日航機〝奇跡の脱出〟を専門家分析 「優れた訓練」ともう一つの重要な要因とは 羽田衝突事故で

The News Lens Japan

© REUTERS 着陸時に海保機と衝突し、滑走路上で炎上する日本航空のA350型旅客機=2024年1月2日、東京・羽田空港

 

 

 

東京・羽田空港で2日、日本航空(JAL)のエアバス350型機と海上保安庁の航空機が衝突し炎上した事故をめぐり、日航機の乗客乗員計379人全員が脱出できた〝奇跡〟について専門家らが分析し、その理由に迫った。

 

 

 

米英主要メディアは、新千歳発羽田行きの日本航空(JAL)516便が着陸直後、離陸しようと滑走路に進入した海上保安庁機と衝突し、炎上した事故について、日航機側に死者が無く、全員が脱出したことを「奇跡」などと驚きを持って伝え、乗員らの対応を称賛した。

 

 

 

一方、海保機は元日に起きた能登半島地震の被災者に支援物資を届ける予定だった。同機の乗員6人のうち、5人が死亡し、1人が重傷を負った。

 

 

 

航空機の安全機能

米CBSニュースの輸送安全アナリストで元国家運輸安全委員会委員長のロバート・サムウォルト氏は衝突で炎が上がった日航機について、「あのような状態の航空機から生還するためには、複合的な要素が重なったと思う」と語った。

 

重要な要因の一つは「最新旅客機の衝突安全性」だとサムウォルト氏は指摘する。新型機の内装は耐火性に優れているとし、側壁には以前の機体のように、すぐには燃えない素材が使われていると説明した。

 

 

同氏は今回の火災が、従来のアルミニウム外板の代わりに、高い強度や弾性率、軽量といったメリットを持ち合わせた炭素繊維強化樹脂(カーボンファイバー・コンポジット)で作られた航空機の胴体の安全性を検証するための重要な事例になると解説した。

 

 

 

米安全コンサルタントのジョン・コックス氏はAP通信に対し、機体が一定時間、内部まで燃え広がらなかったことで乗客を守った可能性があると推測した。

 

 

英紙テレグラフによると、A350が事故により全損したのは世界で今回が初めて。同型機はエアバス社が開発、製造する新世代の中~大型ワイドボディ機で、2015年、世界に先駆けてカタール航空が運用を開始した。

 

 

 

ドイツの航空ジャーナリストで、航空機事故を検証するポッドキャスト番組の共同司会者アンドレアス・スパエス氏は、炭素繊維強化樹脂製の機体が燃えるのを見たのは初めてだとし、完全に燃え落ちるまでに時間かかり、「かなり持ちこたえた」と評価した

 

 

機体の安全設計に加え、サムウォルト氏は「脱出の成功は少なからず客室乗務員(CA)のプロフェッショナリズムのおかげ」と述べた。

ある日本人乗客はロイター通信の取材に、「客室乗務員はわれわれに落ち着くよう求め、機内からの脱出を誘導した」と語った。機内で撮られた映像には、乗客らが緊急脱出スライドを素早く、また冷静に降り、小走りで飛行機から離れる様子が映っていた。

コックス氏は、これらの行動を「優れた訓練のたまもの」とした上で、「映像を見る限り、乗客は頭上から物を取り出そうとしておらず、飛行機から降りることに集中していた」と分析した。

「奇跡としか言いようがない」

乗客のアントン・デイベさん(17)はスウェーデン紙アフトンブラデットに対し、「わずか数分で機内全体が煙で充満した。私たちは床に身を伏せ、非常ドアが開けられて、一気に滑り降りた」と恐怖の瞬間について語った。

別の乗客はNHKの取材に、「CAは落ち着いて全員に荷物を置いていくように指示。その後すべての照明が消え、機内の温度が上昇し始めた」という。乗客が撮影した映像には、暗い機内でCAが懐中電灯を手に、「鼻と口を覆って、姿勢を低くして下さい」と指示しながら、冷静に避難誘導する様子をとらえていた。

東京都在住の28歳の乗客はロイター通信に、乗客が全員降機してから約10分後に飛行機内で爆発があったと証言。「奇跡としか言いようがない。ちょっとでも遅かったら死んでいたかもしれない」と話した。

乗客367人と乗員12人の全員が脱出し、うち乗客14人が軽いけがを負い、気分が悪くなった4人が病院で手当てを受けた。

 

 

 

 

航空史上最悪の事故

一方、米ニュースサイト「ザ・メッセンジャー」は、今回の衝突事故が1977年にスペイン領カナリア諸島のテネリフェ島で起きたボーイング747機2機による衝突事故を思い起こさせると伝えた。

 

この事故は、テネリフェ島で離陸しようとしたKLMオランダ航空のジャンボ機が、まだ滑走路内にいたパンアメリカン航空のジャンボ機と衝突、炎上したもので、両機の乗客乗員644人のうち583人が死亡。航空史上最悪の事故となった

 

 

 

 

濃霧が滑走路を覆う中で起きたこの事故は、コミュニケーションの行き違いが原因だった。

2日の羽田空港の事故については、日本の運輸安全委員会の調査に、エアバス社の本社があるフランスの政府航空事故調査局も、3日に専門チームを派遣することが発表された。

TNLJP編集部

 

 

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