令和にビットバレー再来か、駅直結「渋谷サクラステージ」にIT企業やエンタメ系集積

川又 英紀

 

日経クロステック

 

 

 

幹線道路や線路に囲まれ、街が駅を中心にして東西南北に分断されていた東京・渋谷。地名の通り、街は高低差がある谷地形でもあり、渋谷の移動は一苦労だった。渋谷駅は谷の底に位置し、どの方向に進んでも上り坂が続く。坂道沿いには飲食店やアパレルショップ、娯楽施設などが軒を連ねている。

 渋谷にオフィス街のイメージはあまりなかったが、ネットバブル前夜の2000年前後にネットベンチャーやIT企業が相次いで渋谷に拠点を構えるようになる。すると米国のシリコンバレーに対し、「ビットバレー」と呼ばれるようになった。ビットバレーとは「ビター(渋い)」と「バレー(谷)」を掛け合わせた言葉で、ビットにはコンピューターが扱うデータの単位であるビットの意味も込められている。

 あれから20年以上の年月が流れ、ビットバレーという呼び名はほとんど聞かれなくなった。そんな中、ネットバブルを勝ち抜いた数少ないベンチャーは、今や大企業に成長。19年には駅周辺に完成した高層ビルにオフィスを構えるまでに規模が拡大した。渋谷駅の真上に立つ「渋谷スクランブルスクエア」にも拠点を構えたサイバーエージェントや、「渋谷フクラス」にグループ第2本社を置くGMOインターネットグループが好例である。

 そして24年に再び、IT企業が大挙して渋谷に集まる動きが見え始めている。しかも坂を上った不便な場所ではなく、渋谷駅至近の好立地に移転してくる会社が増える。受け皿になるのは、23年11月30日に渋谷駅西口近くで竣工した大型複合施設「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」である。渋谷駅周辺にまた1つ、ランドマークとなる超高層ビルが誕生した。総延べ面積は約25万5000m2と広大だ。

2023年11月30日に竣工した大型複合施設「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」(写真:東急不動産)

2023年11月30日に竣工した大型複合施設「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」(写真:東急不動産)

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渋谷サクラステージは、JR渋谷駅(写真左手)から西口歩道橋デッキで国道246号(手前の道路)の上空を抜けた目の前に立つ。歩道橋デッキの上は首都高速道路だ(写真:日経クロステック)

渋谷サクラステージは、JR渋谷駅(写真左手)から西口歩道橋デッキで国道246号(手前の道路)の上空を抜けた目の前に立つ。歩道橋デッキの上は首都高速道路だ(写真:日経クロステック)

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 渋谷サクラステージは再開発で整備した道路なども含む面積が約2万6000m2ある複雑な形の土地に、建物が点在している。全体像をつかみにくい。建築基準法上は、渋谷駅に近い「SHIBUYAタワーとセントラルビル」、住宅やサービスアパートメントなどもできる恵比寿や代官山寄りの「SAKURAタワーとSAKURAテラス」、そして「日本基督教団中渋谷教会」の3棟から成る。

渋谷サクラステージにはオフィスや商業施設の他、サービスアパートメントや住宅などもできる(出所:東急不動産)

渋谷サクラステージにはオフィスや商業施設の他、サービスアパートメントや住宅などもできる(出所:東急不動産)

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 SHIBUYAタワーとセントラルビルが立つのがA街区で、「SHIBUYAサイド」と呼ばれている。一方、SAKURAタワーとSAKURAテラスがあるのはB街区で、こちらは「SAKURAサイド」だ。似た建物名や街区名ばかりで混乱しやすいが、ほとんどの人はSHIBUYAサイドとSAKURAサイドの2カ所で事足りる。なお、日本基督教団中渋谷教会はC街区となる。

渋谷サクラステージは「SHIBUYAタワーとセントラルビル」「SAKURAタワーとSAKURAテラス」「日本基督教団中渋谷教会」の合計3棟で構成(出所:東急不動産)

渋谷サクラステージは「SHIBUYAタワーとセントラルビル」「SAKURAタワーとSAKURAテラス」「日本基督教団中渋谷教会」の合計3棟で構成(出所:東急不動産)

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 事業者は、渋谷を地盤とする東急不動産が組合員として参画する渋谷駅桜丘口地区市街地再開発組合。東急不動産が約2000億円を投じた大事業だ。サクラステージの名称は、桜丘町の地名に由来する。テーマカラーは桜のピンク色で、随所に使われている。

SHIBUYAタワーの2階エントランス付近。駅から歩道橋デッキを渡ると、2階の「桜丘広場」に着く(写真:日経クロステック)

SHIBUYAタワーの2階エントランス付近。駅から歩道橋デッキを渡ると、2階の「桜丘広場」に着く(写真:日経クロステック)

