2024年はおにぎりグローバル化が加速する!?おしゃれフードとして魅力を発信し続ける若き社長の挑戦
2023.12.02
ここ数年、静かに続いていた「おにぎりブーム」が今、新たなスタイルで再燃している。過去のブームは、どちらかというと昔から地元で愛され続けている伝統的なおにぎり専門店の再評価がメインだった。しかし今起こっているブームは、おにぎりをおしゃれなトレンドフードとして進化させていることが特徴だ。
そんな“進化系おにぎり”に今、グローバル化の波が押し寄せているのをご存じだろうか。その急先鋒となっているのが、一都三県(東京、千葉県、神奈川県、埼玉県)で展開しているチェーン店「おむすび権兵衛」。2013年、アメリカにおむすびの1号店を出したのを皮切りに、2017年にはフランス・パリにも出店。現在、アメリカに2店舗、パリに2店舗出店していて、特にパリ店は行列ができるほどの人気だという。
また香港では、「百農社国際」という会社が2012年から始めた「華御結(はなむすび)」というおむすび店を100店以上展開しており、2025年までにアジアを中心に2,000店舗へ拡大することを目指しているという。
“おにぎりのグローバル化”のトレンドを牽引するのは若き社長
こうした“おにぎりのグローバル化”のトレンドを牽引するのではと期待されているのが、2022年5月10日に第1号店を東京虎ノ門にオープンした「TARO TOKYO ONIGIRI」。設立当初から“海外100店舗”を目標に掲げており、2024年にはロサンゼルスに海外1号店を出店することがすでに決定している。いったいどんなおにぎりで、そこにグローバル化へのどんな戦略が秘められているのか。2023年7月19日、人形町オープンした2号店「TARO TOKYO ONIGIRI 人形町ファクトリー」で実際におにぎりを購入して味を確かめ、同店を運営する「RICE REPUBLIC株式会社」の若き取締役社長・川原田美雪氏に話を聞いた。
▲「TARO TOKYO ONIGIRI」を運営する「RICE REPUBLIC株式会社」取締役社長の川原田美雪氏。1996年生まれで東京大学大学院卒業後、LINE株式会社を経て2022年 に「まん福ホールディングス株式会社」に入社、2022年12月に「RICE REPUBLIC株式会社」取締役社長に就任
▲2号店「TARO TOKYO ONIGIRI 人形町ファクトリー」の店頭に並んだおにぎり
おすそわけカルチャーが根強く、まとめ買いが多い「人形町店」
「TARO TOKYO ONIGIRI 人形町ファクトリー」があるのは、地下鉄の人形町駅から日本橋方面に3分ほど歩いた路地にある。
▲2023年7月19日、人形町オープンした2号店「TARO TOKYO ONIGIRI 人形町ファクトリー」(東京都中央区日本橋小網町16-14 神明日本橋ビル 別館 1F)月~土は8:00~16:00 日祝日定休日
朝8時のオープンと同時に多数のお客さんがどっと入店。
驚いたのは、一人でトレイ2~3枚分、10個単位で買っていく人が少なくないこと。「自分のお気に入りのおにぎりを、『これが美味しいからみんなに買ってくんだ』という常連さんが多く、こういうおすそ分けの文化は、人形町ならではだと感じます」(川原田氏)。
一方、虎ノ門店のほうはオフィス街で多忙なビジネスマンがメインのため、迷わずスピーディに買う人が多く、高回転率だという。
▲8時の開店後数分でこの混雑。きれいにおにぎりが並べられた棚がたちまち空になり、次々に補充されていく
▲選ぶ時間も惜しい多忙な虎ノ門のビジネスマンに人気の「日替わり弁当」(780円
おにぎり人気ランキング1位は「ホタテ塩麹バター」!
