中国から生産拠点を移動させている3つの企業、その成果は?

Huileng Tan

 

 

※本記事は、2023年7月6日に公開した記事の再掲です。

 

Business Insider Japan|ビジネス インサイダー ジャパン

 

中国江蘇省の工場で輸出用の電動スクーターを組み立てる従業員。

中国江蘇省の工場で輸出用の電動スクーターを組み立てる従業員。© BUSINESS INSIDER JAPAN 提供

  • 中国は40年以上にわたって世界の工場だった。
  • しかし今、企業は中国への依存を見直そうとしている。
  • アップル、半導体大手のTSMC、そしてマツダは、中国からサプライチェーンのシフトを進めている。

中国は40年以上にわたって世界の工場であり続けてきたが、その流れが変わりつつある。

 

中国のグローバル化とサプライチェーンの統合という時代は、2018年頃、当時のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領が東アジアの巨人・中国に対し行った「米中貿易摩擦」の後に崩れ始めた。約3年間にわたる新型コロナウイルスの厳しいロックダウンも、投資家に地政学的リスクの再評価を促した。

 

 

 

「地政学的な緊張それ自体は、これほどまでサプライチェーンの再編成を進ませるものではなかったかもしれないが、新型コロナウイルスは確かに、より多くのビジョン、人材、刺激を提供した」と、

 

2022年12月、調査会社フォレスター(Forrester)の

リサーチ・ディレクター、アシュトシュ・シャルマ(Ashutosh Sharma)は

Business Insiderに語っている。

 

 

 

リスク管理のためにサプライチェーンの一部を中国国外に

移行している中国のメーカーさえある

 

 

フォード(Ford)の上級管理職であるテッド・カニス(Ted Cannis)は

2022年12月、フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)に、

 

自動車サプライチェーン全体で「物流業務の大規模な見直し」が行われていると語った。

 

 

「サプライチェーンがこの10年の焦点になるだろう」

 

この記事では、

中国の製造業への依存を減らす大手企業3社を取り上げ、

世界の工場から脱却しようとする試みがどのような成果を上げているかを見てみよう。

1.アップルはサプライチェーンを中国からシフト…しかしVision Proの製造にはまだ中国の請負先が必要

アップル(Apple)は、2022年、中国の新型コロナウイルス感染拡大防止のためのロックダウン(ゼロコロナ対策)に反対する抗議活動がiPhone生産に打撃を与え、大きな影響を受けた。

 

それ以来、アップルはサプライチェーンを中国だけでなく他の国にも

移行しようとしているアップルはすでにiPhone生産

の一部をインドに移し、

 

iPadの製造もインドに移すことを検討していた。

だが、製造大国・中国から逃れることはできない。

 

中国河南省鄭州市にあるフォックスコン(Foxconn)の工場で働く人たち。

中国河南省鄭州市にあるフォックスコン(Foxconn)の工場で働く人たち。© BUSINESS INSIDER JAPAN 提供

 

 

中国の研究機関ウェルセンXR(Wellsenn XR)によると、

アップルが中国のサプライヤーに依存していることは、

2023年6月5日に発表した仮想現実(VR)と拡張現実(AR)を融合させたヘッドセット、Vision Proの最新の部品表(原材料や部品のリスト)を分析した結果で明らかだという。

 

ウェルセンの資料によると、

 

このリストにはアップルのVision Proの製造に関わる中国企業が8社含まれている。

 

その中には、

 

カメラモジュールメーカーのコーウェル・イー・ホールディングス(Cowell E Holdings)や、

 

 

アップル向けに製品の組み立てを行っているラックスシェア(Luxshare)

も含まれている。

 

 

 

アップルがVision Proの製造に依存する企業の中には、台湾に本社を構えるフォックスコン(Foxconn)がある。フォックスコンは、サプライチェーンを中国からシフトしている主要サプライヤーだ。

 

フォックスコンの劉揚偉(リウ・ヤング)会長は

2023年3月の決算説明会で、同社は中国だけでなく、アメリカ、ベトナム、インド、メキシコなどの国々で事業を拡大する必要があると述べている。

 

 

 

 

 

2.TSMCはアメリカ工場に400億ドル投資…経済的には意味がないとしても

世界最大の半導体メーカー、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー (Taiwan Semiconductor Manufacturing Company:TSMC)は地政学的緊張の中にある。

 

 

TSMCは2004年に中国での製造を開始した。TSMCの18の工場のうち2つが中国にあるが、ほとんどはまだ台湾にある。

TSMCが中国本土から完全に撤退するという兆候はない。

 

しかし、アメリカなどの地域にも進出している。

 

2022年12月、TSMCはアメリカのアリゾナ州に第2工場を開設すると発表し、

同州への投資額を120億ドル(約1兆7269億円)から400億ドル(約5兆7558億円)に増やした。

 

この工場は、アメリカ国内での半導体生産を促進するために520億ドル(約7兆4825億円)を提供する通称・CHIPS法(the CHIPS and Science Act)を通じて、

アメリカ政府から部分的に補助金を受ける予定だ。

 

 

TSMCの創業者モリス・チャン(Morris Chang)こと張忠謀は「この投資はTSMCにとってもアメリカにとっても賢明ではない」と話している。

 

 

「TSMCのアメリカ工場で製造される半導体は、台湾や中国で製造される物より、15%から20%割高になる可能性が高い」と半導体調査・コンサルティング会社セミアナリシス(SemiAnalysis)のチーフ・アナリスト、ディラン・パテル(Dylan Patel)は2022年12月にInsiderに話している

 

 

アップルはTSMCにとって最大の顧客であり、2022年のTSMCの売上高の26%を占めている。アップルのティム・クック(Tim Cook )CEOは、このアリゾナ工場がオンライン化されればアップルは最大の顧客になるだろうと述べている。

 

中国・南京にあるTSMCの基盤製造工場。

中国・南京にあるTSMCの基盤製造工場。© BUSINESS INSIDER JAPAN 提供

3.マツダは一部の部品の生産を日本にシフト…「コストは原動力ではない」

日本の自動車メーカーのマツダは、かつては中国での自動車部品の生産を支持する企業だった。マツダは2022年8月、部品メーカーに対して中国以外での部品製造を要請する一方、日本での在庫を増やす方針を示したとロイターが同社上層部の話として報じている。

 

 

この動きは中国の新型コロナウイルスのロックダウンで、サプライチェーンと生産スケジュールが不安定になったことを受けた措置だが、背後にある本当の原動力は価格だろう。

 

 

しかし、マツダの取締役 専務執行役員(現代表取締役社長兼CEO)の毛籠勝弘は、2022年12月、フィナンシャル・タイムズのインタビューに応じ、「もはや、コストが大きな原動力となる時代ではない。今、安定した部品調達のためには、サプライチェーンの堅牢性も考慮する必要がある」と話している。

 

 

「グローバルにビジネスを展開し続けるにあたっては、我々はもはや過去のようなグローバル化の時代ではなくなったという認識に基づいて、現在の変化を管理していかなければならない

 

中国から生産拠点を移動させている3つの企業、その成果は?