ミシュランガイド授賞式にて。2020年に初めて3つ星を取得した小林圭氏(後列右から4人目)、クリストファー・クータンソー氏(後列右から5人目)、グレン・ヴィエル氏(前列中央)とともに。小林氏の隣にはアラン・デュカス氏(後列右から3人目)の姿もPhoto: Christian Böhmer / picture alliance / Getty Images

ミシュランガイド授賞式にて。2020年に初めて3つ星を取得した小林圭氏(後列右から4人目)、クリストファー・クータンソー氏(後列右から5人目)、グレン・ヴィエル氏(前列中央)とともに。小林氏の隣にはアラン・デュカス氏(後列右から3人目)の姿も
Photo: Christian Böhmer / picture alliance / Getty Images

 

 

 

1月27日、フランスのパリで2020年版『ミシュランガイド』の授賞式が開催され、日本人の小林圭氏がオーナーシェフをつとめるパリのレストランが3つ星を獲得した。

小林シェフによる日本人初の快挙について、フランスのメディアが報じている。

「新しいものを生み出す才能」


フランスの週刊誌は、「フランスのミシュランガイドで栄えある3つ星を獲得した日本人のシェフはこれまでいなかった。2020年、小林圭はこの快挙を成し遂げた」と評価。

記事は、2003年から小林氏が働いていたパリのレストラン「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」のオーナーであるフランス料理の巨匠アラン・デュカスの次のような言葉を紹介する。「彼には、本質的でないものにはけっしてとらわれずに新しいものを生み出す才能がある」

また、小林氏の在籍中に「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」のシェフをつとめたクリストフ・モレの言葉も伝える。「ケイには、フランスのテロワールへの愛情と、高級日本料理の技術の両方がある。彼は2つの文化の最良の部分を取り入れ、常にどうすればもっとよくなるかを考えている」
 

さらに小林氏が自身の「メンター」と呼ぶシェフのジル・グージョン氏は、小林氏の料理を「オートクチュールや時計製造、宝石づくり」にたとえる。「それほど、彼の技術は正確なものなのだ。」
は小林氏の紹介記事を掲載し、「さまざまな風味を組み合わせる名手で、料理のアイデアが常に的確。繊細なスタイルに見て取れる日本の影響を自由に発揮し、高品質の食材のすばらしさを引き出している」と評価している。
 

 



また、週刊誌は、小林氏の髪型に注目し、その人物像をユーモラスに紹介した。「アジアの日本列島出身者が42歳にして、フランスの3つ星シェフの非常に閉ざされた世界に加わった。ハリネズミのように逆立てた金髪の髪型からして、1977年8月29日生まれのこの本物のサムライは、『ドラゴンボールZ』の天才作者、鳥山明のマンガからそのまま抜け出してきたかのようだ」
 

外国人シェフとしての苦労


「ル・モンド」紙は、27日

 

 

という記事を掲載した。
 

同紙は小林氏の授賞スピーチの中の「フランスには外国人シェフがほとんどいません。私たちに居場所を与えてくれてありがとうございます。フランスに感謝します」という言葉を引用した上で、フランスで外国人シェフが3つ星を獲得することがいかに困難であるかに言及している。

「長い間、フランスで3つ星を獲得した“外国人”シェフはひとりしかいなかった……アラン・デュカスだ」と、同紙は皮肉を込めて書く。デュカス氏は2008年にモナコ国籍を取得しため“外国人”シェフとなったが、もともとはフランス人だ。

彼を除けば、これまで3つ星を獲得した外国人シェフは、2019年のイタリア系アルゼンチン人のマウロ・コラグレコ氏のみだった。外国人にとって3つ星獲得がいかに困難であるかがわかるだろう。

「ル・モンド」は小林氏の言葉も伝える。

「全体的に言って、フランスではすべてのことが外国人シェフにはより困難です」「フランス人の有名シェフは役人と知り合いで、そのおかげで、たとえば従業員の滞在許可証の取得が容易になったりします。私の場合は、何度もどかしてくれと頼んでいるのに、店の前にゴミの収集箱を置きっぱなしにされたりするんです。もしこれがアラン・デュカスの頼みだったら、こうはなっていないでしょう

 

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シェフは王さま」

パリを制した

ミシュランシェフ

小林圭

が狙う次の舞台は日本

 

 

 

21歳でフランスに渡り、2011年にオープンした「レストラン KEI」でミシュランの三ッ星を獲得した小林圭

 

 

 

 

 

二ューヨーク・タイムズ(米国)

 

Motoko Rich and Kiuko Notoya Photographs by Noriko Hayashi

 

 

