経済制裁下での開発と各国との繋がり
戦争を激変させた
「イラン製ドローン」が世界の脅威になっている

ブルームバーグ(米国)
Text by Peter Waldman, Sheridan Prasso and Simon Marks
ウクライナでの戦争以降、戦争においてドローンが頻繁に使用されるようになった。そんななかで注目されているのが、イラン製のものだ。長年経済制裁を受けてきたにもかかわわず、イランはどのようにそれらを開発し、他国に販売しているのだろうか。米メディア「ブルームバーグ」が、その真相に迫った。
世界に急速に広まるイランのドローン
2024年1月、スーダン国軍と戦う反政府勢力は、ハルツーム近郊でドローンを撃墜した。同勢力は歓喜に沸き、その残骸の動画をソーシャルメディアに投稿した。ここからわかるのは、イランのテクノロジーが世界の武器貿易を変えつつあるということだ。
過去2年間、ロシアを含む少なくとも5ヵ国でイランのドローンの製造が急増している。また、イラン製の製品・部品を有していたり、同国から技術支援を受けていたりする国が少なくとも12つある。
イランのドローンは、技術的には高度なものではない。しかし、広く使われることで、中東地域は不安定化しうる。イスラエルによる在シリア・イラン大使館の空爆に対するイランの報復攻撃にも、2024年初めの在ヨルダン米軍基地に対する攻撃にも、イランによる自爆型ドローンが用いられた。
これらのドローンは広い地域の軍隊や民兵に使われており、4つの大陸における紛争で確認されている。同国は40年以上経済制裁を科されてきたが、芝刈り機のモーターで動く模型の飛行機のようなドローンを生み出し、外貨獲得源としている。さらにそれを武器に自国の防衛産業や戦略的同盟関係を強化している。同国が武器商人となることで、今後、世界中の紛争の性質は変わるだろう。
米国防総省のスポークスマンは、イランによるドローンの調達、開発、拡散を「国際の平和と安全に対する脅威の増大」と呼ぶ。
「この2年間で、イランによるドローンを活用した戦術や技術開発が非常に加速しています。一方、どの国もその防衛能力を把握しきれていません」。そう言うのは、15年間米国防総省の情報将校を務め、2019年から2021年まで国務省のイラン担当副特別代表を務めたマシュー・マクニスだ。
イランは、ロシアがウクライナで使用するためのドローンを売ったことを繰り返し否定している。しかし、2022年2月の侵攻の前に「少数」を送ったことは認めている。国連イラン政府代表部は、ブルームバーグへの声明で、「道徳的な観点から、イランは、紛争地で兵器が使用される可能性があることを懸念し、他国と紛争中の当事者との武器取引には関与しない」と述べている
制裁下で生み出されたドローン
制裁は発明の母であり、回避する方法を見出させた。輸出規制を受けてきたイランは、西側諸国から軍事利用できる製品を買えなかったため、アジア企業や、関連企業のネットワークを介して欧米から電子部品を調達してきたのである。
「調達できるものを使う」というアプローチからできたのが、イランで最も攻撃力の強い自爆型ドローン「シャヘド136」だ。これはウクライナでも使われ、同国の独立反汚職委員会がその残骸を分析したところ、ほとんどすべての部品が欧米のものだった。
たとえば、そのドローンに使われていた米アナログ・デバイセズ社製の通信チップは、英国に拠点を置く電子機器販売会社が香港で2649香港ドル(約5万5000円)でオンライン販売している。また、同様に使われていた米テキサス・インスツルメンツ社のマイクロコントローラーも290香港ドル(約6000円)で購入可能だった。
ウクライナでロシア軍が使用したイランのドローン「シャヘド136」の残骸 Photo: Oleksii Samsonov
/ Global Images Ukraine / Getty Images
テキサス・インスツルメンツの広報担当者は、同社は米国のすべての輸出規制を遵守し、販売業者にも同様の対応を求めていると話す。アナログ・デバイセズの広報担当者も、同社はイランに対するすべての制裁と禁輸措置を遵守し、再販業者にも「厳格な監視と監査プロセス」を導入して、同社製品の不正転用を防いでいると述べる。
イランのドローン産業が栄えたのは、「革新できなければ、滅亡する」という危機感からであった。同国は、1979年に過激派がテヘランの米国大使館を襲撃して以来、国際的な制裁に何度も直面してきた。そのために自立する必要があったのだ
イラン独自のドローン技術が初めて注目を浴びたのは、2011年、米ロッキード・マーチン社の無人偵察機「RQ-170センチネル」がアフガニスタンとイランの国境でハイジャックされたときのことだった。
