石破新総裁で円高に?為替で損する恐怖…投資信託「ヘッジあり」を選ぶべきか?

 

 

判断のポイントはコストと通貨の分散

 

頼藤 太希 

 
 
 

 

 

投資信託を選ぶ際に「為替ヘッジあり」「為替ヘッジなし」という言葉を見たことがある方は多いでしょう。外国の株式、債券、不動産などに投資する投資信託の商品名にしばしばついています。同じ商品名の投資信託であれば、為替ヘッジありでも為替ヘッジなしでも、投資している資産自体は同じです。しかし、為替ヘッジありと為替ヘッジなしでは、値動きが異なります。では、投資信託の「為替ヘッジあり」と「為替ヘッジなし」、どちらを選ぶのが良いのでしょうか。

(頼藤 太希:Money&You代表取締役/マネーコンサルタント)

為替レートの変動による影響を避ける「為替ヘッジ」

 為替ヘッジとは、「為替変動による値動きの影響を避けること」です。

「為替ヘッジあり」の商品は、先物取引や信用取引といった特殊な手法を使い、為替変動による値動きの影響を抑えるように運用されます。

 反対に「為替ヘッジなし」の場合は、そうした影響を抑えずに運用を行います

 

 外国資産に投資する投資信託の値動きは、「資産自体」と「為替」の値動きによって決まります。

「資産自体」とは、投資信託が投資の対象にする資産のことです。

 どの資産に投資するかは、投資信託によって異なります。つまり、投資信託自体の値動きは、投資先によって変わります。

「為替」は円安・円高といった為替レートの変動のことです。為替レートとは、異なる2つの通貨の交換比率のこと。投資信託が投資家から集めたお金で外国の資産を買うときには、その資産のある国の通貨を投資実行時点の為替レートで両替します。

 反対に、外国の資産を売ると外国の通貨で戻ってきます。そのお金を投資家に返すときには、外国の通貨を円に両替して支払います。

 買うときの両替と売るときの両替で、為替レートがまったく同じであれば、為替変動の影響はありません。しかし、為替レートは平日24時間絶えず上下していますので、まったく同じになる可能性は低いでしょう。

 為替ヘッジありの場合、為替レートによる値動きの影響は低くなりますが、ヘッジコストを負担しなくてはなりません。ヘッジコストは外枠で別途支払うのではなく、運用成績に反映される形で投資家は負担します。つまり、為替ヘッジコストの分だけ運用パフォーマンスを下げることになります。

為替ヘッジコストは各国通貨の短期金利の差がベース

 為替ヘッジコストは、各国通貨間の短期金利の差がベースになっています。

 例えば、米ドル円の為替レートの値動きによる影響を減らすために為替ヘッジを行なう場合、円は米ドルよりも短期金利が低いので、米ドルと円の金利差が為替ヘッジコストとなります

 

 円金利は2024年に入って2度の利上げが行われ、わずかに上昇したものの、諸外国との金利のほうが高い状態が続いています。

 たとえば、日本と米国の政策金利は、次のように推移しています。

■日本と米国の政策金利推移(%、2016年1月〜2024年9月

 

 日本は2024年になってマイナス金利政策を解除し、2度にわたって利上げを行いましたが、依然政策金利は0.25%と低水準です。

 米国は、日本よりもずっと機動的に利上げ・利下げを行なっている様子がわかります。2022年からは、物価が上昇するインフレを抑制しようと、大幅な利上げを何度も実施。政策金利は一時5.5%まで上昇しました。2024年9月に0.5%の利下げを行いましたが、それでもまだ5%と、日本とはずいぶん差があります。

 そのため、米ドルと円の為替ヘッジコストも高くなってしまいます

 

 上述の通り、この為替ヘッジコストは、運用成績に反映される形で投資家は負担します。

為替ヘッジありとなしで運用成果はどう違う?

 実際、為替ヘッジコストの「あり」と「なし」で運用成果がどう違うのか、先進国株式・外国株式・先進国債券に投資する投資信託で比較してみます。

<為替ヘッジの「あり」「なし」による違い

 

 注目はリターンとリスクです。確かに、為替ヘッジありのほうがリスクは若干低くなっています。しかし、リターンは為替ヘッジなしの商品のほうがずっと高くなっていますね。加えて、シャープレシオ(リスクに対するリターンの度合い)も、為替ヘッジなしのほうが大きい(効率よくリターンを出せている)ことがわかります。

 コストの面でも為替ヘッジなしのほうが優秀です。いずれも、コストの安い投資信託ではあるのですが、為替ヘッジなしの商品のほうが保有中にかかる信託報酬が安くなっています。「iFree外国株式インデックス」は為替ヘッジありでもなしでも信託報酬が同じなのですが、投資信託の運営費用などを加えた「実質コスト」をみると為替ヘッジなしの方が安くなっています。

 さらに、為替ヘッジありの商品は、円安によって為替差益が得られるというときにも、その恩恵を受けにくくなってしまいます。日本経済新聞によれば、先進国株式・先進国債券に投資する投資信託の1年リターン(2024年4月末時点)は、「為替ヘッジなし」が「為替ヘッジあり」を大きく上回ったと報道しています*1

*1:投資信託の為替ヘッジ有無、運用成績への影響は?

 為替ヘッジありの商品に投資していた場合は、資産自体が値上がりしていても、円安の恩恵を受けられなかったということがわかります。

 ところで、2024年9月には米国が0.5%の利下げを発表しました。米国の利下げは円高の要因(日米の金利差が縮小するため)で、2024年には161円まで円安になった米ドル/円の為替レートも一時139円台まで円高に進みました。

 今後も円高が進む可能性も否定はできません。ですから、円高に備えて「為替ヘッジあり」の投資信託を購入したいという方もいるでしょう。確かに、為替変動による損失を抑えられるでしょうが、その分、為替ヘッジコストによるパフォーマンス悪化が大きいことも忘れてはいけません。

 値動きと上手く付き合いながらお金を増やすための方法として分散投資があります。

 分散投資には、「資産の分散」「地域の分散」「銘柄の分散」「業種の分散」「時間の分散」がありますが、「通貨の分散」も大事です。

 為替ヘッジがなければ、為替変動の影響を受けやすくなりますが、余計なコストがかからず、為替レートが円安に向かったときには為替差益を受け取ることもできます。

 通貨分散やコスト面を踏まえると、為替ヘッジなしを選んでおくのが筆者はベターだと考えています。

※本記事で紹介した個別銘柄については、あくまでも参考として申し述べたものです。投資の最終決定は各自の責任でお願いいたします

 

 

 

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