田市博物館(愛知県豊田市)

博物館と美術館の調和と対比

時代やスタイルが異なる2館を庭でつなぐ 

 

 

発注:豊田市 

 

設計:坂茂建築設計 

 

施工:清水建設・トヨタT&S建設・三栄工業JV

 

 

長井 美暁
 
 

 

ライター

 

 

博物館と美術館の調和と対比 | 日経クロステック(xTECH)

 

 

 

愛知県にある「豊田市美術館」の隣の敷地に、坂茂建築設計が市の博物館を設計した。連続するランドスケープデザインが30年の時を超え、2館の魅力を高め合う。

 愛知県豊田市に2024年4月26日、「豊田市博物館」が開館した。同年10月12日からは満を持して、開館記念展がスタートしている。

 同館は市の自然や歴史、産業などを幅広く扱う総合博物館だ。「豊田市郷土資料館」や「豊田市近代の産業とくらし発見館」の機能を受け継いで新設された。総事業費は85億円。設計は、19年の公募型プロポーザルで選ばれた坂茂建築設計(東京・世田谷)が手掛けた。

 メインエントランスに木架構の大屋根を架け、来館者を迎える〔写真1〕。梁のパターンは市章を構造化したものだ。そこから博物館を特徴づける「えんにち空間」に続く〔写真2〕。

〔写真1〕市章から生まれた大屋根の木架構パターン

〔写真1〕市章から生まれた大屋根の木架構パターン

屋根の高さは10m、梁の下端までは約9m。柱は根元側が直径820mm。晴れた日は円形のトップライトから差し込む光で、市章パターンの影が床に落ちる(写真:平井 広行)

 

 

 

 

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〔写真2〕建物の中央を貫く木造の「えんにち空間」

 

 

 

 

〔写真2〕建物の中央を貫く木造の「えんにち空間」

北側から見た外観。「えんにち空間」が中央を貫く。左手に見える、弧を描く水平連続窓は常設展示室。右手の芝生広場の奥に見えるガラス張り1層の部分は、セミナールームなどを収めた西側ウイング。セミナールームの屋上は、豊田市美術館の庭と同じレベルにした(写真:平井 広行)

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 敷地は県立高校の跡地で、市の中心街に接する高台に位置する。南隣には建築家の谷口吉生氏の代表作であり、1995年に開館した「豊田市美術館」が立つ。以前はそれぞれの敷地の間に高木が列植され、壁のように双方を仕切っていた。

 

 

 

 

 

P・ウォーカー氏に庭を依頼

 坂茂建築設計代表の坂茂氏は、谷口氏に敬意を払いつつ、相乗効果を生み出せる博物館をつくりたいと考えた。2館の敷地を一体として捉え、博物館は敷地の東側に美術館と直線状に並べて配置し、軒の高さなどのプロポーションをそろえた。「建築設計は場所の潜在的な特徴を読み取り、生かすことが重要だ」と坂氏は説明する。

 

 

 

 

 双方のランドスケープが連続するように

 

、坂氏は米国の著名なランドスケープデザイナーである

 

ピーター・ウォーカー氏に

庭のデザインを依頼した。

 

ウォーカー氏はかつて、美術館の庭をデザインしている。

 

 

坂氏自らウォーカー氏に電話をかけて頼み、

プロポの段階から協働した。

 

 

 ウォーカー氏の事務所でパートナーとして父を支える息子のデイヴィッド・ウォーカー氏は、

「ランドスケープが2つの建物を統合し、この場所が強力な目的地となることを目指した」と語る。

 

 

 2館の敷地は南北方向に5mの高低差があり、

 

博物館の庭は上下2段に分かれる〔写真34〕。

 

2階レベルの庭は

 

美術館側のしま模様の植栽が拡張したように見せ、

 

一体化した。

 

 

〔写真3〕建物も庭も「ハーモニーとコントラスト」を重視

 

 

 

〔写真3〕建物も庭も「ハーモニーとコントラスト」を重視

敷地西側の上空から見下ろす。

 

左が博物館、

 

右が美術館。

 

両館は2階レベルでつながる。

 

父と同じくランドスケープデザイナーのデイヴィッド・ウォーカー氏は

 

 

芝生広場を「コミュニティーイベントのための環境としてつくった」と

 

説明する。

 

 

広場の手前(敷地西側)は、

昔の民家や土蔵などの

屋外展示スペース。

 

来客用駐車場は約150台分設けた

 

 

(写真:平井 広行)

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〔写真4〕ランドスケープで2館を連続させる

 

〔写真4〕ランドスケープで2館を連続させる

上段の庭は美術館の庭を延長するようなデザインで、博物館と一体のランドスケープとした。ガラス張り1層の部分は西側ウイングで、屋上はウッドデッキになっている。上下の庭は階段状の植栽で結んだ(写真:平井 広行)

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 1階レベルの芝生広場は通路が放射状に延びる。さらに樹木を環状に植え、シンボリックなデザインとした。ここは来館者や市民の憩いの場になるだけではなく、イベントにも使われる。レベル差があるので上段の庭と区別でき、美術館の静ひつな世界観を損なう心配はない。

 

 

 

 坂氏は「2館のハーモニー(調和)とコントラスト(対比)を意識した」と話す。

 

市の基本計画に盛り込まれていたえんにち空間を木造にしたのも美術館との対比からだ。

 

ガラスと金属で直線的に構成された美術館が

20世紀モダニズム建築の1つの到達点であるのに対し、

 

博物館は21世紀の重大なテーマである環境問題に寄与するように

木をふんだんに使い、

有機的なファサードと空間にした。

 

 

 えんにち空間は木造2層の大空間だ〔写真5〕。

 

市民の多彩な活動を受け入れ、

 

にぎわいを生み出す。

 

物1つ動かせないような完璧さがある谷口氏の美術館との大きな違いだ。

 

 

〔写真5〕博物館の5分の1を占める木造空間

〔写真5〕博物館の5分の1を占める木造空間

えんにち空間は敷地の高低差をまたいで設けた。木造部分は南北方向に約90mあり、豊田市産のスギ材を約230m3使用した。東側のコンクリート躯体で水平力を負担できるので柱頭と木梁はピン接合とした(写真:平井 広行)

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開館時に「挙母(ころも)祭り」の山車を展示した様子(写真:平井 広行)

開館時に「挙母(ころも)祭り」の山車を展示した様子(写真:平井 広行)

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 2館が並列する坂氏のプロポ案を受け、市は公道から高台にある2館へのバリアフリー経路の検討を求めた。「敷地をつなぐプランなので、博物館からバリアフリーで美術館に行けるのではないかと考えた」。当時、市の建築整備課で本計画を担当した岡田英岳氏はこう説明する。

 

 

 

 美術館は裏手に車椅子利用者のための出入り口がある。しかし健常者と同じように、池を見ながら入館することはできない。誰でも同じ経路で入れるように、公道沿いの敷地入り口から博物館まで、斜路の勾配15分の1を確保。そのためアプローチは曲がりくねっている