前橋の白井屋ホテルが接する「馬場川通り」、民間主導の200m改修に建築家が集結
川又 英紀
日経クロステック
民間企業からの寄付をはじめとした市民の力で公共空間を改修する──。全国でも珍しい画期的なプロジェクトが、前橋市の中心街(通称まちなか)で2024年4月13日に現実のものとなった。都市利便増進協定に基づく「馬場川(ばばっかわ)通りアーバンデザイン・プロジェクト」だ。約200mの市道と、並行して流れる馬場川沿いの遊歩道公園を民間が事業主体となって再整備。同日に新生「馬場川通り」が街開きした。
れんがで舗装した馬場川通り。歩道と車道の段差をなくした(写真:日経クロステック)
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プロジェクトは「前橋市アーバンデザイン」の一環(写真:日経クロステック)
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改修した馬場川通りと接する主な施設。馬場川通りは「前橋中央通り商店街」(図左方向)とアート施設「アーツ前橋」(図右方向)を結ぶ、約200mのストリートだ(出所:前橋デザインコミッション)
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馬場川通りは幅員12mほどのストリートだが、歩道と車道が分断されていたので改修で段差をなくした。そして、かつて前橋の街並みを構成していたれんがでアスファルトだった路面を舗装し直した。用水路のように細い馬場川はこれまで柵で覆われたり蓋をされたりして、歩道から流れがあまり見えなくなっていた。そこで国産木材を使ったデッキやベンチ、テーブルを配置し、親水空間を整備した。周囲には草花も植え始めた。
まちなかの中心である「前橋中央通り商店街」と馬場川通りが交わる場所にあった公衆トイレ「馬場川パブリックトイレ」も建て替えて、きれいで使いやすくした。こうした一連の取り組みに、建築やランドスケープ、デザインなどの専門家が数多く参加しているのがプロジェクトの大きな特徴である。
川沿いに木製のデッキやベンチ、テーブルを置き、親水空間を設けた(写真:日経クロステック)
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公衆トイレも建て替えた。木製デッキなどを設置した親水空間と親和性が高い木造のトイレだ。世界的に有名なプロダクトデザイナーであるイギリスのジャスパー・モリソン氏が建築デザインを担当した。設計は高濱史子建築設計事務所、施工は宮下工業がそれぞれ手掛けた(写真:日経クロステック)
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街開きでは馬場川通り沿いの駐車場を「紺屋町広場」として開放(写真:日経クロステック)
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けん引役になったのは、都市再生推進法人前橋デザインコミッション(MDC)だ。MDCからの寄付の呼び掛けに、地元の財界関係者を中心としたメンバーで構成する「太陽の会」が応えた。市が19年に策定した中心市街地のまちづくり指針「前橋市アーバンデザイン」の推進組織がMDCであり、成果を目に見える形に実装したのが馬場川通りの改修というわけだ。ユニークな官民連携である。MDCは総事業費として、約4億3000万円を調達している。
この資金の中から、今後の維持管理費も捻出する。そして実際の維持管理の一部は、市民による「馬場川通りを良くする会」が担う。
太陽の会の会長を務めるのは、眼鏡大手ジンズホールディングス代表取締役CEO(最高経営責任者)である田中仁氏だ。田中氏は馬場川通りに接する廃虚同然だった「白井屋ホテル」を、建築家の藤本壮介氏と共に再生。前橋の新しい観光名所に変えた人物である。前橋出身の田中氏は私財を投じ、衰退するまちなかを建築やアートの力を借りて復活させようとしている。多くの建築家やデザイナー、アーティストが田中氏の熱意と行動力に引き付けられ、応えた格好だ。
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2021/01/08