フランスで名声を得た、フレンチシェフの小林圭。食事に訪れる客にまで自分のポリシーを押し付けようとする彼が目指すのは、自身が「ブランド」になることだ。そんな小林が、母国の日本で新たな挑戦に挑む。


料理はタイミングがすべて。フレンチシェフの小林圭(46)は、それを忠実に再現する。一品を出すところで食事客がトイレに向かおうとすれば、引き止めることも辞さない。生理的欲求は待てる場合があるが、彼が提供する料理には最高の味を堪能すべきタイミングがある。

食事客にそこまで要求する厚かましさと頑ななまでの姿勢は、フランス修行時代の師匠のひとりから学んだ言葉、「シェフは王さま」そのものだ。小林がオーナーシェフを務めるパリの店「レストランKEI」は日本人シェフとして初めて、フランス版「ミシュランガイド」で三ッ星を獲得した。

東京で取材に応じた小林は、「それくらいの世界観がなければ、シェフを名乗る資格はありません」と言い切る。
 

2020年、レストランKEIでミシュラン最高峰の三ッ星を獲得した小林はこの2年弱、故国の日本で新たにレストランを4店開き、自らの野心を次々と実現させてきた。

小林は、「ひとかどのブランドになるのが目標」だと宣言する。その意味では、アラン・デュカスを手本としているように見える。実際、小林は2011年に独立する前まで、当時デュカスが統括していたパリの高級ホテル「プラザ・アテネ」内のレストランで働いていた。

彼には、草間彌生や村上隆といったアーティストとも共通項がある。いずれもクリエイティブな分野において、母国より先に海外で初めて名声を得た日本人だ。

フレンチの料理技法を自家薬籠中(じかやくろうちゅう)のものとするのは、もはや日本のお家芸だ。東京には世界最多のミシュラン星付き飲食店がひしめく。ミシュラン三ッ星を獲得した12店のうち、4店がフレンチ専門レストランだ。

小林は、「フランスの食は、日本の旬の食材を活かせばもっと進化できる」と話す。そのわずか数時間後、彼の姿は虎ノ門ヒルズ ステーションタワー最上階「東京ノード」に出店した「KEI Collection PARIS(ケイ・コレクション・パリ)」の公式オープニングの場にあった。
 

小林圭

2024年3月、虎ノ門ヒルズにオープンしたKEI Collection PARIS


この新しいレストランで彼は、カレーとビーフカツといった日本の家庭の味を彷彿させるメニューを忍ばせている。その一方で「大蛤の海藻バター焼き」「鰹のフュメ フロマージュブラン(フレッシュチーズ)のエスプーマ」「中トロ キャビア 手巻き寿司」といった極上の品も提供する。

小林は、髪をプラチナブロンドに染め、黒ズボンの上にミシュランの三ッ星が刺繍されたダブルの白コートという伝統的なシェフの正装に、ニューバランスの緑のスエードのスニーカーを履いて店のオープニングに現れた。手首にはオーデマ・ピゲの腕時計が巻かれていた。

小林は、料理法を極めたと考えることを決して自分に許さなかったと控え目に語る。だが謙虚な言葉とは裏腹に、やや超然と見下ろしているようにも見えた。その妥協を許さない態度を体現する言葉が、小林お気に入りのフランス語にある──「Aller plus loin(もっと先へ)」だ。

「妥協すること、つまり『これでいい』と思うようになったら、それが辞めどきです

 

 

1年以内で星付きレストランへ


小林は提供する料理以外の監修も手掛けている。4月下旬、銀座に開いたレストラン「ESPRIT C. KEI GINZA(エスプリ・セー・ケイ・ギンザ)」支配人の野平聡は、「店内の調度品や内装、ソファの柔らかさにも神経を配っています」と話す。
 

「最後の1センチに至るまで徹底しているのです」

3月のKEI Collection PARISオープン当日、カウンター席のランチのひとり客が来店する数分前、小林はダイニングホールで流れている、自身が選曲したジャズ音楽コレクションの音量を調節していた。
 

小林圭

小林は長野県で育った。彼の父は地元の日本料理店の料理人で、母は毎晩手料理を作った。母の手料理には、彼の好物だったカレーライスもあった。だが小林は、両親から料理の作り方は教わらなかったという。

代わりに彼を魅了したのは、

 

フランス人シェフのアラン・シャペル

 

に関するドキュメンタリーだった。

 

小林はシャペルが着用していた、

パリッとしたシェフの白ジャケットを羨望の眼差しで眺めた。

 

そして高校中退後に地元のフランス料理店に就職し、

「そこのシェフに怒られ続けた」4年間を過ごした

 

パリを制したミシュランシェフ小林圭が狙う次の舞台は日本 | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)