2018年、爆発物を積んだイラン製のドローンがシリアからイスラエルに飛来し、デビューを飾った。当時中東情勢は緊迫しており、それはイスラエルのヘリコプターに撃墜されたが、見た目は米国のものとそっくりであった。
今日、外国企業と接点のある何千もの民間企業のネットワークを通じ、イランの国営ドローンメーカーは必要な部品を入手している。こうした裏ルートのサプライチェーンについては、2020年以降に公開された米国における複数の起訴状に記載されている。
そこからわかるのは、イランで最も聡明なコンピューター科学者やエンジニアたちは、制裁をかわすために多くの時間を費やしているということだ。制裁下で失業者が全部で250万人いるイランにおいて、国防と石油産業はエンジニアにとっての数少ない就職先である
友好国と共同でのドローン開発
ETANAの調査によると、2000年代初頭、イランは同盟国のシリアと多くのドローン技術を共有していた。数十人のイランの科学者がシリア北部のアレッポに移り、同国の主要兵器研究所で4機種、自爆型のものを共同開発した。そこでは、ソ連の戦闘機「MiG-21」とセスナ機を改造し、2種類の小型無人攻撃機が生み出された。これはシリア内戦中に反政府軍にも使われたものだ。
さらに、ETANAの報告書によれば、ドローンの部品がシリアからレバノンのヒズボラに日常的に密輸されている。さらにヒズボラは製造指導も受け、イスラエルと戦うためにさまざまなドローンを製造している。報告書によれば、2010年、イランはヒズボラに納入される共同製造品の部品の全費用を負担することに同意したという

イランは、同盟国や代理国によるドローン製造を支援している。そうすることで、それらの国々は技術を獲得し、雇用を生み出せる上、イランは兵器の使用にあたっては否認できるのだ。ハッカー集団のプラナ・ネットワークが最近流出させた文書によれば、ロシアはイランに11億6000万ドル(約1850億円)を支払い、2025年までハイエンドの自爆型ドローン「シャヘド136」を6000機製造するという。革命防衛隊は、同機は50キロの爆薬を2500キロメートル運搬できると主張する。
これらのドローンは、モスクワから東に約1000キロのところに位置するタタールスタン州アラブガ経済特区で製造されている。ウクライナ侵攻以前は、3Mやフォードなどの欧米企業が生産拠点を持っていた場所だ。撤退によって、何千人もの技術者が仕事を失い、武器製造に従事できるようになった。その対価として、イランには先進的な最新鋭の戦闘機「Su-35」を含め、ロシアの武器が与えられると見られている
イランが張り巡らせるネットワーク
イランは、より冒険的な取引もしている。同国は最近、7年間断絶していたスーダンとの関係を回復し、同国の準軍事組織「即応支援部隊」を支援した。同軍はイランのライバルであるアラブ首長国連邦(UAE)の支援を受けているという指摘もあるが、UAE当局はこれを否定している。一方、スーダンの武装勢力は2022年3月、ドローンを製造したと発表した。
アフリカの他の地域では、エチオピアもイランの無人偵察機を使って2つの前線で反乱を鎮圧している。また、米国に協力的な中央アジアのタジキスタンも、イランの革命防衛隊に協力している。
「国際的に製造することで、イランは制裁を回避し、米国の技術輸出規制の対象外の国で部品を入手できる可能性があります。また、最終製品を再輸入する機会を得られるかもしれません」。米マサチューセッツ工科大学の軍事技術史研究者で、ドローン戦術に詳しいエリック・リン=グリーンバーグはそう語る。
バラク・オバマ政権でイランとアフガニスタンのアドバイザーを務め、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院の教授で元学部長のヴァリ・ナスルは、次のように述べる。「イランは世界の大国として真剣に扱われることを望んでおり、そのための自分たちの居場所を見つけようとしているのです」
結局のところ、中国がイランへの輸出を取り締まる気がない限り、イランのドローン産業は抑圧できないと、米商務省でかつて禁輸を担当していたドン・ピアースは言う。西側諸国がイランのものに対抗する効果的な軍事手段を開発するには、5年から10年はかかるだろうと専門家は言う。
「いまやろうとしているのは、崩壊しつつある堤防に指を突っ込むようなものです。イランの動きを鈍らせ、イランにとってのコストを上げることしかできません。イランを抑制しようとするのは、大気粒子を運んでくるジェット気流をコントロールしようとするようなものです