CO2だけに着目する落とし穴

1年でカビだらけに… 注目を浴びる「木造ビル」は本当に持続可能なのか

 
 
 

 

ブルームバーグ・ビジネスウィーク(米国)

 

Text by Sheryl Tian Tong Lee and Low De Wei

 

鉄とコンクリートよりも二酸化炭素排出量が少ないとして木造建築が見直され、大きなビルを木造で建てるプロジェクトも世界中で進行している。しかし、適切な木材の調達や維持管理のためのトータルコストを考えると、それが常に「持続可能」とは限らない。

2023年に落成したシンガポールの木造ビルの例は、私たちに教訓を与えてくれる。


シンガポールの南洋理工大学の新棟「ガイア」が2023年に落成したとき、それはより緑多き未来への布石として歓迎された。約4万1200平方メートルのこの巨大木造建築は、持続可能な方法で伐採された木材のみを梁とパネルに使っている。

だが現在、その思いがけない欠点が注目を浴びている。ありとあらゆる木材にカビが発生してしまったのだ。「カビが生えているのを見ると、ちょっと気持ち悪くなります」と、4年生のグレース・ウンは話す。

この件は、世界中の木造建築が抱える問題を浮き彫りにした形となった。ウォルマートやマイクロソフトは持続可能な建材として木を選んだが、そこにカビが発生してしまい、ロンドンからメルボルンに至るまで、相次いで健康被害、損害、さらには裁判沙汰まで引き起こす結末となっている。
 

気候に左右される木材


セメントや鉄といった素材を生産することで発生する温室効果ガスは、世界の排出量全体のおよそ14%をも占めている。

一方、木は二酸化炭素を吸収して成長し、木材として建築に使われても、その二酸化炭素が放出されることはない。1億2500万シンガポールドル(約138億円)もの総工費がかかったこのガイアに木材を供給した業者によると、輸送時に排出される分を考慮してもこの木材が5000トンの二酸化炭素を吸着できていると見積もった。

だが、年間180日も雨が降る熱帯のシンガポールにおいては、こうしたメリットも机上の空論となってしまった。ガイアの木材は主にオーストラリア産のスプルース材のマス・エンジニアード・ティンバー(MET、超薄型の木板を重ねて接着したもの)を、パネルや梁として柱、壁、屋根などに使っている。

スプルースは、ほかの木よりもカビに弱いという特徴がある。国際木文化学会のアンドリュー・ウォンによると、湿度が80%をしばしば超えるような場所では、適切に扱われていないとすぐにカビや腐食に遭うという。

「基本的には気候の問題です。熱帯に住んでいる我々は、特に注意しなければなりません」
 

だが、熱帯以外の地域でも問題は起こる。気温の差の激しい砂漠地帯では、木材は過度の伸縮をし、最終的にひびが入ってしまう。氷点下の気候では、隙間に入った水が凍ることで、木材が割けてしまう。シンガポール国立大学建築学科准教授のエリック・ルルーは、木造建築を設計する際、エンジニアはこれらのことを考慮するべきだと語る。

「それぞれの気候には、限界や課題があるものです

 

 

 

 

 

コストの壁


過去10年のうちに、シンガポールでは20以上のプロジェクトにMETが導入されている。それらには30以上の企業が携わっており、すでに開始または完了している。シンガポール当局は、こうしたプロジェクトの建物もカビの問題に悩まされているのかどうか、明らかにしていない。

シンガポールには伝統的な木造建築がある。その代表である「ショップハウス」は2、3階建ての建物で、建築時期によっては華麗な漆喰仕上げが特徴だ。カビへの自然抵抗力を持つ、現地に産する硬材を梁に用いている。しかし、いまやこうした木材の確保は難しく、ショップハウスの多くが建造された1900年代とは比べものにならないほどのコストが発生する。

東南アジアの森林の多くはアブラヤシのプランテーションに変わり、シンガポールで伝統的に用いられた硬材である「チェンガル」の木はとても少なくなった。チェンガルが理想的な収穫期を迎えるまでに100年を要す一方で、スプルースはその3分の1程度の時間で成熟を迎える。

