品質の違いは明らかだ」米国のバーテンダーがわざわざ「日本の氷」を取り寄せるワケ
米国製と「違いは明らか」
最高の一杯で客をもてなすために、日本の「氷」を輸入するバーテンダーが米国にはいる Photo: cagkansayin / Getty Images
米国の寿司レストランのなかには、魚をわざわざ日本から輸入している店もある。より美味しいものを提供したいという情熱のもと、寿司の本場から材料を仕入れているのだ。 米国のバーテンダーを魅了する「クラモト氷業」の美しい氷 そしていま、米国のバーまでもが「とあるもの」を日本から輸入している。どこにでも手に入りそうな、だが最高のサービスを提供したいバーテンダーたちが追い求める、最高品質の「氷」である。 「米国のカクテルバーは、日本のバーテンダーの緻密で優雅な技術に、長らく魅了されてきた。日本のスピリッツ、その他の材料や道具、技術などの特徴的な要素を自分たちのドリンクに取り入れている」 そう報じるのは、飲料に特化した米メディア「パンチ」だ。現在、こだわりが強く高級な米国のカクテルバーのなかには、日本から直接輸入した氷を使用している店も増えているのだという。 ニューヨークのカクテルバー「バー・モガ」のシンタロウ・エレアザル・トッツォが、パンチの取材に答えている。彼は米国製の不均一な氷に不満を抱えていたが、2021年、日本のクラモト氷業が作る氷と出会う。 「米国で手に入れる通常の氷と、クラモトの氷の違いは明らかだ」とトッツォは語る。クラモト氷業の氷は他のブランドよりもゆっくり溶け、カクテルの風味を損なわないのだという。 バー・モガではいま、すべてのカクテルに「クラモト」を使っているそうだ。
大正時代から続く老舗の技術
クラモト氷業は、1923年から続く金沢市の老舗氷屋だ。米国の販売代理店「クラモトアイス(Kuramoto Ice USA)」が2020年に設立され、以来、同国で約200のバーやレストランが、日本製の氷を手に入れるべく契約を結んだ。 前出の「パンチ」や、高級ライフスタイル誌「ロブ・リポート」は、クラモト氷業が作る氷について、次のように解説している。 「クラモトの氷の製造には約1週間かかる。まず、日本の白山から得られる軟水を48~72時間かけて凍らせる。すると大部分のミネラルが分離されるのだ。そのため、氷は非常に低い硬度を保ち、不純物もほとんどない」 「長時間かけたこの撹拌プロセスにより、マイクロバブル(細かな気泡)が取り除かれ、密度が高くゆっくり溶ける氷ができあがる……こうして、溶けてもドリンクに水っぽさをもたらさない透明な氷が完成する
かが氷」ではない
クラモト氷業の氷は、遥々日本から太平洋を越えてやって来る。米国のバーテンダーたちは、なぜそれほどまでに日本の氷に惚れ込んでいるのだろうか。 ロサンゼルスにあるバー「ダミアン」のバーテンダーであるグレース・ペレスは、クラモトのスティックアイスを使っている。細長く背の高い「コリンズグラス」にぴったり収まり、縁まできっちりフィットする点を気に入っているという。氷はやはりゆっくりと溶け、炭酸ハイボールの泡立ちも長持ちするそうだ。 「僕らは地元(米国)のものを使うよりも、日本からこのスティックアイスを輸入するほうを選びます。だって、完璧だからです。この美しい氷に多くの手間と注意が注がれていることがよくわかります」 ロサンゼルスのレストラン「カト」のバー・マネジャーであるオースティン・ヘネリーは、さまざまな方法でクラモトアイスを使っている。削り氷をカクテルに使ったり、自らの手でクラモトの氷を削ってドリンクに使ったりするという。食材同様、氷もこだわるべきだというのが彼の考えだ。 「米国の高品質な寿司や懐石料理のレストランは、日本から魚を輸入しています。最高のものでゲストをもてなしたいからです。最高品質の材料には価値があり、それはどんなものであっても変わりませんよ」 ヘネリーはまた、クラモトアイスのサービスにも価値を感じているようだ。現地で販売代理を請け負っている米沢直人について言及し、次のように語っている。 「ナオトは、流通に問題があれば自ら氷を配達してくれるような人です。そうしたカスタマーサービス、つまり彼が自分の製品と会社、そして仕事に対して抱く愛情は、他ではなかなか見られないものですよ」 当然のことながら、米国は氷不足に困っているわけではない。それでも日本の水から生まれるクラモト氷業の美しい氷に、バーテンダーたちは大きな価値を見出しているようだ。
COURRiER Japon