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SHIBUYAサイド(A街区)とSAKURAサイド(B街区)を2階レベルでつなぐ歩行者デッキ。真下を通るのが、新たに整備された都市計画道路(補助線街路第18号線)で恵比寿方面に続く(写真:日経クロステック)

SHIBUYAサイド(A街区)とSAKURAサイド(B街区)を2階レベルでつなぐ歩行者デッキ。真下を通るのが、新たに整備された都市計画道路(補助線街路第18号線)で恵比寿方面に続く(写真:日経クロステック)

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 渋谷サクラステージに入居する施設は今後、順次開業していく。低層部にできる商業施設の店舗は、24年7月までにオープンする。同月26日には街開きイベントが予定されている。23年12月時点では、店舗はまだ開いていないので注意が必要だ。

 先行して、渋谷サクラステージ内の通路と広場は利用できるようになった。訪れる際は、歩行者ネットワークが整備された2階と3階を意識して歩くと迷いにくい。恵比寿寄りにできた3階レベルの屋外広場「にぎわいSTAGE」は誰でも利用でき、昼も夜も楽しめる。

恵比寿や代官山寄りに完成した3階レベルの屋外広場「にぎわいSTAGE」。フロウプラトウ(Flowplateaux)が広場の空間演出を担当。夜はライトアップでピンクに染まる(写真:東急不動産)

恵比寿や代官山寄りに完成した3階レベルの屋外広場「にぎわいSTAGE」。フロウプラトウ(Flowplateaux)が広場の空間演出を担当。夜はライトアップでピンクに染まる(写真:東急不動産)

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 にぎわいSTAGEの線路側には街の新しいシンボルとして、渋谷と桜丘に共通するイニシャル「S」をかたどった高さ9.5mの派手な建築物「しぶS(エス)」を設けた。しぶSは歩行者ネットワークの一部としても機能しており、地上と3~4階レベルを縦方向に結ぶ階段室になっている。

にぎわいSTAGEには街のシンボルとして、渋谷と桜丘に共通するイニシャル「S」をかたどった2階建ての建築物「しぶS(エス)」を設けた(写真:日経クロステック)

にぎわいSTAGEには街のシンボルとして、渋谷と桜丘に共通するイニシャル「S」をかたどった2階建ての建築物「しぶS(エス)」を設けた(写真:日経クロステック)

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 渋谷駅に最も近い39階建てのSHIBUYAタワーの高層部(8~38階)をはじめ、17階建てのセントラルビルの高層部(9~17階)と30階建てのSAKURAタワーの高層部(5~14階)にそれぞれ、異なる広さと平面形状のオフィスフロアがある。オフィスの賃貸面積は、3棟合計で約10万m2に上る。渋谷駅周辺の再開発では最大級のオフィス規模だ。23年12月からテナントの入居は始まっている。

 竣工時点のオフィス契約率は95%と好調だ。そのうち約80%がIT企業やゲームなどのエンターテインメント系企業が占める。ビットバレーの再来のような現象とは、このことだ。東急不動産は現在のところ、狙い通りのテナント誘致に成功している。

23年11月23日には、東急不動産が竣工記者発表と内覧会を開催した。渋谷駅に直結するオフィスの利便性と希少性が企業に評価されていると、報道陣に説明した(写真:日経クロステック)

23年11月23日には、東急不動産が竣工記者発表と内覧会を開催した。渋谷駅に直結するオフィスの利便性と希少性が企業に評価されていると、報道陣に説明した(写真:日経クロステック)

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 しかも、そのうちの1社でも2社でも将来、大企業に成長すれば、テナントの大クライアントになる可能性がある。大手デベロッパーがこぞってスタートアップ支援に力を入れるのは、そのためでもある。渋谷サクラステージも同様に、起業支援施設が充実している。

渋谷駅に最も近いSHIBUYAタワーは、高さが約179mある。低層部が商業施設、高層部がオフィスになる。真横にJRの線路がある(写真:日経クロステック)

渋谷駅に最も近いSHIBUYAタワーは、高さが約179mある。低層部が商業施設、高層部がオフィスになる。真横にJRの線路がある(写真:日経クロステック)

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SHIBUYAタワー、セントラルビル、SAKURAタワーのオフィス基準階イメージ(出所:東急不動産)

SHIBUYAタワー、セントラルビル、SAKURAタワーのオフィス基準階イメージ(出所:東急不動産)

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SHIBUYAタワーのオフィスフロア。写真は37階で賃貸面積は約2880m2、天井高は約2.8m。このフロアで300〜350人が働ける。窓からは渋谷のスクランブル交差点などを見渡せる(写真:日経クロステック)

SHIBUYAタワーのオフィスフロア。写真は37階で賃貸面積は約2880m2、天井高は約2.8m。このフロアで300〜350人が働ける。窓からは渋谷のスクランブル交差点などを見渡せる(写真:日経クロステック)

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SHIBUYAタワーと低層部が一体になっているセントラルビル。高さは約90m。手前は先述のにぎわいSTAGE(写真:日経クロステック)

