文化芸術と震災メモリアルを融合した施設、仙台市の公募型プロポで藤本壮介氏が勝利

安部 道裕

 

ライター

 

 

文化芸術と震災メモリアルを融合した施設、仙台市の公募型プロポで藤本壮介氏が勝利 | 日経クロステック(xTECH)

 

 

 

藤本壮介建築設計事務所が提出した案。大ホール内部空間のイメージ。舞台演劇やコンサートなど、用途によってそれぞれに適したホールに転換できるという(出所:藤本壮介建築設計事務所)

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 仙台市で、音楽ホールと震災メモリアル拠点の複合施設を建設する計画が進んでいる。市は基本設計者を選ぶ公募型プロポーザルを実施し、藤本壮介建築設計事務所(東京・江東)を受注候補者として選定した。開閉可能な仕切り壁で建物を丸ごと劇場にするアイデアが特徴だ。次点は山田紗子建築設計事務所、BPDL、佐藤慎也研究室の3者による設計共同体だった。2024年9月8日に発表した

 

 

今回計画されたのは、音楽ホールと震災メモリアル拠点による複合施設という、聞き慣れない組み合わせのビルディングタイプの建物だ。仙台市文化観光局文化スポーツ部青葉山エリア複合施設整備室、技術担当課長の中塚祐一郎氏は「文化芸術と災害文化(災害を乗り越えるための知恵や術を持った社会文化)の融合が重要なテーマとなる高いハードルを課したプロポーザルとなった」と回答した。

 藤本壮介建築設計事務所の案のコンセプトは「たくさんの/ひとつの 響き」。「ステージスラブ」と呼ばれる小規模なスラブの上では様々な活動が展開される。それらが立体的に集まることで、音楽ホール・震災メモリアル施設を成している。藤本壮介氏は日経クロステックの取材に対し、「単に音楽ホールとメモリアル拠点を組み合わせるのではなく、その2つが必然的に融合する全く新しい建築の在り方を考えることに集中した」と語る。

 当初は、別の整備が計画されていた。震災メモリアル拠点は2011年11月に作成された震災復興計画において、震災の脅威と復興の取り組みを後世に伝えるための震災メモリアル事業が提言され、整備計画が進んでいた。

国際センター駅側からの外観イメージ。軒天は被災地から集めた材木で構成する計画だ。ランドスケープは、時間をかけてこの場所の環境に調和していくことを念頭にデザインしている(出所:藤本壮介建築設計事務所)

国際センター駅側からの外観イメージ。軒天は被災地から集めた材木で構成する計画だ。ランドスケープは、時間をかけてこの場所の環境に調和していくことを念頭にデザインしている(出所:藤本壮介建築設計事務所)

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 音楽ホールは今回のプロポーザル以前から整備が検討されており、1992年に音楽堂基本構想が、96年には音楽堂基本計画が作成されていたが、実現には至らなかった。整備計画が再発進したのは、2011年の東日本大震災がきっかけだった。

 

 

 発災から2週間後、

仙台フィルハーモニー管弦楽団と市民有志が

「音楽の力による復興センター」

(現・「音楽の力による復興センター・東北」)を設立。

 

被災地における演奏活動を継続的に実施し、復興に助力した。

 

「音楽の持つ力が広く市民に認識されるようになり、音楽ホール整備に向けた機運が高まりを見せた」と中塚氏は説明する。

 

 

 両施設とも、整備計画は東日本大震災を起点に持つといえる。

 

整備計画の背景が同じことから親和性が高いことが期待され、

「相乗効果の発揮された、仙台ならではの創造性あふれる施設となることを目指し、複合施設として整備することを決定した」と中塚氏は話す。

 

 

震災メモリアル拠点のイメージ。災害文化事業がそれぞれ独立しながらも、空間としてつながることを目指している(出所:藤本壮介建築設計事務所)

震災メモリアル拠点のイメージ。災害文化事業がそれぞれ独立しながらも、空間としてつながることを目指している(出所:藤本壮介建築設計事務所