いまのイスラエルはハマスを助けている」
テロ組織の専門家が語る「ハマスに終焉をもたらす」6つの方法とシナリオ
レクスプレス(フランス)
Interview by Alix L'Hospital
米カーネギーメロン大学研究所、戦略・技術局長を務めるオードリー・カース・クローニンは、戦略的な観点からテロとの闘いを考察している。
過去150年間にわたる457余りのテロ組織、テロ活動を調査し、彼女はテログループ「消滅」のための6つの歴史的類型を規定した。それは、「失敗」、「成功」、「交渉」、「リーダーの捕縛・暗殺」、「軍事的鎮圧」、そして「グループの変化」である。
『どのようにてろはおわるのか? テロ活動の、衰退と終焉について』
(未邦訳)
の著者でもあるクローニンに、ハマス終焉に向けて起こりうるシナリオ、そして、イスラエル政府の対応への評価を聞く。
「軍事的鎮圧」の限界
──あなたの研究によると、「軍事力による鎮圧」は、テログループ終焉の6つの戦略のうちの一つです。2023年10月7日の攻撃以降、イスラエルはその方向性をとっていますが、それは効果的なのでしょうか?
一般的に言って、軍事的鎮圧の戦略は両陣営にとって高くつきます。そして現代史においては、テログループを崩壊させるという目的に対して、それほどの結果を残していません。
1990年代のチェチェン分離派に対するロシアの攻撃を例にとると、ロシアはチェチェンの主要分離派グループに壊滅をもたらしましたが、同時に2万5000人以上の市民の犠牲と何十万もの難民を出し、コーカサス地方全体に脅威を波及させました。
他にも例はあります。それから十数年後、スリランカ政府は、タミル人テロ組織「タミル・イーラム解放のトラ」を根絶しようと軍事力を用いました。結果として指導者たちは潰されました。しかし、このときにも何万人もの市民が殺されるという損失が伴っていました。
私の研究によると、軍事的鎮圧が有効なのは、標的となるテログループのメンバーが一般人と分離できる場合のみです。その場合でも、市民の自由は侵食され、国家組織、とりわけ民主主義はダメージを受けます。
攻撃の際に、市民とテロリストとの明確な区別がつきにくいのは言うまでもなく、民衆と国際社会は、軍事的鎮圧で政府が実際に「何を守ろうとしているのか」を疑問視します。イスラエルもこの法則を逃れることはできません。
──軍事的鎮圧という戦略は、本質的な理由からガザで失敗に終わるのでしょうか、それともイスラエルのやり方が悪いのでしょうか?
2023年10月7日のテロ攻撃への反応として、イスラエルは、より慎重な軍事作戦を選択することもできたはずです。しかし、テロリストと一般市民との区別をつけずに、非常に破壊的な攻撃をおこない、ガザでの人道的支援を制限しています。その戦略は逆効果です。
ある意味、イスラエルはハマスを助けています。というのも、長い間ハマス支配に対して疑念を持っていたガザの一般的なパレスチナ人たちを、ハマスに接近させたからです。国際社会の支援をないがしろにしたことは言うまでもありません
希望」をパレスチナの住民たちに示すべき
──イスラエルは戦略をどう変えていくべきだとお考えですか?
いま、イスラエルがしなければならないのは、ハマスに反対するようパレスチナの住民たちを仕向け、テロリストグループに代わる代替案の存在を示すことです。
別の言い方をするなら、「民意の支えを切り崩すことによって、ハマスの崩壊を進める」ということです。イスラエルはどうやってそこに至るのか? 戦争終結と、ハマスのない未来という「希望」をパレスチナの住民たちに示すことです。しかし、そのためには軍事的戦略ではなく、真剣な政治的戦略が必要です。
そこに辿り着くための方法の一つは、ガザの人々に対する人道支援を大きく拡大させることです。「敵はハマスであり、パレスチナ市民ではない」とはっきり示すのです。現時点で、市民たちは何の解決策も避難場所もないまま、イスラエルの軍事攻撃によって何万もの同胞、友人、隣人たちを殺害されています。
もう一つの要素は、停戦に向けた交渉の進展です。それこそが作戦の鍵を握っています。「交渉」はテロリストグループ解体のための6つの戦略のうちの一つです
グループを消滅させるにあたって、なぜ交渉が重要な役割を担うのですか?
その有効性は歴史が証明しています。北アイルランドでは、1998年にベルファスト合意(聖金曜日協定)が結ばれ、アイルランド共和国軍(IRA)暫定派によるテロ活動が終結しました。コロンビアでは2016年にコロンビア革命軍がついに政府と協定を結び、正式な政党として認められました。
そうは言っても、私の研究によると、交渉に踏み込むテロリストグループはおよそ18%だけです。交渉にはリスクがあり、「暴力の他には解決策がない、暴力だけが唯一の選択肢である」という彼らの主張が揺らぐ危険性を恐れるのです。
ハマスを見てみると、数ヵ月前からイスラエルと直接的、間接的な交渉をおこなっていますが、残念ながらネタニヤフ政権もハマス指導部も戦争の継続を選び続けています。現時点で私たちに望める最良の結末は即時停戦です。しかし、交渉が長く厳しいものになるとしても、「交渉するという事実」だけで、効果があります。
もっとも手短な「終焉のシナリオ」
──それはどういうことでしょうか?
