ノートルダム再建の舞台裏、米オートデスクがBIM活用に奔走した理由
米オートデスク副社長ニコラ・マンゴン氏インタビュー(前編)
星野 拓美
日経クロステック/日経アーキテクチュア
フランス・パリの中心部に立つノートルダム大聖堂。炎に包まれた尖塔(せんとう)が倒壊した大規模火災から、5年超が経過した。一般公開を再開する予定の2024年12月8日が約1カ月半後に迫る。デジタル技術が威力を発揮し、驚異的なスピードで再建プロジェクトが進んでいる。デジタル活用に一役買ったのが、米オートデスクだ。同社のニコラ・マンゴン副社長に、プロジェクトの舞台裏を聞いた。(聞き手は星野 拓美=日経クロステック/日経アーキテクチュア)
米オートデスクAEC(建築、エンジニアリング、建設)インダストリー戦略担当副社長のニコラ・マンゴン氏。ノートルダム大聖堂の再建プロジェクトに対する支援に奔走した(写真:日経クロステック)
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ノートルダム大聖堂の再建プロジェクトに関わる全ての人に対し、オートデスクのソフトウエアを無償で提供したそうですね。
2019年4月15日に火災が発生した直後、当社の社長兼最高経営責任者(CEO)であるアンドリュー・アナグノストから、「我々はなんとしてもノートルダム大聖堂の再建プロジェクトに関わらなければならない」と電話で指令を受けました。このプロジェクトを技術的に支援することによって、当社のソフトウエアが歴史的建造物の保存・修復においても有効であると世界に示すことができる。CEOはこのように考えたのでしょう。
当社の多くのソフトウエアは元々、建物を新築する際に利用することを念頭に開発されたものです。もちろん既存建物の改修などに活用した例は過去に幾つもあります。ただし、ノートルダム大聖堂のような数百年もの長い歴史を持つ建物の再建に深く関わるプロジェクトは、今回が初めてだったのです。
右から2人目がニコラ・マンゴン氏。再建プロジェクトが進む現場を訪れた(写真:オートデスク)
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ソフトウエアを無償で提供するに当たり、当社でコンサルタントチームを結成しました。再建担当者たちに対し、どの場面でどのソフトウエアを使えばよいか、的確なソリューションを提供できるようにするのが狙いです。
プロジェクトの最初の目玉は、再建する建物のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)データを構築することでした。まず12台のレーザースキャナーで撮影した4万6000枚の画像から点群データを取得し、点群処理ソフト「ReCap Pro」で整えました。次に、このデータをBIMソフト「Revit」に移行し、火災前のノートルダム大聖堂の3Dデータと組み合わせて建物全体をモデリング。そして属性情報を付加して、データを完成させました。
火災後の建物を12台のレーザースキャナーでスキャン。4万6000枚の画像から点群データを取得し、オートデスクの点群処理ソフト「ReCap Pro」で整えた(出所:オートデスク)
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取得した点群データをオートデスクのBIMソフト「Revit」に移行。再建するノートルダム大聖堂のBIMデータを構築した(出所:オートデスク