開通2年足らずの斜張橋で照明柱12本に疲労亀裂、原因は風による渦励振

夏目 貴之

 

日経クロステック/日経コンストラクション

 

 

開通2年足らずの斜張橋で照明柱12本に疲労亀裂、原因は風による渦励振 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

 

 

 愛媛県の離島を結ぶ斜張橋の岩城橋で、2022年3月の開通から2年足らずで全17本の照明柱のうち12本に亀裂が生じたのは、風による渦励振(うずれいしん)の発生が原因だったことが日経クロステックの取材で分かった。支柱が振動して急速に疲労損傷が進んだと見られる。岩城橋を管理する愛媛県今治土木事務所は、24年8月9日までに全ての照明柱を制振装置付きのタイプに交換。同年9月からモニタリングを続けている。

岩城橋の照明柱に発生した疲労亀裂。補強リブの上側で水平方向に進展している(出所:愛媛県)

岩城橋の照明柱に発生した疲労亀裂。補強リブの上側で水平方向に進展している(出所:愛媛県)

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 岩城橋の全長は916mで、瀬戸内海に浮かぶ岩城島(愛媛県上島町)と生名島(同)をつなぐ。そのうち斜張橋部分の長さは735mに及び、5径間連続鋼・コンクリート混合形式を採用している。片側1車線で幅員は7.5mだ。高さ約10mのアルミ製の照明柱を、防護柵の外側に1列で取り付けていた。

 照明柱の異変が発覚したのは、開通から1年8カ月ほどが経過した23年11月のことだ。愛媛県が社会インフラを観光資源に活用する「インフラツーリズム」の一環として住民などが岩城橋の主塔に登るイベントを開催した際に、県の職員が亀裂を発見した。

 いずれの亀裂も、支柱下部の補強リブの溶接部直上に発生して水平方向に進展。長さは最大15cmに及び、一部は母材の裏面まで貫通していた。放置すれば倒壊の恐れがあるため、県は2日ほどで17本の照明柱を全て撤去した。

 

岩城橋の位置図(出所:国土地理院の地図に日経クロステックが加筆)

岩城橋の位置図(出所:国土地理院の地図に日経クロステックが加筆)

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渦励振は毎秒5~10mの一定速度の風で発生

 

 渦励振は、一定速度の風が照明柱の支柱のような円形断面の物体を吹き抜ける際に起こり得る現象だ。風が支柱の周りで渦を巻いて振動を引き起こす。

 鋼構造物の疲労などに詳しい琉球大学工学部の下里哲弘教授は、「(支柱の固有周期などによるが)渦励振は主に毎秒5~10mほどの風速で発生する。風が吹き抜ける道路や高架橋で起こりやすく、台風など一時的な強風で生じるものではない」と話す。

 岩城橋の照明柱の亀裂は全て橋軸直角方向に伸びていた。岩城島と生名島の間を吹き抜ける風で渦励振が発生して支柱を橋軸方向に繰り返し押し引きした結果、短期間で疲労亀裂が進展したと見られる。岩城橋自体の設計では風の影響を考慮していたが、照明柱に対しては特段の対策を講じていなかった。

 

亀裂が見つかった照明柱の位置とそれぞれの亀裂の長さ。斜張橋の中央に位置する9番の支柱に生じた亀裂が最も長い(出所:愛媛県)

亀裂が見つかった照明柱の位置とそれぞれの亀裂の長さ。斜張橋の中央に位置する9番の支柱に生じた亀裂が最も長い(出所:愛媛県