SHIBUYAタワーと低層部が一体になっているセントラルビル。高さは約90m。手前は先述のにぎわいSTAGE(写真:日経クロステック)

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にぎわいSTAGE(写真中央)がセントラルビル(右手)とSAKURAタワー(左手)を3階レベルで接続する(写真:日経クロステック)

にぎわいSTAGE(写真中央)がセントラルビル(右手)とSAKURAタワー(左手)を3階レベルで接続する(写真:日経クロステック)

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高さが約127mあるSAKURAタワーは、建物右手のガラス張り部分がオフィスだ。左手の低層部がサービスアパートメント「ハイアット ハウス 東京 渋谷」で24年2月に開業予定。インテリアデザインはGARDEが手掛けた。高層部は東急不動産の高級マンション「ブランズ渋谷桜丘」で、16階にあるエントランスホールは、オーストラリアを拠点とするKoichi Takada Architectsがデザイン監修した(写真:日経クロステック)

高さが約127mあるSAKURAタワーは、建物右手のガラス張り部分がオフィスだ。左手の低層部がサービスアパートメント「ハイアット ハウス 東京 渋谷」で24年2月に開業予定。インテリアデザインはGARDEが手掛けた。高層部は東急不動産の高級マンション「ブランズ渋谷桜丘」で、16階にあるエントランスホールは、オーストラリアを拠点とするKoichi Takada Architectsがデザイン監修した(写真:日経クロステック)

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 IT企業やエンタメ企業が集積する渋谷サクラステージを目指し、テナント出店を決めた企業も現れた。楽器大手のヤマハはR&D(研究開発)のサテライトスペースを兼ねたブランド体験の場「渋谷桜丘新拠点」をSAKURAタワーの3階に設ける。アーティストやクリエーターなどとの偶発的なイノベーションを期待する。24年夏ごろの開業を予定している。桜丘にはもともと楽器店やスタジオなどがあり、渋谷の中でも音楽との結びつきが強い場所でもある。

ヤマハが出店する研究開発のサテライトスペースを併設したブランド体験拠点のイメージ(出所:ヤマハ)

ヤマハが出店する研究開発のサテライトスペースを併設したブランド体験拠点のイメージ(出所:ヤマハ

 

 

 

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渋谷を世界的なスタートアップ集積地に、東急不動産がMITと駅前に育成拠点開設

谷口 りえ

 

日経クロステック/日経アーキテクチュア

 

 

 

 

東急不動産は米マサチューセッツ工科大学(MIT)との産学連携により、社会課題の解決につながる専門性の高い技術「ディープテック」を開発するスタートアップ企業の育成に乗り出す。2023年10月13日、同社は育成や支援の拠点となる「Shibuya Deep-tech Accelerator(仮称)」を開設すると発表した。場所は東急グループの地盤である東京・渋谷だ。

 MITと連携し、東急不動産はスタートアップの成長を支援するアクセラレータープログラムを開発・提供する。渋谷エリアの国際的な都市競争力を高めることが狙いだ。24年11月の開設を目指す。

「Shibuya Deep-tech Accelerator(仮称)」の内観イメージ。2024年11月に東京・渋谷に開設する予定(出所:東急不動産)

「Shibuya Deep-tech Accelerator(仮称)」の内観イメージ。2024年11月に東京・渋谷に開設する予定(出所:東急不動産)

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 Shibuya Deep-tech Acceleratorは、23年11月30日に渋谷駅桜丘口前で竣工する大規模複合施設「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」のセントラルビル内に設ける。拠点の広さは約660m2を見込む。

JR渋谷駅西口側から見た、建設中の大規模複合施設「渋谷サクラステージ」。総事業費は約2000億円。写真は23年10月撮影(写真:日経クロステック)

JR渋谷駅西口側から見た、建設中の大規模複合施設「渋谷サクラステージ」。総事業費は約2000億円。写真は23年10月撮影(写真:日経クロステック)

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 アクセラレータープログラムを開発するに当たり、東急不動産はMITで環境やエネルギー工学、コンピュテーショナル材料科学を研究しているジェフリー・グロスマン教授をアドバイザーとして迎える。プログラムの対象分野は、ディープテックの中でも「サステナビリティー」「AI(人工知能)」「ロボティクス」「バイオ」などだ。

スタートアップの成長を支援するアクセラレータープログラムは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)と連携して開発する(出所:東急不動産)

スタートアップの成長を支援するアクセラレータープログラムは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)と連携して開発する(出所:東急不動産)

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 プログラムの提供開始時期は未定だが、年2回の開催で各回30社程度のスタートアップ企業の参加を見込んでいる。受講するには、一定の基準をクリアする必要があるという。プログラムの内容や募集スケジュール、参加企業の審査基準などは検討中で、今後詰めていく。将来的には1億ドル規模の投資ファンドを設立し、資金調達や経営もサポートしたい考えだ

 

 

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