がウクライナ支援に消極的な理由の1つは、
限りある国の資源を
「中国の脅威」に振り向けるためだ。
それは、日本の国益にもかなう。
石破政権と外務省は、
トランプ政権の発足を前に、
日本の国益を最優先に据えた戦略的判断をしているのか。
大いに疑問だ。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中
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