私が定めた6つの戦略は、それぞれ背反するものではありません。今回のケースでは、「交渉」の戦略は別の戦略、グループの「失敗」という戦略と対になっています。20世紀のテログループに終焉をもたらした、もっとも手短なシナリオです。
いくつかの事例において、グループは自ずと崩壊しています。その原因は運営上の、あるいはイデオロギー上の不一致(2000年代初頭の日本赤軍のケース)であり、世代交代(アメリカの極左集団「ウエザーマン」のケース)であり、分派への解体(聖金曜日協定以降のIRA残党のケース)などです。
別のケースでは、民衆の支持の喪失があります。たとえば、政府がグループに代わる組織を作り出したり、あるいは単にグループがターゲット設定を間違えて、取り込もうとする人々の嫌悪感を引き起こしたりということです。1998年、「真のIRA」が北アイルランドの小さな町オマーで実行した爆弾テロがその例です。このテロは、子供を含む29名を殺害し、社会を震撼させ、結果的に聖金曜日協定への支持を進めることになりました。
──ハマスはどのように自滅しうるのでしょうか?
交渉の間に、ハマスは方向性をめぐって分裂し、弱体化する可能性はあります。さらに、グループは、同じくイランの支援を受ける「イスラミック・ジハード(イスラム聖戦)」との競争にも直面しており、指導者たちは完全には一致していないように見えます
しかし、もっとも可能性が高い失敗の道は、民意の支持を失うことです。ガザで正確なアンケートをとることは大変に難しいでしょうが、パレスチナ市民たちが被害を受け、イスラエルとその軍事的対応に怒りを感じるなら、ハマスに対しても怒りを感じていると見なしても当然でしょう。
それは、民衆支持の変化に最適の土台です。イスラエルにとって、対テロリストの最高の戦略は、ハマスを「失敗」に導くことです。そこで、パレスチナへの人道支援を拡大する、交渉の努力を重ねるという、先ほどの私の提案が出てくるわけです。
──あなたが挙げた戦略には、テロリストグループの指導者の捕縛ないし暗殺が含まれています。10月7日以降、ベンヤミン・ネタニヤフは、ハマスの指導者すべてを「見つけ次第」殺害すると宣告しましたね。
その通りです。しかし、歴史的に見て、そのような方法で分裂したグループは大抵、創設10年未満の若いグループで、内部のヒエラルキー化された組織と、個人への強い信仰という特徴があります。ですので、事前に後継者について考えられることはあまりないということです。
一方で、40年近く存在する相互連結的なグループであるハマスは、こうした戦略が有効になる類のグループではありません。
さらに、イスラエルはハマスの創設者アフマド・ヤシンをすでに2004年に殺害しています。もしそれがグループの終焉をもたらすのであれば、すでに消えてなくなっているはずです! もっと言うと、2023年10月からイスラエルはハマスの100名以上のリーダーを殺害したと報告していますが、その戦略はイスラエル政府に不利に働くように見えます。というのも、潜在的な標的の範囲がハマスメンバーの家族にまで拡大し続けているからです。
たとえば、2024年4月にガザで起きた攻撃では、最高幹部イスマイル・ハニヤの家族の一部が殺害され、予期せぬ大きな政治的インパクトを残し、ハマスの政治指導者に、悲しみにくれる親というイメージを与えてしまいました。
ハマスが「成功」する可能性は
──ハマスが別の道を選ぶこと、つまりテロリストグループとは別の何かになることがもっとも納得できる道だと考えていますね。
残念ながら、そうです。もし、イスラエルが現在の軍事的戦略を維持するなら、ハマスは民衆の多くを動員することができ、広範囲の反乱グループに変容するように思えます。少なくともガザでは、潜在的にはヨルダン川西岸地域、さらにはイスラエルにも広がります……。イスラエル政府が今後どのような戦略をとるかにかかっています。
──最終的なシナリオは「成功」、テロリストグループがその目的に到達することですね。
いくつかのグループは目的に到達したため解散していますが、それは滅多にないケースです。20世紀を振り返っても、わずか5%しかこのケースに当てはまりません。
南アフリカのアフリカ民族会議の支部としてアパルトヘイトを終わらせるために闘った、「ウムコント・ウェ・シズウェ(民族の槍)」、あるいはイスラエル建国の基盤を築くためにテロリストの手法を用いたユダヤ人武装集団「イルグン(ユダヤ民族軍事機構)」の例を挙げましょう。
しかし、ハマスはこのケースには当てはまりません。というのも、単純にハマスはその目的、「川から海までのパレスチナの完全な解放」を達成できないからです。イスラエルは強く、米国や国際社会の大部分の支持を得ています。ハマスは消滅しないでしょうし、ハマスがイスラエルを消滅させることもないでしょう。
とは言っても、自国の団結と国家組織を崩壊させるような、高コストで抑圧的な軍事作戦を続けるなら、イスラエルは安全ではありません。
ネタニヤフ政権の軍事作戦が、イスラエル人捕虜の救出よりもハマスの破壊をはっきりと優先させる限りにおいて、それは怒りと、分断と、イスラエルの民意の大部分に抗議を引き起こすことになりますから
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