ビタミンCで風邪を予防」は誤解、その本来の働きと効果的な摂取方法は?

 

 

ナショナル ジオグラフィック日本版

体に不可欠な栄養素、だがノーベル賞を2度受賞した化学者が著書で誤解を拡散

ビタミンCは免疫系が機能するために不可欠な栄養素。ただし、専門家によれば、ビタミンCを大量に摂取しても、風邪やインフルエンザの予防に役立つことはないという。(PHOTOGRAPH BY REBECCA HALE, NATIONAL GEOGRAPHIC)

 

 

 

 

 風邪とインフルエンザがはやるこの季節、予防のためにビタミンCを頼りにする人もいるだろう。

 

ビタミンCにはさまざまな役割があり、

健康的な食生活に不可欠であることは間違いない。

 

 

だが、そのメリットについては強調されすぎているようにも感じる。

 

誤解されがちな「ビタミンC」。

 

どのような効果があるのだろうか。 

 

 

「病気を生む顔」になる食べ物とは 画像5点  

 

 

 

ビタミンCが万能薬だと広く語られるようになったのは1970年代のこと。

 

 

ノーベル賞を2度受賞した化学者の

ライナス・ポーリングが著書

『ビタミンCとかぜ, インフルエンザ』で、

1日3000ミリグラムのビタミンCを摂取すれば、

風邪の予防をはじめ、

骨折から

狂犬病

精神疾患まで、

ありとあらゆる病気に効く

というメガビタミン療法をすすめたからだった。 

 

 

 ポーリングは個人的な体験と意見を述べただけで、

主張に科学的な裏付けはなかったものの、

著書は米国でベストセラーとなった。

 

 

その結果、ビタミンCを大量に摂取すれば、心臓病やがんといった深刻な疾患を遠ざけて長く健康に生きられ、サプリメントでビタミンを大量に取るのは健康によいという誤解が広まってしまった。  では、ビタミンCをたくさん取っても風邪には影響しないのだろうか。また、そもそもビタミンCにはどんな役割があるのだろうか。次に説明するように、現在ではさまざまな証拠が積み重なり、ビタミンCの健康への効果について多くのことが明らかになっている。

 

 

 

 

大量に取っても風邪を予防できないが、風邪を引いたあとには影響も

 まず前提として、

 

2020年10月に学術誌「Frontiers in Immunology」に発表された

レビュー論文によれば、

 

ほとんどの研究で、

 

オレンジジュースやビタミンCのサプリメントをたくさん飲んでも、

 

風邪に対して大きな効果は認められていない。

 

 

 

 

実際に、1日の推奨量

(米国では男性は90ミリグラム、女性は75ミリグラム。日本では男女ともに100ミリグラム)の何倍もの量を摂取しても、

大多数の人の健康が増進するわけではない。  

 

 

 

なぜかと言えば、

1000ミリグラム以上のビタミンCを摂取しても、

体は効果的に吸収できず、

尿として排出されるからだ。 

 

 

「ビタミンCがそもそも不足している人や、極端に運動量が多い人を除けば、ビタミンCを大量に摂取しても、通常の風邪を予防したり、症状を緩和したりする効果はありません」。

 

 

米ハーバードT・H・チャン公衆衛生大学院の栄養学教授で、

米ボストン小児病院栄養センター長を務めるクリストファー・ダガン氏は、

その証拠はたくさんの臨床試験によって積み重ねられてきたと話す。  

 

 

ただし、一時的な大量摂取で風邪は予防できなくても、

 

 

ビタミンCをある程度摂取し続けていると、

 

 

風邪の期間が少しは短くなるという報告はある。

 

 

 

  ビタミンCを毎日200ミリグラム以上摂取している人は(ほとんどの例は1000ミリグラム)、実際に、成人で8%、子どもで14%早く治るとするレビュー論文が、2013年に信頼度の高い医学的な情報をまとめるデータベース「Cochrane Database of Systematic Reviews」で公表されている

 

 

 

 

ビタミンCの重要な役割とは

たんぱく質、炭水化物、脂質など、総合的な栄養の指標に使われる食ベ物を示した写真。ビタミンCはブロッコリーなどアブラナ科の野菜に多い。(PHPOTOGRAPH BY MARK THIESSEN/NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 

 

 

 

 ビタミンCは万能薬ではない一方で、健康にとって不可欠な栄養素であることはたしかだ。

 

 

