マンハッタンを水没から救え、姿を現した1兆円の巨大インフラ
PART1 防災計画「ビッグU」の全貌
島津 翔
シリコンバレー支局
マンハッタンを水没から救え、姿を現した1兆円の巨大インフラ | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
米ニューヨーク・マンハッタンを防潮堤などで「Uの字」に囲む巨大防災計画、通称「ビッグU」。コンペから10年が経ち、工事が佳境を迎えている。事業費1兆円規模で気候変動に備える計画の全貌をリポートする。
世界経済の中心地であるマンハッタン。日本ではほとんど知られていないが、この地で1兆円規模の巨大防災事業が急ピッチで進んでいる。
「ここから水辺まですぐに行けるようになる。防災と公園の機能をどちらも備える設計だ」。オランダの建築設計事務所、ONEアーキテクチャー&アーバニズム(以下、ONE)のマタイヤス・ボウ社長がこう言って指し示した先で、大型クレーンがせわしなく動いていた〔写真1〕。イーストリバー沿いの既存公園を全面的にかさ上げして高潮に対応する大規模な防災事業。ボウ氏はキーパーソンの1人だ。
〔写真1〕ニューヨーク中心部で進む防災計画
マンハッタンの東側を流れるイーストリバー沿いで進む公園整備。地盤をかさ上げして堤防の機能を持たせる(写真:日経アーキテクチュア)
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2012年11月、デンマーク・コペンハーゲンを拠点とする建築設計事務所BIG(Bjarke Ingels Group)を率いるビャルケ・インゲルス氏とボウ氏は、テレビで流れる映像に釘付けになっていた。大型ハリケーンのサンディがニューヨークを襲い、マンハッタンを走る地下鉄の複数駅が水没。変電所が被災して市内で100万戸を超える大規模停電が続いていた。
「とても驚いたんだ。米国が何の備えもしていなかったように見えたから」。水害の多い欧州を拠点とする2人の建築家にとって、マンハッタンの治水はひどく弱々しく映った。
約半年後、米政府は復興を目的とした国際デザインコンペ「リビルド・バイ・デザイン(デザインによる再建)」を発表。ボウ氏はすぐにインゲルス氏に電話をかけた。「より欧州的な、地域コミュニティーに基づいた提案が有効だと思った」(ボウ氏)
コンペの対象はニューヨーク州やニュージャージー州などサンディで多大な被害を受けた地域。特筆すべきは具体的な設計対象がなかった点にある。いわば「何でもあり」だ。コンペの運営で中心的な役割を担った組織、リビルド・バイ・デザインを統括するエイミー・チェスターディレクターは「政府資金で建設すべきインフラとは何なのか。その案を出すための仕掛けだった」と振り返る。街をどう守るか、防災事業そのものを創り出す前代未聞のコンペだった。
世界中から集まった約150の提案の中から10案が最終選考に残り、14年6月にBIGを代表とするチームの「ビッグU」など6案が入賞。それぞれが数億ドル規模の予算を獲得し、自治体を事業者とした復興事業の第1段階に進むこととなった