硬材が大きなプロジェクトに用いられないのは、「大変高額だから」だと、ガイアの主任建築士で、RSPアーキテクツ・プランナーズ&エンジニアーズのロー・キースンは言う。
 

「これほどの規模の硬材を調達するには、非常に広大な森が必要となってしまいます」

諸々の問題点は厚い保護膜のコーティングで解決するかと思われたが、コスト面と天然木の木目が見えなくなることを理由に却下された。スプルースと同じく軟材で、カビへの強い耐性があるカラマツも選択肢にあがったが、価格が高いことから選ばれなかった。ガイアは結局スプルースを採用し、日光や雨に最も晒される部分だけをカラマツ材で覆った

 

 

 

 

結果として「持続可能」にならず


南洋理工大学のビジネススクールのために建てられたこのガイアだが、その美的価値についてはけちのつけようもない。全長約210メートルのファサードは緩やかな曲線を描き、その内部は自然光が降り注ぐ巨大なスキーロッジのようだ。そして緑豊かな中庭も広がっている。1階エントランスにはドアがなく、そよ風が吹き、開放感あふれるフロアとなっている。

学生及びこの建物を使用する職員十数人へのインタビューでは、嫌悪感、ユーモア、懸念の声が聞かれた。ある職員は、カビによって自身の呼吸器系の病気が悪化することを恐れて、自分のオフィスを避けていると語った。ここの学生であるリーフェイ・シャンは、「見た目が悪いというだけなら、カビは問題ありません。でも、健康問題につながりうるのですから、大学側はカビを一掃するべきです」と言う

 

 

 

 

 

この建物を訪れる人は、建物の大部分をなすオーストラリア産スプルース材の見た目と香りに魅了されるだろう。しかし、空気・臭気マネジメントという会社から派遣されたカビ調査員のジョーイ・フェンは違った。

支柱についたゴミのように見える、白いポツポツしたものをフェンが擦り、透明な試液に入れる。すると液はラベンダー色に変わり、カビであることを示した。それから彼女は、換気口により多くのカビが繁殖しているのを発見した。これは建物全体にカビが広がるリスクをはらんでいる。「この部屋はすぐに処置したほうがいいですよ」と彼女は語った。

大学側と建築士のローは、湿度の高いシンガポールではカビはよくある問題であり、建物の構造的完全性にほとんど支障をきたすものではないとの見方を表明している。にもかかわらず、大学はガイアの「包括的」メンテナンス計画を打ち出した。これには木材へのシーリングの再塗布、空調の調整、また、結露防止のために窓を閉じるなどの策が盛り込まれている。

この分野の専門家らは、木材の表面に漂白剤を塗る、さらに厚いコーティングをする、除湿器を設置する、24時間365日エアコンをつける、などのアイデアを挙げているが、いずれにせよ建物の持続可能性が低くなってしまうのは避けられない。

フォレスト・エコノミック・アドバイザーズの木材コンサルタントであるアート・シモンは、次のように語った

 

 

 

 

 

「たしかに、特定の気候に対応できるようにデザインすれば、地球上どこでもマスティンバーを用いることができると思います。しかし、その欠点はコストの増加です。それでもなお鉄やコンクリートと競えるかどうか、また別の問題があるのです

 

1年でカビだらけに… 注目を浴びる「木造ビル」は本当に持続可能なのか | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)

 

 

Introducing Gaia, the largest wooden building in Asia

 
 
 
 

Introducing Gaia, NTU's newest building. Let Nanyang Business School student Chang Jit Wei take you on a tour of the largest wooden building in Asia. The six-storey Gaia houses a 190-seat auditorium, 12 lecture theatres and 15 seminar rooms. The exposed wood aesthetic of the building helps to make it environmentally friendly, as it reduces the use of materials such as paint and tiling that are associated with high levels of pollution during their production. The use of sustainable construction methods such as Prefabricated Prefinished Volumetric Construction (PPVC) and Mass Engineered Timber (MET) means the project has already achieved the BCA Green Mark Platinum Net Zero Energy Building award.

 

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