2店舗共通でおにぎり人気ランキングを教えてもらった。
1位:ホタテ塩麹バター
2位:出汁パンチ×3
3位:厚切り焼きサバ 酢橘と刻みガリ
▲人気1位の「ホタテ塩麹バター」(300円)。塩麹バターでソテーした青森県産のホタテをたっぷり乗せたボリューム満点のおにぎり。塩麹の柔らかい甘みとバターの塩味、海苔の香りが口いっぱいに広がる
「『ホタテ塩麹バター』の具は、
青森県産のホタテを塩麹入りのバターソースでソテーして
塩昆布を混ぜたもの。
一度食べるとリピーターになる方が多いですね。
青海苔を表面にまぶしているので見た目が華やかなのも人気の理由では。
実は冬季限定商品だったのですが、あまりに人気が高いので通年商品になったんです」(川原田氏)
ちなみに同店では、塩麹を使ってる商品が多く、惣菜の唐揚げや豚汁などにも使用しているという。
※自宅に持ち帰り、付属の海苔の上に置いたもの。
おぼろ昆布のグルタミン酸、
椎茸のグアニル酸に、
つくだに昆布出汁のうまさの3連打。
厳選したという有明産の海苔も香りの高さにも驚いた
「『出汁パンチ×3』は、おぼろ昆布と昆布の佃煮、椎茸の佃煮という出汁のパンチ3連打を思いっきり浴びてください、という商品です。おぼろ昆布の優しい出汁感、昆布の佃煮のインパクトのある香り、最後にしいたけの佃煮の出汁が口の中でひとつにとけあう商品になっています」(川原田氏)
▲人気3位の「厚切り焼きサバ-酢橘と刻みガリ-」(300円)。香ばしく焼いた厚切りの塩鯖と相性抜群の刻みガリの組み合わせ
「厚切り焼きサバ-酢橘と刻みガリ-」は一見、白いおにぎりに身の厚い塩鯖を乗せただけのシンプルな一品に見えるが、川原田氏によると、このおにぎりこそ、同店がこだわっている食材の組み合わせの妙を実現したおにぎりなのだという。
「この分厚い鯖が一番の特徴なんですが、実は自家製のポン酢だれ、胡麻、鯖、紫蘇、ミョウガ、ガリという6つの食材を組み合わせていて、さまざまな香りや食感がある繊細な味わい。このおにぎり一つで、完成された和食のような美味しさになるよう、イメージしました」(川原田氏)。
ちなみにこのおにぎりは、塩鯖がどんどん厚くなっていって、時々、ふたをしめるのに苦労することもあるほどだとか…。
東京大学工学部大学院→LINE株式会社→おにぎり会社社長へ
実は川原田氏は東京大学工学部大学院出身で、専門は計数工学と、ガッツリ理系。その後、新卒でLINE株式会社に入社。中小企業向けのLINEマーケティングソリューションの営業提案、運用コンサルティング業務に従事した後、営業業務を離れ、社内のインサイドセールス組織の立ち上げとデータの可視化・分析を担当。その後、大企業向けの広告商品を中心とした広告媒体の企画業務に携わる。広告事業本部2021年度Best Rookie賞を社内で唯一受賞という実績を見ても、入社早々、華々しい活躍をしていたことがうかがえる。なぜそんな彼女が一転、おにぎり専門店を始めたのか。
川原田氏は学生時代、アメリカンフットボール部のマネージャーをしていたが、その先輩が、現在のパートナー会社である「まん福ホールディングス株式会社」代表取締役社長の加藤智治氏だった。「まん福ホールディングス株式会社」は、2021年4月、食に特化した事業承継プラットフォームとして創業した会社。「海外では浸透しつつある事業モデルですが、日本ではあまり広まっていない後継者不足を救う取り組みです。そのビジネスについてのお話を聞く中、そのつながりで、お米を扱ったビジネスで130年もの歴史があり、海外展開もしている神明ホールディングスを紹介されました」(川原田氏)。その時に、「お米」の持つ事業としてのポテンシャルを熱く語られ、「日本から世界を担っていくブランドを新しく作ろう」と声をかけられたのだという。
