NYアパート崩落で“誤診”発覚
市公認の検査官が構造柱を装飾と取り違える
島津 翔
シリコンバレー支局
米ニューヨークで発生したアパートの一部崩落事故で、検査官が構造柱を装飾と取り違えていたことが発覚した。市はこの検査官の資格を停止し、担当した300棟超の物件の再検査を急いで進める方針だ。
米国時間2023年12月11日午後3時半ごろ、ニューヨーク市北部のブロンクス地区にある7階建てアパートの一部が突然、崩落した〔写真1〕。崩れたのは北東側の角。端部の柱と外壁が1階から屋上まで崩れ、一部の床スラブが残ったという状態だった。
〔写真1〕7階建てアパートの一部が崩落
米ニューヨークのブロンクス地区で築96年のアパートの一部が崩落した。ニューヨーク市は検査官が構造柱を化粧材と誤認したことが崩落につながったと見て調査を進めている(写真:ニューヨーク市消防局)
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アパートは築96年で、構造は鉄筋コンクリート造と見られる。45戸程度の住戸の他、1階部分には商業テナントが入居している。崩落による死者は出なかった〔写真2〕。
〔写真2〕直下の歩道はがれきの山に
崩落した柱や外壁が直下の歩道に落下した(写真:ニューヨーク市建築局)
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市消防局による被害者捜索の様子。死者は発生しなかった(写真:ニューヨーク市消防局)
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崩落直後の上層部の床スラブ。再崩落の恐れを考慮して、事故の翌日以降に撤去された(写真:ニューヨーク市消防局)
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当該アパートは以前から管理体制の問題が指摘されていた。複数の米メディアは崩落事故後、20年の検査で建物の一部が安全ではないことが報告されており、市の基準に対して複数の違反があると報じた。
崩落事故の後で周辺住民などからこうした違反や建物の安全に対する懸念の声が上がったことを受け、ニューヨーク市建築局は23年12月14日、違反に関する暫定的な調査結果を発表。アパートには違法な地下室の使用や維持管理の不備、カビの放置などで計110件の違反があるとしながらも、「これらが建物の構造的な安定性を脅かすものではない」とした。
崩壊につながる検査の不備が発覚したのは翌15日だった。市は、23年6月に当該アパートを検査した検査官が、建物の構造柱を意匠のための化粧材と取り違えていたと発表。老朽化が進んだ構造柱の補強をしなかったことが崩落の原因の1つであるとの見方を示した。いわば“誤診”が事故につながったわけだ。
検査員は市の職員ではなく、市が認定資格を与えている民間企業のエンジニアと見られる。
ニューヨーク市建築局のジェームズ・オッド局長は「(建物を検査した)エンジニアは明らかな構造柱を認識できなかった」とコメント。「市内の建物を評価する適格がない」として、検査員の認定資格を即日停止した。当局を通じて資格の永久剥奪を求めるという。
市建築局は問題の検査官が他に368件の建物安全性検査などに関与していたとし、この全てについて再検査を進める方針だ