中国人富裕層、今年数十兆円海外に持ち出し 東京では4億円超マンションの主な購入者に
3年近くにわたり続いた「ゼロコロナ」政策を中国政府が終了したのは、今年の2月上旬。コロナ禍でのロックダウン(都市封鎖)や厳格な集中隔離をはじめとする強制措置や、習近平国家主席のさらなる独裁体制に危機感を感じる富裕層は今年、数十兆円規模の蓄財を海外に持ち出した。その内容とは―。
米紙ニューヨーク・タイムズは今週、海外渡航が可能になった2月以降、中国人富裕層が日本では超高級マンションを購入し、下落した中国よりも金利が高い米国や欧州の銀行口座で貯蓄をしたり、高利回りの保険商品を買っていると報じた。
東京臨海部の高層マンションや高層オフィスビル=2023年11月30日
中国の莫大な富の海外流出は、コロナ後の経済回復への先行き不安や、個人投資家の投機対象だった不動産市場の破綻などによるものだ。同紙はまた、一部の富裕層にとって、民間の企業活動に対する政府の締め付け強化や、社会の多くの側面で当局の介入を強める習指導部の下での経済の方向性への懸念の表れでもあると解説した。
中国政府が規制を強めるなか、海外に蓄財を持ち出すため、富裕層はゴールドバーや換金した外貨を目立たないように機内持ち込み手荷物の中に忍ばせたりもするという。
また、海外の不動産購入も選択肢の一つだ。中国人向け日本不動産投資サイト「神居秒算」の趙潔・代表取締役によると、東京で4億円以上する超高級マンションの主な購入者は中国人で、支払いは現金の場合が多く、「札を数えるのが大変」だという。
同氏によると、コロナ前、中国人は東京にある約5000万円以下のワンルームマンションを賃貸用に購入していたという。だが現在、彼らは家族を日本に移住させるため、大きな物件を購入し、投資ビザを取得しているという。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、今年は富裕層や民間企業により、毎月推定500億ドル(約7兆3800億円)が、中国から海外に持ち出されている。
だが専門家は、中国から流出する富のペースは、17兆ドル(約2500兆円)規模の中国経済から考えると、おそらく差し迫った危機をもたらすものではないと分析。主な理由として、多くの主要工業製品の輸出が堅調で、安定したキャッシュフローが戻ってきていることを挙げた
それでも個人レベルで貯蓄が海外に流出する動きが広範になれば、警戒を招くことにはなるという。ここ数十年を振り返ると、中南米や東南アジア、さらには2015年末から16年初めにかけて中国でも海外への大規模な資金流出が金融危機を引き起こしている。
同紙によると、これまでのところ、中国政府は状況を制御できていると自負しているようだ。中国からの資金流出により、人民元はドルやほかの通貨に対して下落。人民元安が太陽光パネルや電気自動車、その他の先端製品の輸出を有利に導き、それが何千万人もの中国の雇用を支えているからだ。
一方、中国の規制当局は、特別行政区マカオへのギャンブルツアーをほぼ全て禁止した。以前は裕福な中国人が人民元でカジノチップを購入し、その一部をバカラやルーレットでギャンブルに興じ、残りをドルに交換することができた。また、中国政府はホテルやオフィスタワーなど、地政学的価値の低い資産への海外投資のほとんどを禁止した。
それでも個人や企業は依然として蓄財を海外に持ち出し続けている。
その一つの手口は、香港で銀行口座を開設し、保険商品を購入するために送金する方法だ。香港保険局によると、香港を訪れる本土からの人に販売された新規保険契約は、コロナ禍で一旦ほぼゼロになった後、今年上半期は2019年上半期比で21.3%上昇した。
ニューヨーク・タイムズ紙によると、香港の九龍半島にある中国銀行の支店では、本土からの人たちが銀行の開店時刻90分前の朝7時半には口座開設のため、店先に並んでいた。香港の保険代理店のヴァレリウス・ルオ氏によると、午前8時時点で長蛇の列ができ、その日の営業終了前まで続いたという。
ルオ氏によると、富裕層は安全な貯蓄場所を求め、3万~5万ドル(約443万~740万円)の保険商品を購入している。その数は以前の数倍だという。「彼らは価値を維持できる投資パッケージを望んでいる」と同紙に語った。
TNL JP編集部