ダガン氏は、

「ビタミンCは体でさまざまな役割を担っています」と言う。 

 

 

 ビタミンCは

 

アスコルビン酸とも呼ばれ、

免疫系にとって重要な働きを持つことはよく知られている。

 

 

「ビタミンCは、

インターフェロンというタンパク質の生産を促進します。

 

このインターフェロンが、

細胞をウイルスから守るのです。

 

さらに、ビタミンCは白血球、

とりわけ病原体を飲み込む食細胞を活性化させ、

 

感染症と戦うその他の免疫細胞の活動も刺激します」と、

 

 

米国立衛生研究所の栄養補助食品室長を務める

ステファン・パシアコス氏は言う。 

 

 

 

 ビタミンCは

コラーゲンの生成にも使われる。

 

コラーゲンは、

骨や筋肉、

そして、心臓病や心臓発作の予防

 

に貢献するより強い血管を作るうえで重要なタンパク質だ。

 

 

また、コラーゲンは

皮膚にとっても不可欠で、

傷を治し、

傷あとの組織を作る結合材となるほか、

たるみ、

しわ、

しみ、

にきびを防ぐ効果もある。  

 

 

 

スキンケア製品に

ビタミンCがよく使われているのはそのためだ。

 

ビタミンCと日焼け止めを併用すれば、

日焼けによる有害な影響から肌を守る効果が得られるという報告もある。  

 

 

ビタミンCには、

抗酸化物質として、

がんや心臓病につながる体内の「さび」を取り除く働きもある。

 

 

さらに、ビタミンCは

脳や神経系にとって重要な化学伝達物質やホルモンの生成を促すので、

 

ストレスや不安の軽減につながる可能性がある。

 

 

また、白内障を予防したり進行を遅らせたりする、

 

痛風の原因となる尿酸値を下げる、

といった役割についての研究も行われている。

 

 

 

 

 

十分な量のビタミンCを取るには? 過剰に取るとどうなる?

 
 
 

100歳以上の割合が高いイタリア、カラブリア州の高齢者が育てた野菜と果物。「天然のビタミンCを摂るなら一番のおすすめは野菜と果物です」と専門家。(PHPOTOGRAPH BY JASPER DOEST/NAT GEO IMAGE COLLECTION)

 

 

 

 

 

 ビタミンCは、体内で作ることも蓄えることもできないため、外部から常に摂取する必要がある。 「天然のビタミンCを摂取するなら、一番のおすすめは果物と野菜です」と話すのは、

 

 

一般診療を専門とする

米メイヨー・クリニックのジェシー・ブラカモンテ氏だ。

 

「柑橘類

(オレンジ、

グレープフルーツ、

レモン)、

 

 

ピーマン、

 

トマト、

 

アブラナ科の野菜

(ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー)

 

 

といった食品が理想的です」。

 

 

 

また、ビタミンCは朝食用の

シリアルなどの強化食品にも含まれている。 

 

 

「1日分のビタミンCは、

オレンジ1個か

カップ1杯のイチゴで十分です」

とブラカモンテ氏は話す。

 

イチゴ1粒にはおよそ10ミリグラムのビタミンCが含まれており、

100ミリグラムなら約10粒分になる。

 

 

なお米国立衛生研究所によると、

喫煙者は1日35ミリグラムのビタミンCが追加で必要になる。喫煙によって、ビタミンCを吸収する能力が低下しているからだ。  

 

 

日本では摂取の上限量は設定されておらず、

米国のビタミンCの摂取上限量は、

成人で1日2000ミリグラムだ。

 

ほとんどの人はこれを超えても問題はないが、

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、

腎臓の機能に障害のある人は腎臓結石ができやすくなると注意をうながしている。

 

 

また、中には腹痛や下痢が起きたり、まれに高コレステロールを抑制するスタチンなどの薬が効きにくくなったりすることもある。  

 

 

ダガン氏によれば、十分なビタミンCを取ることは極めて重要だが、先に述べたように過剰摂取してもほとんど効果はない。

 

「ビタミンC不足のリスクがある場合は別としても、ほとんどの人は通常の食事で十分です。

 

 

 

一般論としては、

サプリメントに頼るのではなく、

バランスのよい食事で栄養を取り、

健康を維持するのが理想です」 

 

 

 

※この記事はナショナル ジオグラフィックとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

文=BRIAN HANDWERK/訳=鈴木和博

 

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