鹿島が万博で驚きの新技術、CO2吸収するSUICOM(スイコム)ドームの全貌
日経クロステック/日経アーキテクチュア
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鹿島が驚きの新技術を披露した。CO2を吸収して硬化する「CUCO-SUICOM(クーコスイコム)ドーム」だ。二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロ未満にする脱炭素型コンクリートを現場で吹き付けて建物の躯体(くたい)に使用する。2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の会場に建設する計画だ。24年4月の着工に先駆けて、同社技術研究所に隣接する敷地に試験施工。24年3月13日、建ち上がったばかりのドームを報道陣に公開した。
鹿島が公開した「CUCO-SUICOM(クーコスイコム)ドーム」の内部。2025年の大阪・関西万博に向けて、東京都調布市の技術研究所に隣接する敷地に試験施工したものだ(写真:日経クロステック)
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大阪・関西万博では西ゲート広場付近に建てられ、環境教育の場として使われる。建物の高さはおよそ5m。平面は長径23m、短径18mの楕円形状をしており、延べ面積は約260m2ある。
構造は鉄筋コンクリート(RC)造で、2種類のコンクリートを使った。鹿島が14年に竹中工務店などと開発した低炭素型の「ECM(エネルギー・CO2・ミニマム)コンクリート」と、新たに開発した脱炭素型の「CUCO-SUICOMショット」だ。
一般的なコンクリートを使う場合と同等の強度を確保しつつ、CO2排出量を約70%減らした。JIS(日本産業規格)の範囲にない材料を構造耐力上主要な部分に用いるため、日本建築総合試験所で建設材料技術性能証明を取得した。
「未来社会の実験場」をコンセプトに掲げる大阪・関西万博。会場内に建てられるCUCO-SUICOMドームの完成イメージ。建設場所は大阪・関西万博のシンボルとなるリング状の木造大屋根の外側。西ゲート広場付近だ。環境教育の場として使われる(出所:鹿島)
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試験施工したCUCO-SUICOMドーム。施工期間は2023年7月から24年2月まで。日本建築総合試験所の建設材料技術性能証明を取得した。性能証明番号は「GBRC 材料証明 第23-01号」だ(写真:日経クロステック)
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新技術の最大のポイントは材料と工法の組み合わせにある。脱炭素型コンクリートを現場打ちするのに適した工法を採用した。鹿島が米ドームテクノロジー社との技術提携により、21年に開発した「KTドーム」工法だ。膨らませたドーム型のポリ塩化ビニール(PVC)膜を捨て型枠として使い、吹き付けコンクリートで躯体を構築する。
構造方法や構造計算方法が定められていない工法であるため、建築基準法20条(構造耐力)に関する国土交通大臣認定の取得が求められる。大阪・関西万博では仮設建築物として建てるため、指定性能評価機関から材料や構造方法の技術的な評定を取得すれば大臣認定は不要だ。CUCO-SUICOMドームでは日本建築総合試験所の建築技術安全審査を受けて合格した。この安全審査が評定に当たる。
一般的に低炭素型や脱炭素型のコンクリートは中性化が早く、内部の鉄筋が腐食しやすいという課題がある。そのためRC造の躯体として使うのが難しかった。「今回の工法は膜があるためコンクリートが外気に触れず、雨水も当たらない。こうすればRC造の躯体に適用できるということを実験と解析で明らかにした」。鹿島技術研究所の閑田徹志副所長はこう話す。
施工は次の手順で進める。まずドーム型のPVC膜を送風機で膨らませる。作業員が膜の内側に断熱材を取り付け、鉄筋を組む。次にECMコンクリート、CUCO-SUICOMショットの順でコンクリートを吹き付けて躯体を施工。コンクリートの厚さはそれぞれ167mmと33mmとした。
ドーム型のポリ塩化ビニール(PVC)膜を送風機で膨らませ、これを型枠として内側に配筋する。PVC膜は国内で工場製作したものを使う(写真:鹿島)
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膨らませたPVC膜の内側に断熱材を施工した後、鉄筋を組んでいく(写真:鹿島)
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ECMコンクリート、CUCO-SUICOMショットの順でコンクリートを吹き付ける。PVC膜の内部で施工を進めるため、天候の影響を受けにくい(写真:鹿島)
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その後、躯体の内側にダクトを設置する。さらに躯体内部で新たに小型ドームを膨らませて内膜をつくり、躯体と内膜の間に厚さ300mmの隙間を設ける。ダクトを通して隙間にCO2を充填。高濃度CO2環境下でCUCO-SUICOMショットを約1週間養生し、CO2を吸収させる。「内膜を設置することで、CO2を充填する体積を減らし、効率的に高濃度環境をつくれるようにした」(閑田副所長)
鉄筋にコンクリートを吹き付けて躯体を構築した後、躯体内部で小型ドームを膨らませ、内膜をつくる。躯体と内膜の間にCO2を送り込み、炭酸化養生を実施する(出所:鹿島
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