アトリエ三者三様の力を発揮

“進化形コラボ”が奏功した「金沢美術工芸大学」

Part1 結集して挑む大規模校舎(1)

長井 美暁

 

ライター

“進化形コラボ”が奏功した「金沢美術工芸大学」 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)

 

 

case1 金沢美術工芸大学
SALHAUS カワグチテイ建築計画 仲建築設計スタジオ

金沢美術工芸大学は、3つのアトリエ系設計事務所が設計したキャンパスだ。3社はそれぞれの強みを生かしながら対等、かつ有機的にプロジェクトに取り組んだ。新時代のコラボレーションの在り方を示す好例といえる。

 金沢美術工芸大学は、金沢市が戦後間もなく開校した金沢美術工芸専門学校を母体として、1955年に設立された公立大学だ。2023年10月、金沢大学工学部跡地の東側へキャンパスを移転した。新キャンパスの設計は、SALHAUS(東京・千代田)、カワグチテイ建築計画(東京・中野)、仲建築設計スタジオ(東京・目黒)の3社が手掛けた。

 敷地は金沢城跡や金沢21世紀美術館などの観光名所や主要な施設が集まる市内中心部から南東に2~3km離れた小立野台地に位置する。広さ約4.7ヘクタールで、7棟の校舎と5つの庭を有する。ブリッジでつないだ各棟は、2階の屋内通路で回遊できるようにしている。

 跡地の西側には石川県立図書館が22年に移転、開館済みだ。両施設の整備に合わせて、敷地間の道も新設された。

「地域に開き、正しく閉じる」

 校舎群の外観は多様な外装材や開口部の形式が混ざり合い、街並みのように複雑な表情を見せる〔写真1〕。県立図書館側から見ると校舎の間に大きな通路が奥まで続く。「アートプロムナード」と名付けたこの通路は、キャンパスが開かれた場所であることを体現している〔写真23〕。

〔写真1〕向かいの県立図書館と統一感を持たせた外装

〔写真1〕向かいの県立図書館と統一感を持たせた外装

敷地北側からの外観。手前左の1号館と右の2号館の外装は、道路を挟んで向かいに立つ石川県立図書館のタイル張りに合わせた。敷地は約3mの高低差があり、アートプロムナードは奥に向かって緩やかに上っていく(写真:吉田 誠)

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南側上空からの全景。県立図書館の先に市内中心部が位置する(写真:吉田 誠)

南側上空からの全景。県立図書館の先に市内中心部が位置する(写真:吉田 誠)

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〔写真2〕学外にも開かれたアートプロムナード

〔写真2〕学外にも開かれたアートプロムナード

雁行するアートプロムナードには広場(プラザ)を2カ所設けた。金沢の街路に見られる「広見」に着想を得た。広見は藩政時代に荷車などの回転や火事の延焼防止のためにつくられたといわれている。プラザ1上部のガラス屋根はスパン36mを張弦梁構造で架け渡した(写真:吉田 誠)

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〔写真3〕広場にガラス屋根を架けて活動しやすく

〔写真3〕広場にガラス屋根を架けて活動しやすく

プラザ2はアートプロムナードの突き当たりに位置する。上部のガラス屋根は6カ所に組み柱を配置して自立させた。雨が多く、冬は雪も降る金沢にあって、ガラスの大屋根は学生の自由な活動を促す装置となる(写真:吉田 誠)

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 キャンパスには門や塀がなく、近隣住民も気軽に敷地内を通り抜けていく。プロムナードは2カ所で雁行(がんこう)させ、そこに広場を設けた。これは金沢の古くからある街路に見られる「広見」に着想を得たものだ。ガラスの大屋根も架け、学生の活動が雨や雪で妨げられないようにした。

 「キャンパス計画では『地域に開き、正しく閉じる』という言葉に大いに共感した」と、SALHAUS共同代表の日野雅司氏は振り返る。この言葉は18年4月から24年3月まで学長を務めた、金沢美術工芸大学の山崎剛教授が提唱したものだ。地域に開くと同時に、学生が自己と向き合い、制作や研究に没頭できる環境も必要、という大学側の強い意志を設計3社がくみ取り、それが両立するキャンパスを目指した。

 その具体策の1つが、4号館の中央に設けた「創作の庭」と、これを取り囲むように配置した「共通工房」だ〔写真4〕。共通工房の設置は大学側の強い希望だった。

〔写真4〕共通工房に囲まれる「創作の庭」

〔写真4〕共通工房に囲まれる「創作の庭」

4号館の3階テラスから「創作の庭」を見た様子。「共通工房」は学生が制作のために自由に利用できるこの中庭に面して配置されている(写真:吉田 誠)

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4号館1階の共通工房「石材加工機械室」の内部。奥2階に「アートコモンズ大学院」が見える(写真:吉田 誠)

4号館1階の共通工房「石材加工機械室」の内部。奥2階に「アートコモンズ大学院」が見える(写真:吉田 誠