集合住宅版ZEHが急増中、ただし7割が太陽光発電なし
前 真之
東京大学大学院准教授
2023年の新設住宅着工戸数が82万戸を切った。減少が顕著なのが戸建て住宅だ。集合住宅を終(つい)の住処(すみか)に選ぶ人が増えている。そんな中、東京大学大学院の前真之准教授は、集合住宅版ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の省エネ性能に疑問を呈する。(日経アーキテクチュア)
戸建て住宅の着工戸数が減少する中、分譲マンションや賃貸アパートなどの集合住宅でも、断熱強化や省エネ性能の向上、太陽光発電の設置を進める必要性が高まっている。その期待を担うのが、「ZEH-M」(ゼッチ・マンション)。ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの集合住宅版だ。集合住宅版ZEHにその名と期待に見合った実力はあるのだろうか。今回は、集合住宅における、これまでの断熱・省エネ施策をおさらいしながら、集合住宅版ZEHの実態を明らかにする。
小規模な戸建て住宅では約8割を中小工務店が手掛ける一方、分譲マンションや中規模のアパートなどの集合住宅は、その多くを大手企業が供給している。こうした大規模・中規模の住宅は、2025年度からの省エネ基準適合義務化に先行して、省エネ性能を計算して所管行政庁に提出する、省エネ計画の「届け出義務化」が実施されている。
大規模・中規模の住宅は、省エネ計画の「届け出義務化」が実施されているにもかかわらず、小規模住宅よりも省エネ基準への達成率が低いのが実態だ(出所:公表資料などを基に筆者が作成)
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ならば当然、省エネ基準の断熱等級4、1次エネルギー消費量等級4 (BEI=1)をクリアしているものと思ってしまうが、20年度の省エネ基準達成率は、小規模が91%に達する一方、大規模・中規模は7割程度にとどまっている。つまり、大手企業は3割の集合住宅について「省エネ未達」なのを知りながら平然と届け出をしていることになる。
大手の住宅供給事業者に、省エネ基準を超えた断熱・省エネ性能を求める「住宅トップランナー制度」では、戸建て住宅や賃貸アパートが早々に基準整備の対象となった。だが、なぜか分譲マンションは外され続け、ようやく23年4月に追加された。
一定数の住宅を供給する住宅事業者に対し、省エネ基準を上回る性能を求めるのが住宅トップランナー基準である。分譲マンションは長らく未設定が続き、2023年になってようやく追加された。省エネ化が最も遅れている住宅区分といえる(出所:公表資料などを基に筆者が作成)
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集合住宅の中でも特に分譲マンションは、立派な見かけに反して断熱や省エネの性能は大きく出遅れている。「ZEH-M」で汚名返上と行きたいところだが、実情はどうなのだろうか