2度目の失態を恐れた現場代理人らが隠蔽を主導、横手駅前ビルの施工不良
奥山 晃平
日経クロステック/日経アーキテクチュア
秋田県横手市のJR横手駅東口で進む再開発事業。完成間近だった複合ビルで施工不良の隠蔽が発覚するまでの詳しい経緯が2023年10月11日、TMI総合法律事務所(東京・港)による第三者調査で明らかになった。
施工JV(共同企業体)の代表企業である横手建設(秋田県横手市)の現場代理人と監理技術者は22年10月時点でアンカーボルトの施工不良を知ったにもかかわらず、工期などを優先し、是正や設計・監理者への報告をせずに工事を進めた。過去に同じ再開発事業の他棟で施工不良が生じた際、対応に忙殺された現場代理人は「2度目はない」と感じて報告に踏み切れなかったという。
「皆様に多大なご迷惑をおかけした。心からおわび申し上げる」。横手建設の武茂広行社長は、23年10月11日に開かれた再開発組合の理事会で深々と頭を下げて謝罪した。
2023年10月11日の再開発組合の理事会で、第三者調査の結果を公表。施工JVは改めて謝罪した。左が伊藤建設工業の中村清昭社長、中央が横手建設の武茂広行社長、右が半田工務店の半田茂志会長(写真:日経クロステック)
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この再開発事業は公益施設、事務所やホテルなどの複合施設、分譲集合住宅などを建設する総延べ面積約2万8400m2のプロジェクト。実施主体は、事業地区内の地権者でつくる横手駅東口第二地区市街地再開発組合だ。総事業費は約110億円に上る。
施工不良の隠蔽があったのは、地上7階建ての複合施設「B-1棟」。延べ面積は約7500m2、構造種別は鉄骨造、工事費は約26億円だ。施工者は横手建設・半田工務店・伊藤建設工業JV。22年6月に着工し、発覚時には工事が完成間近まで進んでいた。
B-1棟では、鉄骨柱を1階の基礎コンクリートと固定するためのアンカーボルトを誤って65mmずれた位置に設置。施工者はそのずれを吸収するため、1階から3階まで長さが10.5mある鉄骨柱1本を0.275度傾けた。その上で、柱の傾きに合わせて2階の梁(はり)の端部を切断したり、柱と梁を接合するボルトの穴を新たに開けたりした。
再開発組合は23年9月6日の理事会で、傾いた柱を正しい位置に設置し直すことを決定。工事は横手建設JVが担当し、費用も負担する。工事は10カ月ほどかかる。完成は当初の予定から1年以上遅れる見通しだ。
施工不良の隠蔽が発覚したJR横手駅東口の再開発ビル(写真:日経クロステック)
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横手建設の現場代理人と監理技術者は、それぞれ工事全体の管理、技術面の管理を担う責任者でありながら、なぜ自ら施工不良の隠蔽に手を染めたのか。第三者調査の結果を基に詳しく経緯をたどろう。
調査によると、B-1棟のアンカーボルトが何らかの原因でずれていると判明したのは、設置直後の22年9月末から同年10月4日までの間だ。JV職員から施工不良の報告を受けた2人は対応を協議したものの、すぐには結論を出すことができなかった。一方、このJV職員は工事のやり直しを提案したり、自社の役員に対応策を相談したりしたが、最終判断は現場代理人らが下すと考え、それ以上の対応を取らなかった。
現場代理人と監理技術者が22年10月4日、協力会社3社に施工不良について伝えたところ、翌5日の打ち合わせで協力会社から基礎を壊して再施工する提案があった。しかし2人は、鉄骨の搬入開始を目前に控え、工事を中断して施工不良を是正する決断を下せなかった
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