「私はもともと、日本発で世界を席巻するビジネスというものにすごく興味があったのですが、日本のITや製造業に比べても、日本の食は世界的にもトップクラスの高い評価を得ていますよね。そんな日本食の中の最もメジャーで手軽なファーストフードであるおにぎりはまだ、世界のトップチェーンがないという状況を聞いて、それが私の中の新鮮な驚きで、ここに大きなポテンシャルがあるんじゃないかと思ったんです」(川原田氏)
マクドナルドやサブウェイのように、世界中で誰もが知るファーストフードチェーンを日本発で作り、自分の手で世界に広めたい。そう考えてこのプロジェクトに加わった
「おにぎりって、儲からない」
川原田氏は入社前、1号店虎ノ門店でスタッフとして修業兼マーケティングをしていたが、その時に「おにぎり専門店は、忙しいわりに儲からない」ことを痛感したという。
「そもそもおにぎりってやっぱり、あまりにも日常食だし、コンビニでも安く買えるので、高いお金を払ってまで食べるものではないですよね。『ここのおにぎりは美味しい』って言ってくださるお客さんはすごく多かったんですが、それにしても儲からないということを痛感しました…(笑)」
しかも、おにぎりは競争が激しく、どこのチェーン店もレベルが高い。その中で選ばれるには、美味しいだけではなく、インパクトやブランド力が必要だと感じた。「差別化と付加価値ですね。美味しいのは当たり前で、ただ美味しいだけじゃ潰れてしまう業界なので、利益が少ないからこそたくさん売れなければならない、そのためにはどうするかを、料理スタッフや店舗スタッフとともに考え抜きました」(川原田氏)
海外に進出する前に、まず日本でファンをつくらなければならない。そのためにとった戦略が前述の「食材の組み合わせの妙」。しかし、さまざまな組み合わせを楽しんでもらおうと食材を足していった結果、具がご飯の中におさまりきらないものも出て来た。窮余の一策として具を上に乗せたところ、見た目の華やかさから人気を呼ぶように。外国人観光客にも「何が入っているかわかりやすい」と好評だという。
外国人に人気のおにぎりは「ローストビーフ」と「サーモン」
ちなみに、外国人観光客の一番人気の具は、鮭やローストビーフなどのように、素材がはっきりわかるもの。逆に梅干しはいつも説明を求められるし、日本人に人気の「出汁パンチ×3」は「何がパンチで、何が3なんだ」と聞かれるという。「肉や魚のようながっつり系か、ヴィーガンの方にはきっちり野菜だけ、という品が人気です」(川原田氏)
▲外国人客に人気が高い「黒毛和牛ローストビーフートリュフソース-」(410円)と、「和牛と根菜すき焼き-生七味添え-」(340円)
▲素材がわかりやすい「天然焼き紅鮭」(250円)も外国人観光客に人気
観光客のほかに、外資系の会社のイベントなどで、100個単位で予約が入ることも多い。フィンガーフードであること、ヴィーガンにも対応できることなどが人気の理由だ。2024年にはロサンゼルスに海外1号店を出店予定。ロサンゼルスを選んだのは、日系人が多くお米文化が根付いていること、そのためにおにぎりを握るスタッフが得られやすいということなどが理由。
現在、店舗では時間と手間がかかる計量をおにぎりロボットにまかせ、最後にふわっと握る工程を人間がやって仕上げるハイブリッド方式を採用している。最後の仕上げにはやはり人の手が必要で、それにはおにぎりの美味しさを理解していなければならない。それはアメリカ人にはハードルが高いので、まず日系人が多い土地で始めて、その技術をその国のスタッフにも広めていくという戦略だ。
「最初の2~3年は海外でブランド価値を作る期間だと思っていますので、年間数店舗ずつ出して、その先はフランチャイズ展開をして100店舗まで一気に拡大したい。ちょっと東大的に言うと(笑)指数関数的な伸ばし方をイメージしています」(川原田氏)
取材・文/桑原恵美子
取材協力/ RICE REPUBLIC株式会社
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